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第二十一話 専用の神託

 悠希が帰還した後、氷見華と小百合は仲良く放心していた。


 その二人を重兵衛は苦笑いを浮かべながら見守っていた。


 姉妹が我に返ると、三人は楔の間を後にする。


 応接室へ場所を移すと、氷見華が重兵衛を問い質す。


「重兵衛、あいつは一体何者なの?」


 重兵衛は肩をすくめる。


「さてな。皆目見当もつかない。だが、瑞流波みずるはの巫ということはあり得ない。今なら分かるだろう?」


 自身を宙に浮かべ消える巫術など見たことも聞いたこともない。

 それは三人の共通する認識だった。


 瑞流波の巫がそんな摩訶不思議な巫術を使えるとは到底思えない。


 氷見華が渋々と認め、次いで嘆息する。


「何なのよ?あいつは。八岐大蛇を目にしたってのに、助けてやるなんて豪語できる巫がいるとは思ってもみなかったわよ」


 すでに氷見華には悠希に対する悪感情は薄れてきている。

 その代わりに、悠希の非常識さを意識することになってしまったが。


「う、うん。私も驚いちゃった」


 小百合が悠希とのやり取りを思い出しながら、戸惑い気味に姉の言葉を首肯する。


 氷見華が助けを求めると、間を置かずに助力を申し出た彼の姿が目に浮かぶ。


 氷見華も小百合も、もしかしたらと甘い期待を抱いてしまった。


 頼み込んだ重兵衛すらも、あっさりと承諾を得て驚いていた。


 託宣を疑うことはなかったが、その対象となった悠希がどんな選択をするか、重兵衛はもとより事代主神ことしろぬしのかみでさえ関知できないはずである。


 重兵衛にとっては嬉しい誤算ではあるが、困惑しないわけがなかった。


 実のところ、悠希は無表情を取り繕っていただけだった。

 強大な八岐大蛇の殺気に当てられて表情筋が強張っていたからこそ、恐れや動揺を周囲に悟らせなかったのだ。


 しかし、氷見華たちからすれば、何の気負いもなく助けると言い切っていた悠希の姿はとても眩しかった。


 重兵衛はそんな二人の様子に満面の笑みを浮かべた。


 八岐大蛇を鎮めるためには、悠希の協力は必要不可欠だった。

 だが、姉妹が協力を拒めば、蛇神の鎮静化は夢のまた夢になってしまう。


 それゆえに、姉妹が受け入れる態度を示したことに、重兵衛は内心で安堵したのだった。


(後、やるべきことは)


 重兵衛には悠希がいつ戻ってくるのか分からない。

 全く分からないが、彼が来訪した際に何度も不快な気分に晒されるのはまずいと思い、口を開く。


「氷見華嬢。巫だけではなく民全員に、彼に対する無礼は許さぬと通達すべきだ。異論は?」


「……ないわ」


 氷見華が悠希を敵に回してはならないと認めた瞬間だった。


「重兵衛、彼女を呼んできて」


「了解だ」


 重兵衛は一つ頷くと、応接室を後にした。


◇◆◇◆◇◆


 一方、その頃――。


「やっちまった……」


 悠希は氷見華たちの望外な評価に気づくこともなく、異界の部屋にて膝から崩れ落ちていた。

 どんよりした雰囲気が漂っている。


 今の悠希には神書を使えない。


 告知のページには「荒狂河専用の神託を反映中です。しばらくお待ちください」の文字が書き込まれている。


 神託の確認等、建設的なことが何もできない悠希に現在やれることは、ひたすら後悔に打ちのめされることだった。


 助けてやるなどと偉そうにのたまってしまった。

 後戻りできない事態に、他ならぬ自分自身が追い込んでしまった。

 自らの迂闊さを呪う。


(その場のノリがあんなに恐ろしいものだったなんて……)


 八岐大蛇に圧倒されたり、氷見華の悲痛な叫びに心揺さぶられたりと、盛り沢山の展開にコロッと惑わされてしまった。

 あろうことか、雰囲気に流されてしまった。


 氷見華たちがもし見れば、今の悠希は幻滅すること間違いなしの情けない姿だった。


「やり直し、効かないかなぁ!?」


 悠希は拝むように手を合わせる。


「起死回生の神託をください!いや、マジで!八岐大蛇に食われるなんて冗談じゃない……」


 その後しばらく畳の上で転げ回っていると、ようやく神書が使用可能になった。


 その頃には悠希も落ち着きを取り戻してきた。

 開き直ったともいえる。


「はぁ。足掻くのは神託を確認してからだな」


 悠希が神書の二ページ目にある神託を選択する。


 通常の場合、神託のページは左側に星型の記号が一つから四つまで、右側のページに星五つから八つまで記号のみ描かれている。


 しかし、今回は星型の記号一つから四つが右側に移動しており、左側には荒狂河専用の神託が記載されていた。


 悠希は恐る恐るその内容を確認した。


========================================

恍月ほのづきを探索せよ

★★

・孤軍奮闘する戦巫女を手助けせよ

★★★

・八岐大蛇を封ずる禁厭を獲得せよ

========================================


「ふむ」


 悠希は思案する。


 相変わらず見知らぬ地名である。

 その点は置いておいたとしても、探索するだけなら容易だろう。

 しかし、おそらくその地域の人物と関わらなければ神託は達成されないと推測した。


 そして、関わるべき人物が戦巫女なのだろう。

 手助けの内容は不明だが、邪神との戦闘が一度はあると考えた方がいい。


(氷見華を助けるって宣言したんだ。それなら、諸悪の根源らしい禁厭は敵対勢力が持ち続けるより、俺が持つ方がいいわな)


 悠希は立ち上がる。


「とりあえず、行ってみるか」



遅筆ですみませんが、

気長にお付き合いいただけたら嬉しいです。

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