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六話 弟子入り初日②

「それにしても、未だに信じられません。まさか、私が膨大な魔力を持ってるだなんて……」


 無論、自覚など一度もしたことがなかった。小さい頃に聖女として見出され、それ以降魔術や魔力に関しての知識を知ることはほとんど無かったと言ってもいい。

 けれど、それでも魔術師に出会うことはそれなりにあったものの、自分に膨大な魔力がある、と教えてくれた者は誰一人としていなかった。

 ……いや、単純に『最弱聖女』に近づきたくなかっただけというのが大きな原因なのだろうが。


「膨大、というのは些か語弊があるな。言っただろう。お前の魔力は無限大に近い、と。ただ単純に多いというわけではない。本当に計り知れない量だ。具体的に言うのなら、一般的な魔術師が持つ魔力をコップ一杯の水とするのなら、お前は海そのものだ」

「え、何ですかそれ。もしかして、そのコップは実は大陸並みに大きいとか、そういうオチですか?」

「んなわけあるか。普通の、一般的な、コップの大きさだ。お前、まさかわざとボケてるのか」

「いや、だって……」


 そんなもの、比べるとか、そんな領域の話ではない。次元が違うレベルの話だ。


「そう。お前の魔力は他とは比べ物にならん。正直、オレよりも遥かに多い。そういう観点からみれば、既にお前はオレを超えていると言ってもいい。だというのに、お前は全く自覚がなかった。その原因は、恐らくだが、聖女の力のせいだろうな」

「聖女の力?」

「ああ。聖女の力は、魔とは対をなす力だ。そんな相反する力を同時に得たことによって、互いの力が相殺された、ということだろう。実際、お前は聖女の力をロクに扱えなかったんだろう?」

「は……はい」

「周りの連中が気づかなかったのもそのせいだろうよ。恐らくは、聖女の力の方が少しばかり強かったんだろう。だから、相殺されている魔力には誰にも気づかなかった」


 聖と魔。それらはコインの表裏のような存在であり、対極の存在だ。本来なら、その二つが同居するなど不可能。できたとしても、互いが互いを殺し合い、まともに力が使えないのが関の山だ。

 そして、だからこそ、一つの謎も解ける。


「一つ当ててやる。お前が扱っていた聖女の力、お前が成長するにつれて、徐々に弱くなっていなかったか?」

「ど、どうしてそれを……」


 言い当てられたシリカの反応を見て、ナインは「やはりな」と言い、続けた。


「お前が成長するにつれて、魔力の力が増したんだろう。魔力は身体の成長と比例するからな。その結果、相殺される聖女の力も多くなり、結果的に出力できる聖女の力が弱くなってしまった、というわけだ」


 それこそが、シリカが扱っていた聖女の力が衰えていった原因。

 通常ならば、鍛練を積み重ねていくことで強くなるはずが、彼女の中にあった魔力が成長してしまったために、二つの差分が少なくなってしまった。そのせいで、シリカは聖女の力を上手く扱えなかったのだ。

 しかし。


「けど、魔力を押さえ込んでいた聖女の力が無くなったことによって、本来の魔力が解放された……ってことですね?」


 シリカが聖女の力を手放したことにより、彼女の中で押さえ込まれていた魔力が自由の身になった。それによって、彼女は本来己が持つべき魔力を手に入れた、否、取り戻したのだ。


「何だ。案外飲み込みが早いじゃないか。とはいえ、いくら魔力が莫大でも、それを扱える技術と知恵がなければ意味がない。それこそ、馬鹿みたいに魔力をダダ漏れさせている奴など、論外だ」

「ダダ漏れって……」

「事実だ。まぁ、魔力に覚醒したのがつい最近だという点を考慮すれば、致し方のないことなのかもしれんがな」


 言ってしまえば、幼い頃から伝説の剣を持った少年が、大人になってようやく剣を鞘から抜いたのと同じ。抜いたはいいものの、誰からも教えてもらえず、無知であるがために、剣の振り方も握り方も知らないのは当然だろう。

 だが。


「お前は知った。自分が膨大な魔力を持っていることを。自覚したからには、それ相応の身の振り方を覚えろ。お前の力は人を活かすこともあれば、容易に人を殺すことだってできる。知らなかった、理解していなかった、という言い訳は最早通用しないのだと、肝に銘じておけ」


 魔術というのは、超常の力。それを下手に行使すれば、人を傷つけ、最悪死に至らしめる。それだけ危険な代物なのだ。

 それを自覚するのとしないのとでは、何もかもが違う。


「まぁ、オレの弟子である間は一応の尻拭いはしてやる」


 人は何事においても、初めてなことがある。そして、そういうモノ程失敗することが多い。失敗から学べ、とはいうものの、魔術は失敗すれば死に繋がることも多い。それを防止するためにも、師は細心の注意を払って弟子に教えなければならないのだ。


 魔術が如何なるものか、魔女とは一体何なのか、それらを教えるのは大変面倒。けれど、一度やると決めたらからには、ナインにも責任はある。


「はいっ!! えっと……それで、師匠。早速ですが、魔術の方を、教えてもらっても……」

「まぁ待て。魔術を教えるのにも、それなりに色々と準備が必要だ。先んじて必要なのは……あれか」

「あれ?」


 首をかしげるシリカに対し、ナインは。


「ああ。魔女には必要不可欠なモノの一つ―――杖だ」


 不敵な笑みを浮かべながら、言い放ったのだった。

九話目投稿です!!

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します。

それだけで、作者に元気が湧きます。励みになります。そして、もっと構ってほしい愚かな作者が続きを書こうとします。

なので、みんなで馬鹿な作者に餌をやりましょう!!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。

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