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第二十六話 現人神

(試してみるもんだな)


 悠希は名乗りを上げながらも、己の先ほどの行動を自画自賛した。


 神世大戦というゲームでは、対戦時に山札の変更などできない。

 ゲームでは当然の仕様だが、この世界でもその仕様が適用されるのかとふと疑問に思った。


 黒之小鬼を山札へ入れた時は一度、大口真神の【神降ろし】を解き、巫術の発動を解除した。

 そして、神書を開いて山札に黒之小鬼を入れると、再度大口真神を【神降ろし】したのだった。


 しかし、今は巫術を解くわけにはいかない。

 悠希の姿が視認されてしまう。


 巫術を止めずに神書を開き、山札設定を試みたのだった。


 結果は成功。

 新しく獲得した【神降ろし】黒之鬼を山札へ入れることが可能だった。


 それと同時に、効果を発動し終えて幽世へ移った【加護】鉄壁については、入れ替えができないことも確認した。

 使用中の勾玉も入れ替えはできなかった。

 巫術の発動を解かない限り、使用した神符は山札から外せないことになる。


 これらを確かめられた意義はとても大きい。

 戦闘中に、相手に合わせて手札を変えられるのだから。


 現在の悠希の山札は次の通りである。


========================================

天属性

 【勾玉】黄玉 四枚

 【神降ろし】金鵄きんし

 【神降ろし】建御雷之男神たけみかづちのおのかみ


地属性

 【勾玉】翠玉 四枚

 【神降ろし】緑之小鬼

 【神具】銅剣

 【加護】鉄壁


陽属性

 【勾玉】紅玉 四枚

 【神降ろし】奥津日子神おきつひこのかみ

 【呪詛】鬼火

 【禁厭】浄火


水属性

 【勾玉】蒼玉 四枚

 【神降ろし】夜刀神やとのかみ

 【神具】水鏡


和魂属性

 【勾玉】白玉 四枚

 【神降ろし】大口真神おおくちのまがみ

 【加護】癒しの霊薬

 【加護】陽炎稲妻水の月


荒魂属性

 【勾玉】黒玉 四枚

 【神降ろし】黒之小鬼

 【神降ろし】黒之鬼

 【禁厭】影武者

=======================================


 【神具】黒金棒も山札に加えたかったが、上限の四十枚を超えてしまうため泣く泣く諦めた。


(俺だけリポップ確定。大禍津日神に加えて、黒之妖鬼が残り八柱。……割とキツイな)


 そんなことを考えている悠希に、夏月が感心の声を上げる。


「神代。聞いたことのない地名だな。神を冠するとは大胆なことだ。……もっとも、六属性全てを操れるなら、それも許される、か」


 悠希は夏月の言葉を図りかねた。


(ん?さっきこの夏月って巫女は五属性だと確信してたはず。何で、俺が全属性だと分かったんだ?)


 悠希は首をひねる。


 【加護】陽炎稲妻水の月は天・陽・水・和魂の四属性。

 【神降ろし】黒之小鬼、【神降ろし】黒之鬼が荒魂の一属性。

 残るは地属性だが――


 悠希はふと緑之小鬼を見つめる。

 【神具】銅剣と【加護】鉄壁を使ったことを思い出す。

 これらの神符の属性を思い出して、悠希は頭を抱えそうになったところをかろうじて思い留まる。


(……コンプリート……やっちまった)


 盛大にやらかした自覚を持ったが、そんな心境は鉄面皮でひた隠しにする。


「全ての属性を操れる巫など聞いたこともない。そんな男が一國とはいえ、瑞流波に従う道理もなしか。貴殿を疑ったことをお詫びする」


 戦いの最中だというのに、夏月はこちらへ素早く頭を下げてきた。


(ふーん。瑞流波は國名だったか。ま、どうでもいいけどな)


 悠希は鷹揚に応えてみせた。


「構わない。瑞流波と関りがないことを証明しろって言われても無理だからな。納得してもらえたなら、それでいいさ」


 悠希と夏月はそれぞれ黒之妖鬼へと向き直る。


『貴様、何者だ?』


 二人のやり取りに沈黙を貫いていた大禍津日神が、唐突に口を開く。


 この神も喋るのかと悠希に緊張感が沸き起こる。


(八岐大蛇とこいつ、邪神に取り憑かれた神には、喋る奴と本能のままに動く奴と二種類いるのか?)


