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第二十三話 戦巫女

 悠希は大口真神の背中から飛び降り、地面に落ちていた新たに獲得した神符の内容を確認する。


========================================

 【神降ろし】黒之小鬼くろのこおに

 神格《鬼神》

 属性《荒魂》

 黒玉《一》消費。

 攻撃力《一》。防御力《一》。

========================================


 悠希の知識と合致する情報だった。


(ま、そりゃそうだよな)


 緑之小鬼の神符を得た時から分かっていたことだった。


 彼は再度白狼の背中に跨り、探索を再開する。


 大口真神の背中に乗ってさえいれば、余程のことがない限り安全だろうと判断している。


 飛行タイプの邪神――鳥神など――は要警戒だが、大口真神が気づかないことはないだろう。


「そろそろか?」


 正確ではないが、大口真神がかなり移動してくれた。

 恍月の位置を最後に神気自動車で確認した時から考えても、もうその付近までたどり着いたはずである。


 悠希は思考に没頭する。


(星一つの恍月を探索せよ、は多分クリアできる。問題は星二つの孤軍奮闘する戦巫女を手助けせよ、だ。その戦巫女を見つけられなきゃ話が進まない)


 悠希は神気自動車のおかげで、恍月の位置を特定できた。

 しかし、場所は特定できても、さすがに人物は特定できない。


 実際にその地へ赴き、見つけ出す必要がある。


(その方法なんて、正直見当もつかない。でも、やるしかない)


 しかし、その悩みは杞憂に終わる。


 大口真神が徐々に速度を落とし、やがて停止する。


 走り抜けた先の眼下には、社があった。


 悠希は目的地にたどり着いたが、安堵の吐息をつく余裕はなかった。


 筋骨隆々な大男と、妖艶な美女といえる鬼神おにがみがそれぞれ十柱いたのだった。

 黒之小鬼は額の真ん中に小さな一本角があったのだが、悠希の眼前の鬼神たちは一対二本の角が生えていた。

 筋骨隆々な大男の鬼神は牙のように太く鋭く、美女の鬼神は細長く鋭く、どちらも凶器となりえる角だった。


(……おいおい)


 神世大戦において、神は基本的に一柱しか手に入らない。

 課金するか、または他のカードパックに手を出さず、同じカードパックにて神々之恩寵を使えば、同じ神を手に入れることはできる。


 しかし、山札には同じ神を三枚しか入れることはできない仕様となっている。

 つまり、同一の神を場に出せるのは三柱となる。


 それにも関わらず、目の前には同じ神が十柱いる。

 悠希の常識がまたも崩される時間が到来した。


(ゲームならともかく、現実で同じ神が複数いるはずがない。邪神の仕業か?夜刀神の分霊わけみたまのような能力を使えるのか?)


 悠希は推測しながらも、二柱の鬼神の能力を思い出す。


========================================

 【神降ろし】黒之鬼くろのおに

 神格《鬼神》

 属性《荒魂》

 黒玉《二》消費。

 攻撃力《二》。防御力《二》。


 【神降ろし】黒之妖鬼くろのあやおに

 神格《鬼神》

 属性《荒魂》

 黒玉《三》消費。

 攻撃力《二》。防御力《三》。

 一ターンに一度、敵一体を魅了して攻撃不可とする。

 この効果は相手ターンにも発動できる。

========================================


(黒之鬼に固有能力はない。だから、十柱いるのは、邪神の能力ってことになるよな。それはそれとして、黒之妖鬼の能力だが、ターン制がないこの世界じゃ、どうなる……?)


 少し疑問を抱くが、それどころではないと思い直す。


 合計二十に至る鬼神たちは社には手を出さず、一人の巫と戦っていた。


 その巫は、凛々しくも美しい、十代後半くらいの少女だった。


 長い黒髪を一つに結び、ポニーテールにしている。

 何となくだが、つり目で強気な性格をしているように見える。

 彼女の服装は、悠希がよく漫画やアニメで目にする白衣はくえ緋袴ひばかまの巫女装束だった。

 赤い手甲を装着した両手で真紅の刀を握り、ある時は鬼神の攻撃を受け流し、またある時は鬼神の身体を切り裂いている。


 そして、彼女が巫であると一目で確信できる理由は、彼女が身に纏う炎だった。

 彼女自身が焼かれているわけではない。巫女装束に焦げ目がつくこともなく、火傷に苦しんでいる様子もない。

 火炎が彼女を守っているように見えなくもない。


(あれは、斎火いむびなのか?)


