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第十一話 連戦

 金鵄が悠希の元へ舞い戻り、地面へと着地する。


 悠希はその姿を横目にしながら、神世大戦のとある仕様を思い出していた。


 属性には相克――相性――というものが存在する。


 天地陽水の四界は一巡する。

 陽は地に強く、水は陽に強く、地は天に強く、天は水に強い。


 和魂と荒魂の双璧は、相互に強く弱い。


 どう強いかといえば、攻撃力と防御力がそれぞれ《一》増加するのである。

 ただし、この効果は攻撃時に限定される。


 先ほどの戦いでは、天属性の金鵄の攻撃力が《二》に、防御力が《二》に強化され、水属性の夜刀神は攻撃力が《一》、防御力が《一》の状態で戦い、防御力が《零》になり敗北したのである。

 反対に金鵄の防御力は《一》となるが、残っているために生存したことになる。

 夜刀神に減らされた防御力は属性相克で増えた防御力を減らしたとみなされ、本来の防御力は減らずに済むのである。


(属性の相性はゲームの仕様と乖離なさそうだったな。これを確認できたのはよかった)


 悠希は戦力となる神符をあまり保持していない。

 そんな状況下で、戦闘を危なげなく終わらせるには、属性相克の検証が割と急務であった。


 悠希が初戦で確認することできたのは、非常に助かる展開だった。


 ちなみに、双璧については、お互いがお互いの弱点であるため、攻撃時には《一》の強化はない。

 ただし、相手が呪詛などの影響で攻撃不能に陥った際には、攻撃力と防御力は《一》が加算される。


 また、加護や呪詛、神具、禁厭においては、属性相克の効果を持つ神符も存在する。


 悠希の初期山札である水属性の【禁厭】火伏せはその神符に該当する。

 蒼玉を《一》しか消費しないにも関わらず、火属性の敵攻撃力を「二」も減少させる理由は、属性相克に起因する。


 悠希は初戦を終えて大きく息をつく。


(よし、悪くない。これならもう一戦しても――)


 悠希の思考が中断する。


 先ほど確かに消滅した夜刀神が何事もなかったかのように出現したのである。


「……おいおい、マジかよ」


 悠希は唖然とした。


 邪神は倒しても死なない。先ほどは消滅したかに見えて、この現世うつしよから幽世かくりよへ移るだけである。

 邪神を常世とこよへ落とすためには、倒した時に稀に神符となった時である。

 神符となることは、操られていた八百万の神が邪神から解放されることを意味する。


(一時的な死の世界――幽世――へ落ちるのは、戦闘中だけってことか!?)


 悠希には受け入れがたいが、事実は事実として受け止めるしかない。

 邪神のリポップは即時のようである。


 邪神は倒してもすぐさま復活する。


(そりゃ、異世界からでも手助けが欲しいか)


 倒してもきりがないという事実は、この世界の人々には絶望的だろう。


 しかし、復活した夜刀神は一転して逃げようとする。

 悠希から頭を百八十度回転させて、一目散に退こうとしていた。

 獲物ではないと認識したのか。勝てないと判断したのか。


 いずれにせよ、確実に倒せると分かった今ならば、悠希に見逃す選択肢はない。


「金鵄!」


 金鵄は悠希の意図を察したように鳴き声を上げ、再度羽ばたく。


 金鵄に追撃を任せる。


 対する夜刀神は、敵に逃がす気がないと悟ったのか自身の能力を発動した。


 夜刀神が二柱となった。


分霊わけみたまか)


 悠希は夜刀神の能力を知っている。


 八百万の神々はそれこそ八百万のように無数に存在するが、同じ神格を持つ同名の神は存在しない。


 異なる神格の同名の神は、こちらも無数に存在する。


 例として、建御雷之男神たけみかづちのおのかみを挙げる。

 建御雷之男神は剣伸、武神、雷神と三つの神格があり、神世大戦では神格の数に応じて三枚の神符が用意されている。

 神格によって、建御雷之男神の攻撃力、防御力、能力の全てが別々に設定されているのだ。


 悠希と対峙している夜刀神は蛇神という神格しか持っていない。

 同じ神格を持つ同名の神が複数存在する理由が分霊である。


 分霊とは、簡単に言えば神の増殖である。

 分霊を発動すれば、もう一柱の神が顕現する。

 その際に元となった神に弱体化の影響はなく、分霊した神も元の神の能力を引き継ぐ。


 つまり、悠希の敵は脅威度が単純に二倍になってしまった。


(さて、ゲームだったら、一度の戦闘で一回行えるって仕様だったけど、ここならどうなんだろうな)


 悠希は相手の取った行動によって、少し慎重になる。

分霊の再使用可能時間が彼の知識と同じかどうかも疑問であったためである。

 悠希の態度に呼応するように、金鵄も夜刀神に接近したが攻撃は控えている。


 悠希は金鵄の様子に軽く驚きを見せる。


(神降ろしした神は、俺の思考を読めるのか?だとしたら、ありがたい。指示出しする時間が惜しい戦いだって今後はあるはずだ)


 夜刀神は分身が前に出て、本体を守ろうとしている。

 初戦の単純な攻撃とは、明らかに異なる。


 初戦とは異なり、敵の難易度が上がってしまった。


(……学習したのか?それとも、さっきは油断していた?それにしても……クソ!神世大戦に前衛、後衛なんて概念はないんだぞ!?カードゲームなんだし。いや、蛇神の本体がプレイヤーの立ち位置に昇格したって見方はできるか)


 悠希は無理やりカードゲームのシステムに当てはめようとして無駄だとすぐに気づく。


 道俣神と神気自動車を解放して勾玉を使用可能とすべきか少し悩む。

 大口真神も神降ろしした方がいいかと思ったが、属性相克があるのだから金鵄一柱で問題ないと結論付けた。


(金鵄!)


 彼は心の中で金鵄へ呼びかけると、意思疎通ができることを証明するように金鵄が反応した。

 金鵄は分身の夜刀神へ攻撃した。

 分身の夜刀神も攻撃するが、初戦と同じ結果に終わる。


 分身の夜刀神は呆気なく現世から消えた。


 その隙を突くように、本体の夜刀神が金鵄へ急接近する。


 悠希は金鵄の能力――十秒間、光で敵の視力を奪い、攻撃不能とする――を発動しようとしたところ、金鵄から任せろと強烈な念を脳に叩き込まれた。


 驚いた悠希は運転席の中で硬直した。


 そして、彼が固まっている間に勝敗は決した。


 金鵄がもう一柱の夜刀神を迎撃し、金鵄だけが生き残った。

 属性相克は攻撃時において何度でも自動的に発動するのである。


(え、相手からも伝わるの?)


 神降ろしした神からもこちらへ意思を伝えられるとは思っていなかった。

 一方通行だと思い込んでいた悠希が、助手席にて優雅に観戦している道俣神に視線を向けると、こくりと頷かれてしまった。


 先に言ってほしかったと愚痴りながらも、悠希は二戦目の結果を反芻する。


 神世大戦では神降ろしされた神は、一ターンに一度しか攻撃できない。

 今さっき見せられた光景では、金鵄は二度攻撃した。


 ターン制はないと確信していたが、二戦目で図らずも証明されてしまった。


『邪神夜刀神を討伐しました。固有能力【弱肉強食】が発動しました。神符を一枚獲得しました』


 悠希は再び神書の所持神符一覧を開く。

 新たに獲得した神符は、今度こそ【神降ろし】夜刀神だった。


 その後、夜刀神がリポップすることはなかった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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