 それがどういう意味を持っているのか、悠希にはまだ分からない。


「神代の悠希って言っただろ」


 声で居場所を悟られないよう、大口真神を静かに歩かせながら言葉を返す。

 悠希を乗せた大口真神が移動すると、【加護】陽炎稲妻水の月によって、創り出された半透明の半円も合わせて揺れ動いた。


 大禍津日神は歯ぎしりする。

 いや、大禍津日神に取り憑いている邪神が苛立っているのだろうか。


『貴様、本当に人間か?』


「失礼な。どっからどう見ても、人間だろうが」


 悠希は余計な情報を言わないよう細心の注意を払いながらも、敢えてぞんざいに応対する。

 挑発ともとれる言動で、情報を引き出したい考えであった。


(邪神の事情は少しでも知りたいしな)


『……あり得ぬ……六つの属性を操るなど人の身に余るはずだ……神でさえ、全属性を操れる存在などほんの一握りなのだぞ……』


 大禍津日神は悠希の存在を認められないようだった。


(そりゃ、異世界人で、しかも神使だからな。現地人には確かに無理かもしれないが、そんなことは知ったことじゃないんだよ)


 悠希は己の心情をおくびにも出さないで、平然と事実のみを伝える。


「そう言われてもな。実際に使えるんだから、しょうがないじゃん?」


 大禍津日神が何度も頭を振る。


『あり得ぬ。あり得ぬ者がこの現世にいる。それに、先ほどの異質な能力。貴様、まさか――』


 悠希は興味のない振りをして、邪神の言葉を聞く。


現人神あらひとがみなのか?」


 大禍津日神の問いかけに、夏月が絶句していた。


(……ほぉ、そうきたか。まぁ、惜しいといえば惜しい。神使だが、神の名が付いているという点だけは合ってる。邪神は俺について何も知らない。これが知れただけでも十分か)


 この世界に住まう者であれば、例え邪神であろうと異世界という概念にはたどり着くことは不可能だろう。

 悠希は肯定も否定もせず、不敵に笑う。


 その様子を見届けると、狼狽えていた大禍津日神が一転して吼えた。


『そこの小娘は後だ!黒之妖鬼よ、その男を血祭りに上げよ。絶対にだ!手段は問わん!必ず殺せ!!』


 大禍津日神はそう言い捨てると、彼の身体が宙に浮かび上がる。

 そして、来た時と同じく、彼の上空に闇が広がる。


 闇の中に消えていった大禍津日神を見て、悠希は言葉もない。


(俺に神符化されないよう逃げ帰ってる風にしか見えないんだが?ボス感満々で来た割には、小物感マシマシで帰っていったな)


 悠希としては呆れながらも、ありがたいと思う。

 攻撃力、防御力ともに《四》の相手と連戦するのは、気が引けるどころではなかった。


 大禍津日神を飲み込んだ闇はすぐに消失し、それと同時に夏月と戦っていた黒之妖鬼までもが悠希に向き直る。

 黒之妖鬼たちは悠希の姿を捉えているわけではないが、闇が消えた空間を気にしている場合ではなかった。


 悠希は緩やかに移動しながらも、思わずため息が漏れる。


(はぁ。美女に囲まれるなら戦場以外が良かったな。しかも、全員同じ顔。いくら美人だからって喜べやしねぇ)


 悠希は心中で毒づきながらも、警戒は緩めない。


 黒之妖鬼は彼の記憶通りであるならば、攻撃力《二》、防御力《三》である。

 しかも、彼の記憶通りであるならば、以下の効果を持っている。

 一ターンに一度、敵一体を魅了して攻撃不可とする。この効果は相手ターンにも発動できる。


 ターン制の概念が崩壊した今、その効果は絶対に軽視してはならない。

 八柱の黒之妖鬼が悠希を標的に変えたのだ。

 倒しても即時リポップが確定した今、まだまだ手札が万全ではない悠希には油断などできるはずもない。


(さあ、どう来る?一柱攻撃を封じられたとしても、速攻で他の神を神降ろしして攻撃してやるぞ!それで、どうにもならなかったら、もう知らん!戦略的撤退だ!)


 悠希は玉砕ではなく、撤退の覚悟を決めた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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