四話 元聖女の弟子入り④
※師匠の一人称がオレになってますが、れっきとした金髪幼女です。
もう一度言います。金髪幼女です。
大事なことなので(以下略
「ぬはっ!?」
爆風によって、シリカは転げながら吹っ飛んでいく。またもや視界が歪むものの、しばらくすると正常になり、頭を抑えながら立ち上がる。
そんな彼女の目に真っ先に入ったのは、先程の場所から微動だにせず立っている、真っ黒焦げな少女だった。
「し、師匠っ!?」
シリカは慌てて、少女の下へと駆け寄っていく。
「だ、だだだ大丈夫ですか!? 怪我とかしてませんか!?」
「けほ、けほっ。大丈夫だ。問題ない」
少女が杖を小さく振ると、彼女の周りに風が発生し、少女を包み込む。そして、数秒後に止んだかと思えば、さっきまでと同じ姿の少女がそこにはいたのだった。
「よ、良かったぁ……」
「ただし、こっちの方は無事ではなさそうだが」
「へ?」
首を傾げながら、シリカは視線を変える。
そして、気づいた。
先程まで少女が持っていた水晶が粉々に爆散している事実に。
「――――――っ」
言葉が詰まると同時に、一気に全身の血の気が引いていく。
(ど、どどどどど、どうしよう!? 確か、魔術道具って滅茶苦茶高価なものだって聞いたことが……それを木っ端微塵にしちゃうとか!? ああもうっ!! 初日早々、何してるのよ、私っ!!)
魔術について疎いシリカでも、魔術道具がそんじょそこらで買える代物ではないことくらいは知っている。ましてや、魔力を測定する用途のモノなら尚更高いであろうというのも予想はできた。
シリカは無一文というわけではない。だが、それでも魔術道具を弁償する金額を持ち合わせているわけではなかった。
いや、というより、弁償云々はともかく、せっかく弟子にしてもらえたというのに、序盤でこんな失態をやらかしたという事実が、彼女に混乱をもたらしていた。
「すみません、すみません!! 大事な水晶を壊してしまって……!! あの、ちゃんと弁償しますから!! 身体売ってでも必ずお金作りますから……!!」
「ん……ああ。別に気にするな。測定器はいくらでもある」
しかし、意外にも返ってきた言葉に怒りは無かった。
想像していたのと全く違う態度に困惑するシリカだったが、そんな彼女に構うことなく少女は言葉を続ける。
「にしても、想定はしていたが、まさかここまでとはな……」
「? えっと、それはどういう……」
「しかも、本人に自覚がないときた。言動や態度から予想はしていたとはいえ、全く、本当に厄介だな、これは」
大きなため息をつくその姿は、面倒だ、と言わんばかりのものだった。
「確認だが、お前、少し前に聖女の力を別の誰かに譲渡したんだったな?」
「え? は、はい。新しい聖女の子に渡しましたけど……」
「それ以降、身体に変化はないか? 妙に身体が軽くなったとか」
「えっと、あ、そう言われれば確かに……」
セシリアに聖女の力を継承した後、シリカは今までになく、身体が軽くなっていた。まるで、ずっと背負っていた重い石を下ろしたような、そんな感覚。
しかし、それが一体何なのか。
そんなシリカの疑問に答えるかのように、少女は言葉を紡ぐ。
「まず、言っておく。水晶が壊れたのは、別に不良品だからでも、お前のせいでもない。いや、まぁある意味お前のせいではあるのだが」
言われて、ばつの悪そうな顔をするシリカに対し、少女は木っ端微塵になった水晶の欠片を手にとって見せた。
「本来、水晶は触れた者の魔力を吸収し、それを光に変換させる。だが、それにも限度というものがある。そして、コップに水を注ぎすぎればあふれるように、触れた者の魔力が多すぎれば、水晶は耐えられず、吹っ飛んでしまう」
ご覧のように、と言わんばかりに、少女は散り散りになった水晶を指して言い放つ。
「えっと……つまり、私の魔力はそれだけ多いってことですか?」
「多いどころの話ではない。オレが知ってる限りでも最高峰の魔力量だ。はっきり言って、尋常ではない。というか、無限大と言い換えてもいんじゃないか、これ」
「ま、まさかぁ。私にそんな魔力があるわけ……」
