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四十五話 魔女の資質①

 ―――などと言うことがありつつも、ナインはすぐさまシリカ達のもとには帰らなかった。

 少し確認したいことがあるため、彼女は今、王城のとある人物の自室にやってきている。


「いやぁ。ホント助かったよ。今日の会議、どうせロクなことは提案されないだろうと思ってたけど、まさかあんなのが出てくるなんて、ほんと想定外。正直どうしようか、滅茶苦茶困ってたから、君が来てくれなかったらどうなっていたことか。あっ、そうだ。昨日、メイドの子が作ってくれたクッキーがあるんだけど、これが最高でね。今から用意するからちょっと待っててね?」

「……その二重人格のような変わりよう、お前は本当に相変わらずだな」


 嬉々としてクッキーと紅茶を用意する国王を見て、ナインは呆れながら呟く。先ほどの威厳ある姿はどこへやら。

 いくら国王の部屋とはいえ、あまりにもはっちゃけすぎではないか、と思うのはナインの気のせいだろうか。


「はぁ……加えて、ここの連中も相変わらずだ。世代交代をしているはずだというのに、考えていることが前の連中と全く同じだ」

「まぁまぁ。そう責めないでやってくれ。彼らの全員が、私利私欲のためだけに動いているわけじゃあない。ただ単に余剰利益を稼ごうとする腹黒が多いだけだ」

「それが問題なんだろうが、阿呆」


 とは言うものの、ナインとて理解している。国の政治ができるようなやつは、腹に逸物を抱えているやつの方が手際がいい。

 そういう連中を何とかしてまとめ上げるのが、国王の仕事の一つでもある。それを鑑みれば、目の前にいる国王は何とかやっている方だろう。


「けど、本当にびっくりだ。君がこの城にやってくるなんて。おかげで、臣下達の何人かが青ざめていたよ。数十年前のトラウマが蘇ったんだろうね」

「ふん。あの程度のことでトラウマなどと」

「いや、そりゃあ城を半壊させた挙句、君にちょっかいを出した貴族の屋敷をたった一日で全て壊して回ったんだ。死人が一人も出ていなかったとはいえ、当時の惨状を見た者からすれば、十分トラウマものだよ。ま、君を利用しようと画策した結果なわけだから、当然の結果なんだろうけど」


 今でも国王は思い出す。あの惨状を。

 以前からこの国では『楔の魔女』には手を出すな、という掟があった。しかし、そんなものしったことかというとある貴族たちが、『楔の魔女』の力を利用しようと画策し、国の圧力をもってして、ナインを従わせようとした。それに激怒したナインは、王城を半壊させ、敵対した貴族たちを次々と潰し、見せしめとして、王都の広場に吊るしたのだった。

 しかも、驚くべきことは、この事件で死者が一人も出ていない、という点。

 あれだけの被害があったというのに、死人が出ていない理由は一つ。ナインが、それだけ手加減してくれていた、ということ。

 それを理解した当時の貴族たちは、再度、『楔の魔女』の脅威を知り、二度と手を出さないようになったのだ。

 そして、だからこそ、と国王は思う。


「でも、もっと驚いたのは君がセシリア君のために動いたことだ」


 紅茶を一口飲み、間をあけながら、国王は続ける。


「聖女と『楔の魔女』が繋がっていて、その上君があそこまで釘を刺したんだ。恐らく、今回の噂を流した連中もなりを潜めるだろう。それだけ、君という存在は、貴族たちにとっては脅威だからね。でも、君がセシリア君の味方をする理由がちょっと分からないな。そこのところ、聞かせてくれないか?」

「……別に。ただ、あのまま聖女のことを放置しておくと、どこぞの馬鹿弟子が煩くなりそうだったから、そうなる前に対処したまでだ」


 視線をそらしつつ、クッキーを食べるナイン。

 その姿を見て、国王は不敵に笑った。


「……何がおかしい」

「いやいや。どうやら、彼女を気に入ってくれたみたいだから、安心したと思って」

「気に入ってなどいない……まぁアレが作る料理が一級品であることは認めるが……というか、大体誰のせいで、あれの面倒を見ていると思っている。お前が最後の【誓約】を使ったからだろうが」


【誓約】。

 それは、魔術的な儀式の一つであり、約定のようなもの。そこで誓ったことは、何があっても必ず守るというものである。


「『助けてくれた礼に、お前の頼みを何でも三つ叶えてやる』……全く。今になって思えば、とんだ【誓約】だ。だが、それ以上に信じられんのは、お前の願いの内容だ。以前もそうだったが、最後の【誓約】すらも他人のことに使うとはな。本当にろくでもない馬鹿だよ、お前は」


【誓約】は絶対であり、決して破ることができない。魔女であれば、尚更である。故に、国王はこの国で唯一、ナインを好きに扱えたというのに、彼が要求することは、どれもこれも常に他の誰かの助けをしてほしい、というものであった。


「加えて何だ。魔女の資質についてはできるだけ隠してくれとは」


 その点は、【誓約】とは関係なく、あくまでついでの頼みではあったが、しかし奇妙な内容であることには変わらない。

 何故なら。


「魔女とはつまり、聖女の成りそこない(・・・・・・・・・)。聖女の力を受け継げる器を持つ者、聖女候補は同じ時代に複数存在する。そして、その中の一人が聖女となる。その残りの者たちは自分が聖女になれる可能性があったことすら自覚せずに一生を終える」


 現に、今回セシリア以外にも聖女候補として選ばれた者は三人ほど存在した。つまり、その時代時代によって、数は少ないが、聖女候補は複数人存在するわけだ。


「だが、聖女候補が聖女の力ではなく、魔力を何らかの方法で取り入れることで、聖女とは違う別の存在になれる。

 ―――それこそが、魔女だ」


 元々、聖女の力を入れる容器に、魔力という源を流し込むことで誕生する。

 それが、魔女が生まれる瞬間であり、真実だった。

四十八話目投稿です!!

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します。

それだけで、作者に元気が湧きます。励みになります。そして、もっと構ってほしい愚かな作者が続きを書こうとします。

なので、みんなで馬鹿な作者に餌をやりましょう!!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。


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