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第二話 最悪の目覚め

『二日目の特典として、神霊玉を五つ獲得しました』


 唐突に告げられた言葉で、悠希は目を覚ます。

 他人の声をこれほど不快に思ったことは初めてだった。声の主は他神なのかもしれないが、彼にとっては知ったことではない。


「クソ。人生最悪の目覚ましだ。間違いなく」


 悠希は不機嫌そうに吐き捨てた。

 謎の声のせいで、彼は覚醒した直後から現状を思い出していた。


『神使となることに成功しました。固有能力が付与されました』


 彼の言葉を無視して、どこからともなく聞こえてきた言葉に苛立ちは募るばかりだった。


 しかし、その内容は聞き流せなかった。


(神使と固有能力だと?って、成功って何だよ?失敗してたら、どうなってたんだ?)


 悠希は身の毛がよだつ。


 考えたくもない結末を押し殺し、現状把握に努める。


(俺は、どれくらい気を失っていたんだ?さっきは、二日目って言ってたから、日付が変わったらしいが)


 目を覚ましてからもいまだに頭がズキズキと痛い。後遺症が残らなければいいと彼は深刻に思う。


 ノロノロと起き上がりながら、思考を切り替えることにした。


 頭に無理やり叩き込まれた知識が正しいのか、確認する必要があった。


 見知らぬ和室を出て、外の景色が一望できる廊下へ出る。


 屋外の景色を視界に入れると、悠希は足を止める。


「予想どおりといえば予想どおり。できれば、合っててほしくはなかったがなぁ」


 気絶する前に植え付けられた知識によって予想していたが、実際に目にすると心を抉る光景が広がっていた。


 この建物の周囲は濃霧が立ち込めていて、一寸先さえまるで見通せない。


 神々が住まう高天原でも、人々が住まう大和でもない。外界から途絶された人々に知られざるやしろ


 そこが悠希の居場所だった。


「ああ、はいはい。そうデスか……」


 悠希はしばらくの間微動だにできなかったが、ようやく声を絞り出した。諦観を抱きながら。


(俺を召喚したのは本当に神だろうか?悪魔じゃないのか?)


 ここが異世界であることも、知識が少なくともでたらめではないことも理解した。


 知るはずのない知識によれば、ここが悠希の本拠地ということになる。


 住人は悠希だけである。


 あるのは住居だけ。食糧はもとより水さえない。


 ならば、悠希はどうやって生活するのか?まず、食事をどうするのか?


 それらの答えは神符にあった。


 神符とは大別すると、六種類ある。

 勾玉、神降ろし、神具、加護、呪詛、禁厭きんえんである。


 勾玉は他の五種類の神符を発動するための媒介として用いられる。媒介なくして、巫術の発動はあり得ない。


 つまり、勾玉がなければ、巫はどんな巫術も発動できないのであった。


 他の神符のコストとして使用すれば、その勾玉は使用することはできない。

 ただし、その神符を解除すれば、再度使用可能となる。


 そして、神降ろしという神符は、八百万の神々が該当する。


(俺のじゃないこの記憶が正しければ、神降ろしに俺を生かす答えがある)


 神符の中には飲食物や生活用品を用意できる神がいるのだと記憶が謳っている。

 初期山札の中には、それに該当する神々がすでに何柱か入っているらしい。


 他には悠希に対して、神託が下る。より正確にいえば、もう下っている。

 誰かを助けろだの、どこぞの邪神を討てだの。


 その神託――依頼といえるかもしれない――を成功させれば報酬が得られる。


 報酬は戦力となる神符だが、同時に日常生活を向上させる神々でもあるということになる。


 そういう仕組みになっているらしい。


 つまり依頼を成功させ続けなければ、悠希は生活環境を整えられずに死ぬ可能性がある。

 飲食物があっても、病気などにかかってはどうしようもない。

 医術の神という神格を持つ神符などをなるべく早く手に入れる必要があった。


 もはや悠希には依頼を受けないことも、受けて失敗することも許されない。


 まさか、誘拐犯が異世界の神とは思ってもみなかった。

 その手の類の漫画や小説ならば結構読んでいるが、自身に降りかかるとは想像もしていなかった。


 兎にも角にも、これから生きるための方針を練らなきゃいけない。


「とりあえず、こいつの確認はしとくか」


 目の前に静止しているA5判くらいの大きさの本――神書――に意識を向ける。


 悠希にとって、現状では唯一の手札であり切り札となっている神符の効果は、最優先で知っておかなければならない。


(さて、鬼が出るか蛇が出るか。……まぁ、神が出るんだろうが)


 一瞬虚しくなった悠希だが、改めて神書に意識を向ける。スマホで見ていた神書を現実で見せられて少し不思議な気分になった。


 激痛さえ伴わなければ、彼のテンションは確実に上がっていたことだろう。


 最初のページを開くと、次のように記載されていた。


========================================

 名前    :神代悠希

 位階    :一

 固有能力  :【弱肉強食】

 (神使) 

 固有能力  :【強制回帰】

 (異界の巫) 

 神霊玉   :五

 所持神符数 :三十


 神託

 神々之恩寵

 所持神符一覧

 山札設定

 報酬一覧

 実績一覧

 告知

========================================


 本の左側の一ページ目に、名前から所持神符数が記載されている。

 右側の二ページ目に神託から、告知までタイトルが並んでいる。


 本名がいつの間にか登録されていると、悠希は内心で愚痴る。


(人智を超えているにもほどがあるだろ)


 いや、神ならこれくらい造作もないことなのかと思い直す。


 気になることが山ほどあり過ぎて、どれから確認するか彼の頭がパンクしそうになっていた。


(神使にしてくれたのはありがたい。激痛は二度と味わいたくないが。ただ神使ってのは文字どおり神の使いだったはずだ。どの神の使いなのか、これだけじゃ分からないぞ)


 先ほど悠希に語りかけてきた神の使いなのだろうかと推測するが、声の主が神であるかどうかも定かではない。


「ともあれ、神使は動物であって、人間はいなかったはず。俺が人類初の神使ってわけか。まぁ、人間も動物の一種っていうのは置いといて」


 人類初の神使という言葉に、悠希の気持ちも自然と高揚する。

 自身が置かれた立場に対する現実逃避に近かったが、悠希は無理やりにでもテンションを上げたかった。


 気持ちが沈んでいても、現実は変わらない。

 生きるために考えなければならない。そして、実行しなければならない。


 まず、情報を整理することにした。


 神霊玉。今日の目覚ましとなった、二日目の特典である。

 これはガチャ――神々之恩寵――を回すために、必要なキーアイテムである。

 ガチャには一回と十連があるが、一度回すのに、神霊玉が五つ必要となる。

 ガチャを一回回せる分が今日の特典だったことになる。


 悠希は与えられた二つの固有能力を確認することにした。

 片方は元から、もう片方は拷問のような激痛と引き換えに与えられたであろう能力を。


お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも興味をお持ちいただけたら、

ブックマークと星を入れていただけると、嬉しいです。

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