二十話 意外な邂逅③
ナインが魔術によって、捜索を始めて十分程度。
たったそれだけの時間で、彼女はミーシャの居場所を突き止めた。
彼女が使用したのは、現場に落ちていたミーシャの靴を使っての追跡の魔術。
通常ならば、持ち物一つでどこにいるのかなど、把握することは不可能。力のある魔術師や魔女ですら、方角を知るのがせいぜいだろう。
それを、ナインは靴一つで、ミーシャが無事であること、そして東の森の中にある山小屋で縛られていること、加えて近くにレナルドもいることを把握することができたのだった。
「流石は『楔の魔女』殿、こうもあっさり居場所を突き止めるとは」
などと、カリムは無論、他の者たちも彼女へ称賛の声を送る。
しかし当の本人はどこか神妙な面持ちだった。
「……、」
それはまるで、納得がいかない、と言わんばかりの表情である。
「師匠……?」
そんな師に対し、シリカは思わず声をかけた。が、その声も届いていないのか、ナインはずっと顎に手を当て、考え事をし続けていた。
とはいえ、場所を特定することができたのだ。ならば、後はそこへ向かうのが、今は先決である。何せ、相手がいつまでそこにいるのか、分からないのだから。
「では、この場所に人員を……」
「いや」
カリムの言葉を遮るかのように、ナインは待ったをかける。
そして。
「ここはオレが行こう」
シリカが予想もしていなかったことを言い出したのだった。
*
「どうしたんですか、師匠」
ミーシャ達がいるであろう小屋へと行く途中。シリカはここにきて、ようやくナインに対し、問いを投げかける。
「どうした、とは?」
「だって、他の人たちを残してくるなんて。何かあるとしか思えません」
現在、ナインの提案通り、ここにはナイン達しかいない。他の者たちからは色々と言われたものの、『楔の魔女』ナインじきじきに行くと宣言したため、誰も真っ向から反対するものはいなかった。
ロマに関しては、何かあった時のために、カリムの傍にいるようにしてある。
結果、ナインとシリカ、スミレの三人でミーシャの救出に向かうことなったのだった。
「師匠が面倒ごとが嫌いなのは重々承知しています。その師匠が、わざわざ自分が行くと言ったってことは、何か理由があるとしか思えません」
だから、話してほしい、と口にするシリカ。
それに対し、ナインは数秒沈黙を続けたが、それが無意味なことに気づくと同時に、溜息を吐いた。
「……さっきオレがやった追跡の魔術、覚えているな?」
「? はい。凄いですよね。流石は師匠。あんな短時間で見つけ出すなんて」
「そうですね。普通ならもっと時間がかかるはずなのに……」
それはおべっかなどではない、彼女たちの本心。
しかし、ナインはそんな二人の言葉に対し、首を横に振った。
「違う。あれは、見つけたんじゃあない。見つけるように仕向けられていたんだ」
「仕向けられていた……?」
「それはどういうことでしょうか」
「あの連れ去られた婚約者を見つけるために、追跡の魔術を使ったわけだが……そもそも見つけられたのは、ある特定の場所に強い魔力を感知したからだ。その場所を魔術でより細かく捜索した途端、あの婚約者がいると判明したわけだ」
「つまり、相手は凄い魔力を持っているってことですか?」
「それもあるが、オレが言いたいことは、そいつがわざと魔力を感知させるようにしていたことだ。普通、誰かを連れ去って行動しているのなら、魔力を感知されないよう、誤魔化すのものだ。だというのに、逆に魔力を感知しやすいようにするなど、自分から見つけてくれと言っているようなものだ」
例えば、とある地域では、逃亡した人間を見つける際、犬を使う風習がある。それは、犬の嗅覚を使って、対象を探させるというもの。それを知っている者からすれば、まずやるべきことは、自分の匂いをどうにかして消すことだろう。だが、今回の犯人は、その逆。自分の匂いをわざわざ強めているようなものだ。
「えっと……つまり、この相手は凄い魔力を持っていて、わざと自分を見つけるようにしていた、と?」
「ああ。恐らくは、そして、そんなことをする奴の目的は知れている」
「……罠、ですか」
「ああ。十中八九そうだろう」
自分からわざわざ居場所を教えているのだ。つまり、誰かが来ても大丈夫なようにしてあるということだろう。
「だが、この場合問題となるのは、自分たちを探している者が魔術を使う、という点。いくら魔力を発信しようが、見つける側が魔術を使わなければ、意味がないからな。それはつまり……」
「……魔術で誰かが自分たちを探すことを、初めから予想していたと?」
「ああ。そして、その見つける誰かが、自分のところへやってくる。それが、相手の思惑だろう。そして、その誰かは……」
「ナイン様、ということですか」
「タイミング的に、恐らくな」
ナイン達が観光中に、当主の婚約者が攫われた……こんな偶然があるとは到底思えない。そして、犯人は、当主が自分の婚約者を探すために、ナインに頼み込むことまで織り込みずみだったのだろう。
となれば、相手が何らかの策を講じているのは、目に見えていた。
「あの、師匠……その、大丈夫なんです?」
「阿呆が。オレを誰だと思っている。それよりも、お前こそ、準備はいいのか? へまをやらかして、足を引っ張るなよ」
「だ、大丈夫ですよ。前に教えてもらった『合図』も覚えてますし」
「本当だろうな。万が一、お前に『合図』を送ることになった時、間違ったものを使うなよ? もしも使えば……」
「使えば?」
「今度は全裸で尻を叩く」
「……絶対にとちらないよう、肝に銘じます」
よろしい、と言うナイン。冗談のような言葉だが、彼女ならば、本気でシリカの服を剥いで、やりかねない。
そうこうしているうちに、三人は、ミーシャ達がいるであろう山小屋へと到着した。一見、何の変哲もない小屋。
しかし、何故だろうか妙な圧迫感というか、威圧的なものを感じてしまう。
「……さぁ。来てやったぞ。姿を見せたらどうなんだ?」
ナインが言い終わって数拍後。
山小屋の扉が開かれた。
そして。
「やぁ―――こんばんわ。初めまして、『楔の魔女』。待っていたよ」
不敵な笑みを浮かべた、レナルドが出てきたのだった。
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