「事実、お前はその膨大な魔力のおかげで、さっきも命拾いしただろう? 普通、頭から地面に激突したり、至近距離で爆発に巻き込まれて何ともない奴がいると思うか?」
言われて、シリカは理解する。
彼女が落ちてきた穴は、相当な長さだった。少なくとも、十メートルをゆうに越している。だというのに、顔面から地面に激突しながらも、彼女はこうして生きていた。
はっきり言おう。異常である。
普通、十メートルの場所から逆さまで落とされ、挙句頭部を叩きつけれれば、即死だ。運良く死ななくても、頭部の骨が折れるはずだ。
確かに、痛みはある。しかし、それは打撲をした程度のものであり、骨が折れた、という感覚はどこにもなかった。
加えて、さっきの爆発に関しても痛みはあったが、負傷はどこにしていない。
「お前が無事だったのは、無意識に魔力で自分の身体を強化したおかげだ。でなければ、今頃即死していただろうよ。加えて、ここにたどり着いたことも何よりの証拠だ」
「? どういう意味ですか?」
「本来、あの森には仕掛けが施してあってな。オレが許した相手以外は、家にたどり着けないようにしてある。だというのに、半日かかったとはいえ、オレの家までたどり着いた」
「それは、でも、たまたまで……」
「そういうたまたますらも跳ね除ける魔術を施してあるんだよ。だが、お前はここまで自力でたどり着いた。それを可能にしたのは、無意識下でオレの魔力を察知していたからだろう。大量に魔力を保有している者が、他人の魔力を察知しながら妨害魔術を突破するのは、時折あることだ」
確かに、ここに来るまで、シリカは相当道に迷っていた。それが魔術による妨害であるのなら、確かに納得できる部分はある。
だが、しかし。
それでも、シリカは素直に受け入れられなかった。
「でもそんな……そんなはず、ないですよ。私みたいな女が、そんな大量の魔力持ってるはずが……」
自分は無能で、無才で、最弱聖女だった女。そんな人間が、破格の魔力を保有している? いや、有り得ないだろう。
そんなことを突然言われても、信じろ、という方が無理な話だ。
「何故そんなに自己評価が低いのかはしらんが、事実なのだから受け入れろ。別段、自分が最強だとか、世界で唯一の存在だと思え、などとは言わん。だが、自分には力があるということは理解しろ。下手な謙遜は周りを不快にさせるだけだ」
ムッとした表情を浮かべる少女。その睨みにシリカはどこか後ろめたさを感じてしまい、言葉を返せないでいた。
「魔術において、力の自覚は重要だ。能力がないのに自分は強いと思う輩、能力はあるが自分は弱いと思う輩。オレから言わせてもらえば、どちらも阿呆だ。己の力量も見定めることもできん奴に、魔術を扱う資格はない」
自分は強いのだと信じること、自分はまだまだだと謙遜すること、それらが悪いわけではない。だが、勘違いや思い込みは、視野を狭めるだけのものでしかない。
「自分を分析し、自覚し、理解しろ。それが、魔術を身につける上で重要な要因だ。これから魔術を学ぶなら、心しておけ」
「は、はいっ……あ」
「? 何だ」
「いえ、そういえば、私、まだ師匠の名前を知らないなって思って……というか、私まだ自己紹介もしてなかった!?」
今更過ぎる事柄を思いだしながら、一瞬頭を抱えるシリカ。魔女の弟子になれると浮かれすぎて、大事なことをおいてけぼりにするとは、自分のことながら情けない。
などと思いつつも、今は後悔している場合ではなかった。
「私はシリカ・アルバスと言います。不束者ですが、何卒、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!!」
一般的な常套句を、シリカは元気よく口にする。
その光景を見て、少女はどこか呆れたような顔をしながらも、不敵に笑いながら言葉を返す。
「全く騒がしい奴だ……まぁいいだろう。オレはナイン。『楔の魔女』ナインだ。オレの弟子になるからには容赦はしないぞ。せいぜい励み、精進しろよ、我が弟子」
これが始まり。
最弱と言われた元聖女と『楔の魔女』は、こうして邂逅し、師弟となったのだった。
七話目投稿です!!
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