第十三話 明滅する神託
『三日目の特典として、六色の勾玉を獲得しました』
脳内に直接響いた声に、眠っていた悠希の意識が覚醒した。
「朝、か」
悠希はノロノロと起き上がる。
彼はあまり寝られなかった。
その理由は単純にベッドも布団もなかったからだ。
(六色の勾玉ね。それはありがたいんだけど、これから毎日今のがモーニングコールになるのか?)
悠希は与えた分はきっちり働けと言われているような気がした。
彼は前日を振り返る。
昨日、萬幡豊秋津師比売命に手ぬぐい等をお願いしてから、もう一度下界へ降りた。
戦果はあった。
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【神降ろし】緑之小鬼
神格《鬼神》
属性《地》
翠玉《一》消費。
攻撃力《一》。防御力《一》。
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八百万の神々に、鬼神は存在しない。
トレーディングカードゲームである神世大戦のオリジナル要素だった。
悠希は自身の記憶と照らし合わせて、認識相違がないことを確認済みである。
神符一枚が二回目の探索の戦果だった。
実際のところ他の邪神とも何度か遭遇したのだが、悠希の手札では厳しい相手であったため戦闘を回避した。
探索を終えた悠希は、食事をとり風呂に入り、そのまま就寝したのだった。
(布団が欲しい……)
悠希はそんなことを考えながら、ストレッチして凝り固まった身体をほぐす。
巫術を発動させて神降ろしを執行し、生産職といえる神々に物資の供給を依頼する。
朝食を終わらせた悠希はスマートフォンのタイマーで二時間後を設定し、一眠りする。
二時間後に起きた悠希は、神々が高天原へ戻ったことを神々が残した成果にて確認した。
木製品の神である大屋都媛命は木製の机と椅子を用意してくれた。
正確には、机は昨日探索を終えた後に依頼して出来た品だった。
織物の神である萬幡豊秋津師比売命は、昨日は三枚の下着を、本日は敷き布団を用意してくれた。
一度下界へ降りてから、再度掛け布団を依頼すれば今夜は寝苦しくならずに済みそうだった。
ちなみに、下着はふんどしではなく、トランクスである。
女神である萬幡豊秋津師比売命は悠希の心を読み取り、了承してくれた。
悠希はありがたくもあり、恥ずかしくもあった。
井戸の神である泣沢女神には今回頼まなかった。
昨日お願いした分で井戸の水は十分だったからである。
悠希は神書を開く。
今後の方針を練るためだ。
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名前 :神代悠希
位階 :二
固有能力 :【弱肉強食】
(神使)
固有能力 :【強制回帰】
(異界の巫)
神霊玉 :零
所持神符数 :四十三
神託
神々之恩寵
所持神符一覧
山札設定
報酬一覧
実績一覧
告知
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昨日、緑之小鬼を解放したのだが、位階は上がらなかった。
もう一柱解放しなければならないのか、もっと神託の数をこなさなければならないのか、あるいは別の要因なのか。
不明点が多すぎるため、彼は判断を保留にしていた。
悠希は所持神符一覧のページへ移動させる。
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天属性
【勾玉】黄玉 三枚
【神降ろし】金鵄
【加護】電光石火
【呪詛】感電
地属性
【勾玉】翠玉 三枚
【神降ろし】保食神
【神降ろし】大屋都媛命
【神降ろし】矢乃波波木神
【神降ろし】萬幡豊秋津師比売命
【神降ろし】緑之小鬼
【神具】銅剣
陽属性
【勾玉】紅玉 三枚
【神降ろし】奥津日子神
【呪詛】鬼火
【禁厭】浄火
水属性
【勾玉】蒼玉 四枚
【神降ろし】少名毘古那神
【神降ろし】泣沢女神
【神降ろし】夜刀神
【禁厭】火伏せ
和魂属性
【勾玉】白玉 四枚
【神降ろし】道俣神
【神降ろし】大口真神
【加護】癒しの霊薬
荒魂属性
【勾玉】黒玉 三枚
【神降ろし】八十神
【呪詛】常闇
【禁厭】影武者
全属性
【神具】神気自動車
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悠希は改めて所持している神符を確認した後、ため息をつく。
「全然だな」
手札は少しずつ増えてきている。
しかし、圧倒的に足りない。
現状では攻撃力や防御力が《四》以上の邪神と遭遇したら、戦闘を避けたいというのが悠希の心境だ。
昨日、遭遇して敵前逃亡した邪神は、まさにその《四》以上に該当していた。
もしかすると、悠希の知識と異なり弱体化している可能性もあったのだが、それを確認する勇気はなかった。
一度のみの戦闘なら何とかなるだろうが、即時リポップされたら手札が確実に減った状態で再戦する羽目になるからだ。
ともあれ、悠希は次に神託を閲覧することにした。
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★
・≪実施中≫荒狂河の地域を探索せよ
・≪完了≫【神降ろし】を十枚獲得せよ
・≪完了≫所持神符数につき四十枚を超過せよ
・【加護】を五枚獲得せよ
・【神具】を五枚獲得せよ
・【呪詛】を五枚獲得せよ
・【禁厭】を五枚獲得せよ
・所持神符数につき八十枚を超過せよ
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探索の神符は相変わらず実施中のままである。
本日のログインボーナスとでも呼ぶべき、六色の勾玉を手に入れたことで神託の一つを達成していた。
神降ろしの数も達成していたことを見逃していたので、確認してよかった。
彼は報酬一覧へページを移動させる。
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★の神託を達成しました。≪報酬:神霊玉一つ≫
★の神託を達成しました。≪報酬:山札追加≫
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悠希は思考を巡らせる。
神霊玉を一つ獲得したことはよしとする。
考えるべきはもう一つの報酬だった。
(なるほどね、山札を増やすには山札の上限を超えさせればいいってわけか)
悠希が山札設定のページを開くと、以前は一つしかなかった山札が二つに増えて、どちらも選択可能になっていることを検証する。
一つ目の山札は悠希の指定した神符が入っており、二つ目は何も入っていない。
「まぁ、二つ目はまだいいかな」
悠希は検証が終わると、もう一度神託を確認しようと神託のページを開く。
ふと神託の星三つが明滅していることに気がついた。
(さっきは光ってなかったよな?)
怪訝に思いつつも、星三つの神託へ移動させる。
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★★★
・荒狂河の民を救済せよ
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星三つのページへ移ると、数ある神託の中でその一行の文言だけが激しく明滅している。
(至急とか緊急って意味なのか?さて、どうしたものか……)
星三つの難易度がどれくらいのものか分からないため、悠希は少し躊躇した。
しかし、行くだけ行ってみようと思った。
悠希は手早く準備を始めた。
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