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第十話 初戦

数ある小説の中で、拙作を見つけてくださり

ありがとうございます。

 カーナビに表示されているマップは、確かにこの世界のものだった。


 悠希はカーナビのマップに対して、拡大と縮小を何度も試した。

 当然ながら、上下左右に移動しながらである。


 その試行錯誤の結果として、とある一点を指示して荒狂河あくるがと表示された。

 そこに焦点を置き、拡大してみると一箇所に神社を表す鳥居のマークがあった。


 荒狂河の近隣には大河が流れていた。

 水源の近くに村か町を建設したのではないかと推測する。


 荒狂河の名称の由来は、この大河が荒れ狂うこともあるからそう名付けたのではないかと考えられる。


(ま、今は推測しかできないからそこら辺はいい。重要なのは、紛れもない人造物!間違いなくここには人がいる……)


 行くべきか否か逡巡しながらも、道の神に確認したい内容があった。


 悠希は探るように道の神である道俣神ちまたのかみに視線を向けると、彼女は頷いて見せる。

 彼女の説明文には、「大和の地形を網羅している。」とあったことを思い出したのである。


『神代悠希、どうやらこの面妖な神具には、私の知識が刻み込まれているようですね』


「はい。どうも、そのようです」


 悠希は首肯する。


 道の神が装備したと同時に、その知識が流用されているのだろうと悠希は推測した。


(面妖、ね。そりゃ、こんなの知りもしないだろうから、当然の評価だな)


 悠希は苦笑を禁じ得ない。

 ともあれ、彼にすれば助かる。


 明確な道標みちしるべができたのである。


 人がいる場所に向かうにしろ、遠ざかるにしろ、指針ができた。


 神と思しき存在が彼を異世界から召喚した。

 現時点では、誰が彼を呼び寄せたのかは不明である。


 しかし、八百万の神々を、大和へ住まう人々を救うために呼び寄せたという点には疑問はない。


 八百万の神々はいい。

 しかし、人々については慎重にならざるを得ない。


 何せ、赤の他人である。

 悠希は性悪説を信じてはいないが、だからと言って性善説はもっと信じられない。


 性善説を心から信じられないと断言できるくらいに、彼の家庭環境は不遇だった。

 赤の他人であれば、尚更であった。


 赤の他人であり、異世界人であるならば、悠希をどんな目に遭わすか想像も知れない。

 崇め奉るかもしれない。


 しかし、利用するかもしれない。

 飼い殺しにしようとするかもしれない。

 その点はいい。

 彼は時間が経てば異界に戻るのだから。


 しかし、神使など認められない。

 そんな存在はあってはならない。もし、あり得るのであれば、絶対に殺さなければならない。

 万が一にそのような輩が荒狂河にいようものなら、近づきたくもない。


 悠希はかなり真剣に悩んだ。


(さて、どうする?…………近づいてみるか)


 悠希は静かに決断を下した後に、我に返りふと思う。


(いずれは車を買いたいとは思ってたけど、まさかこんな形で手に入るなんてな)


 人生、何が起こるか分からない。

 そんな思いを抱いたところで、彼はそろそろスタート地点から移動しようと決意する。


 助手席の女神様にシートベルトを付けてもらう。

 道俣神は頼まれた内容が理解できなかったが、悠希がシートベルトを付ける様子を見て、見様見真似で付けてくれた。


 急発進や急停止をすることもあり得るため、必要な措置だった。


(神代悠希、発進する)


 某ロボットアニメのパイロットのような言葉を心中で発した。

 隣に女神様がいらっしゃるから、さすがに声には出さない。


 しかし、彼にとっては初めての異世界探索である。

 邪神と遭遇する危険もあるが、テンションを上げるための宣言だった。


 荒狂河の方角へハンドルを切り、アクセルペダルを踏みこむ。

 神気自動車が発進した。


 進んでいく道は整備されていない獣道だったが、車体の振動は気にするほどではなかった。


 運転を始めてから、三十分ほど経った。

 時速四十キロメートルくらで走っている。


 特筆すべきことはなく、順調な探索だった。


(もしかしたら、探索だけで終わるかもなぁ)


 注意深く周囲に意識を向けているが、人にも邪神にも遭遇しないために悠希はそんなことさえ考え始めた。


 それからさらに三十分が経過し、大河の付近にたどり着いた。


(あと一時間で帰ることになる。車で走っただけで終わりそう――ん?)


 全長一メートルほどの、頭に角を生やした蛇が視界に入った。

 今までは大河の中に潜んでいたのだろう。

 野生の蛇ではない。蛇に角を生えていない。

 まして、野生の蛇は、神威しんいと呼ぶべき圧倒的な威圧感を放たない。


夜刀神やとのかみのお出ましか」


 声が少し震えた。

 初の実戦。命を懸けた戦い。

 彼の弛緩していた身体が一気に緊張した。

 気圧されそうになる心と身体を叱咤する。


(落ち着け。俺が戦うわけじゃない。むしろ、俺は近づかなきゃ大丈夫なんだ)


 彼我の距離は五百メートルほどであるが、夜刀神はこちらの気配を察したのかズルズルと這い寄ってくる。


 一柱だけだからそれほど恐怖を感じないが、何柱もいてにじり寄ってきたら、撤退も考えたことだろう。


 悠希は神降ろしを実行する。


「我を導く光となり給え。【神降ろし】金鵄きんし


 黄玉の輝きが失われ、代わりに黄金色の霊鵄が現れ出でた。

 全長約六十センチほどの大きさである。


 現状、最大の攻撃力、防御力を誇る大口真神おおくちのまがみは、今は出せない。道俣神と神気自動車で白玉を二つ消費しているためである。

 道俣神と神気自動車を解けば、白玉は輝きを復活するので、大口真神を神降ろし可能となる。


 しかし、敵が悠希の知らない効果を持ち合わせている可能性もあるため、いざという時の逃走手段は残しておきたかった。


(それに今のうちに確かめておかなきゃならないことがある。一対一の今ならできる)


「金鵄、奴の討伐をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 金鵄は首肯して「ぴー」と鳴き声を上げる。


(よかった。人型じゃないけど、さすがは神様だ。人間の言葉が分かるみたいだな)


 悠希が頭を下げると、金鵄は飛翔する。


 金鵄と夜刀神はどちらも攻撃力、防御力ともに《一》である。

 このまま戦えば相打ちの結果に終わる。


 ただ、悠希が思い描く結末はそれと異なる。


 金鵄はみるみる夜刀神へ接近し、両者は互いに攻撃をしかける。


 夜刀神が金鵄の首元に牙を突き立て、金鵄は爪で夜刀神の身体を引き裂く。


 夜刀神は苦しみながら現世から消え去った。


 対する金鵄は、地面に降り立っていた。敵の消滅を確認すると、悠希の元へ戻るよう飛び立った。


(予想どおり、属性の相性は健在だったか)


 悠希が胸をなでおろしていると、唐突に声が響いた。


『邪神夜刀神を討伐しました。固有能力【弱肉強食】が発動しました。神符を一枚獲得しました』


 悠希は神書の所持神符一覧を開く。

 新たに獲得した神符は、【勾玉】蒼玉だった。


「えっ」


 悠希は意外だと声を上げた。

 彼はてっきり【神降ろし】夜刀神を手に入れられると思っていたのだ。


「まぁ、いいか」


 悠希は気持ちを切り替える。

 何はともあれ、彼は初戦を勝利で飾ったのだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも興味をお持ちいただけたら、

ブックマークと星を入れていただけると、嬉しいです。

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