 悠希は思い当たった神符の効果を思い返す。


========================================

 【加護】斎火いむび

 属性《陽》

 紅玉《二》消費。

 陽属性の神のみ発動可能。この加護を受けた神は、呪詛の効果を無効化する。

========================================


 その発動条件によって、彼女は重兵衛と同じく武士型の巫ということになる。


(何らかの陽属性の神を神憑りして、斎火を発動させているから、黒之妖鬼の魅了を防いでいるんだろうな。もしかしなくても、あの刀も神具なんだろうな。知らんけど)


 普通の人間が鬼神と戦うことはもとより、鬼神の呪詛を防ぐことは不可能である。

 そして、鬼神を斬れるということは、真紅の刀が通常の武具であろうはずもない。


 悠希の知らない神具――神符――がある。神世大戦とは似て非なる世界であることを改めて痛感した。


 二十対一という絶望的な戦力差であるが、戦況は意外にも膠着状態だった。

 連携することもなく本能のままに敵を殺そうとする鬼神たちに対して、巫女の少女は必ず一対一の状態にて戦えるよう立ち位置を常に変えていた。

 少女は至って冷静だった。


 強い。それに、戦い慣れている。

 凶悪な形相の黒之鬼に怯むこともなく、黒之妖鬼の妖しい笑みに惑わされることもなく、冷徹に戦いを繰り広げている。


 悠希が名も知らぬ彼女に抱いた感想だった。

 戦いにど素人の彼にさえ、歴戦の強者たる風格を感じさせられた。


(こりゃ、見た目に騙されて気軽に話しかけたりしたら、内容次第で呆気なく殺されるな)


 見た目と強さは関係ない。

 悠希は認識を改めた。


(あの子が神託にあった戦巫女でいいんだよな?どっからどう見ても、孤軍奮闘してるし)


 社の中に彼女の仲間がいるのかもしれない。

 だが、現状でいえば、戦っている巫は彼女しかいなかった。


 手助けとはこの戦闘に介入せよということなのかと疑問に思う。


 確かに悠希が加勢すれば、彼女の負担は多少軽減されるかもしれない。

 ただ、悠希としては己の手札にまだ戦力が足りているとは思っていない。


 一柱二柱は倒せるかもしれないが、それ以上と戦うとなると足手まといになりかねない。


 それに、今の戦巫女に余裕はまだありそうだ。


 加勢が手助けとなるのか、悠希には判断が付かなかった。


(ん?)


 そんな時に、悠希は見過ごせない問題が発生した。


 戦巫女が黒之鬼を続けざまに二柱斬り倒した。

 そこまではいい。


 しかし、黒之鬼が復活しない。リポップしない。

 その二柱とも消えたままだった。


 そんなはずはなかった。


 黒之子鬼を倒した際は固有能力【弱肉強食】が一発目でいい仕事をした――黒之子鬼の神符を獲得した――から連戦しなかっただけである。


 夜刀神の時は問答無用で連戦になったのだから。


 そんな悠希の思いは届かない。


 戦巫女が今度は黒之妖鬼の一柱を一撃で屠った。

 しかし、黒之妖鬼はいつまで経っても復活しない。


 ついでだが、今の彼女の攻撃力が三以上であることは確定した。


(まさか、オリジナル要素の鬼神だけはリポップ対象外ってことか?……まさかまさかだが、邪神が即座にリポップするのって、俺限定ってことはないよな!?)


 恐ろしい仮説の前に震えが止まらなくなり、悠希は加勢どころではなくなってしまった。


 下手に加勢してリポップしたら、加勢されたという思いから一転して油断させるための策かと邪推されかねない。


 悠希自身、そう思ってしまいそうだと自覚している。


(こんな予想外の事態に襲われるとは思ってもみなかったぞ……)


 悠希は徐々に優勢になっていく戦巫女の姿を見つめながらも、呆然と立ち尽くしていた。


お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも興味をお持ちいただけたら、

ブックマークと星を入れていただけると、嬉しいです。

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