表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/32

第十二話 帰還

 悠希は手に入れた神符の詳細を確認した。


========================================

 【神降ろし】夜刀神

 神格《蛇神》

 属性《水》

 蒼玉《一》消費。

 攻撃力《一》。防御力《一》。

 一日に一度、分霊を発動することができる。

========================================


 悠希はひどく真剣な顔で説明文を読んだ。


(俺の知識じゃ、戦闘に一度だけ発動できる、だった。また違うし)


 一日に一度では、夜刀神の使いどころを慎重に決める必要がありそうだった。


 悠希は眉間をもみほぐした後に、探索を開始する。

 金鵄は神気自動車の上空を舞い、索敵を買って出てくれた。


 結論から言えば、その後は特に何も起きなかった。

 邪神はもとより、人とも遭遇せず、ただ荒狂河あくるがの周辺をあちらこちらに行き来した。


 夜刀神やとのかみとの戦闘終了で一時間を超えてしまったので、悠希としてはさっさと終わってほしかった。

 彼にとっては好都合な展開だった。


 そして、ついにその時間が到達する。


 神気自動車にて充電していたスマートフォンのアラームが鳴る。


「帰還の時間か」


 悠希はスマートフォンが充電できることを知り、帰還する数分前に鳴るようアラームを設定していたのだ。

 悠希としては、帰りの方法がどういう形になるのか知っておきたかったためである。


(何せ、最初は宙に浮かんでの登場だったからな。あれは予想できるわけがない)


 悠希は念のために、充電していたスマートフォンをズボンのポケットに入れて後部座席に放っていたリュックサックを膝の上に置いた。


 それから数分遅れで、彼の周囲が劇的に変化した。


 悠希の巫術が強制的に解除された。

 道俣神と彼女に装備していた神気自動車が白色に、金鵄が黄色に、淡く輝くと三枚の神符に変化し神書へ吸い込まれていった。


 神気自動車の運転席に座っていた悠希の身体は地面に落ちない。


 下界に降りた時とは反対に、悠希の身体が座ったままの格好で宙に浮かんでいた。

 少しずつ彼の身体が高度を上げる。

 高度が上がるにつれて、悠希は座った状態から立ち姿へ徐々に移行する。

 彼は何もしていない。不可思議な力が彼の姿勢を変えながら引っ張り上げている。

 膝の上に置いたリュックサックは右手に持つ形となった。悠希は身体を動かせないため、リュックサックを背負えない。


(……相変わらず、理解不能の力だな。ギリギリまで探索とかしなくてよかった)


 帰る時間に気づかずに、いきなり神気自動車が消えたら焦ってしまったかもしれない。


 やがて、悠希がこの世界へ来た二時間前と同じくらいの高度へ達し、彼の視界が白に染まる。


『位階が上がりました。【神降ろし】萬幡豊秋津師比売命よろづはたとよあきつしひめのみことを獲得しました』


 神であろう、悠希が会ったことのない女性の声が響く。


 悠希は自分の身体が異界へ移動する感覚を覚えながら、思考する。


(位階が上がるのはこのタイミングか。初めて下界に降りたことだったらいいんだが、まぁないよな。邪神を一回倒したことが原因なのか、それとも神を一柱邪神から解放したことがそうなのか)


 神世大戦の場合では、ただひたすらゲームをプレイするだけで経験値が入り、位階が上がる仕様だった。

 勝敗に関係なく経験値は入る。当然ながら、勝利した方が経験値は多くなるが。

 しかし、この世界では負けは許されない。

 何かしらの理由で経験値が入ったことは確かだが、まだ分からないことだらけだった。


 悠希の疑問は尽きない。

 しかし、同時に答えも出ない。


(ま、いいか。とりあえず神々之恩寵と弱肉強食だけじゃなくて、位階を上げることでも神符を手に入れられるって分かっただけでよしとするか)


 悠希は位階の玄関にたどり着いた。


 彼は逸る気持ちを抑えながら、急いで部屋に向かう。


 部屋の中へ入ってリュックサックを置くと、悠希は神書の一ページ目を開く。


========================================

 名前    :神代悠希

 位階    :二

 固有能力  :【弱肉強食】

 (神使) 

 固有能力  :【強制回帰】

 (異界の巫) 

 神霊玉   :三

 所持神符数 :三十五

========================================


 悠希は位階が上がっていることを確かめた。


 続けて、彼は星一つの神託を確認する。


========================================

・≪完了≫邪神を一柱討伐せよ

・≪完了≫夜刀神やとのかみを討伐せよ

・≪実施中≫荒狂河あくるがの地域を探索せよ

========================================


 二つの神託を達成していた。


(探索については実施中か。全域隅々まで見て回れってことか?もしそうなら、簡単そうに見えて面倒な神託だな)


 続いて、報酬一覧を読む。


========================================

★の神託を達成しました。≪報酬:神霊玉一つ≫

★の神託を達成しました。≪報酬:神霊玉一つ≫

========================================


(これで、神霊玉は五つ。ガチャ一回か)


 悠希は神々之恩寵を回す前に、所持神符一覧のページを開く。

 帰還時に手に入れた神符を確認しておきたかったからである。


========================================

 【神降ろし】萬幡豊秋津師比売命

 神格《織物の神》

 属性《地》

 翠玉《一》消費。

 攻撃力《一》。防御力《一》。

 布製品を用意してくれる。

========================================


「ありがたやありがたや」


 切実に欲しいと思っていた悠希は、思わず感謝の言葉を口にした。

 名前を聞いた時から期待していたのだが、その期待は裏切られなかった。


 一安心した悠希は、神々之恩寵に取り掛かる。

 神々之恩寵のページを開き、一回をタップする。


 神々之恩寵が回り、所持神符一覧のページに移る。


========================================

【勾玉】白玉

========================================


「……そうっすか」


 悠希が悲しげに呟いた。


 巫術を発動する媒体が多いほどいい。

 今は全属性の複合山札になっているが、いずれは単一属性の山札を組んでみたいとも悠希は思っている。

 しかし、いずれはである。

 今は少しでも神降ろしや加護、呪詛、神具、禁厭のどれかが欲しかった。


 彼はため息を一度つく。

 どう思おうとも結果は変わらない。


 悠希は気持ちを切り替える。

 萬幡豊秋津師比売命と白玉を山札に追加する。

 そして、萬幡豊秋津師比売命に布製品を頼むことにした。


萬幡豊秋津師比売命よろづはたとよあきつしひめのみこと。七夕の織姫のモデルとなった縁結びの神様だったはず。日本は置いておいたとしても、今の俺は絶対のボッチ。そんな俺に縁を与えてくれるのかな?)


 他人と関わりたくない。

 まして、他人のために命を懸けたくない。


 しかし、邪神と戦う以上、ある程度は現地人との繋がりを持たなければならない。

 敵である邪神の情報を得るには、現地人の協力が必要となるのだ。


 ジレンマに陥った悠希は、葛藤を棚上げして神降ろしを執り行う。


「我が巫術、今ここに発現せよ」


 三十六枚の神符が悠希の周囲を回る。


「我が身に纏うころもを授け給え。【神降ろし】萬幡豊秋津師比売命」


 翠玉が一つ輝きを失い、萬幡豊秋津師比売命が降臨した。


 道俣神と類似する羽衣のような服装の女神だった。

 艶やかな黒髪を左右で三つ編みにしておさげにしている。


「畏れ多くも願い奉ります。織物の神の御力により、私に布製品をお恵みいただけないでしょうか?」


 萬幡豊秋津師比売命は穏やかに微笑んだ。


『分かりました』


 了承をいただいた悠希は、厚かましいことを重々承知しつつも手ぬぐいを最優先にお願いしたのだった。



お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも興味をお持ちいただけたら、

ブックマークと星を入れていただけると、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