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一話 元聖女の弟子入り①

 それは、とある酒場での話。


「おい、聞いたか。聖女様の話」

「ああ。何でも少し前に代替わりしたんだってな」


 誰も彼もが話し合っている中での、二人の男が他愛もない世間話をしていた。


「ん? なんだよ。確かに聖女様の代替わりなんて、珍しいけどよ……いや、ちょっと待てよ。確か、今の聖女様は二年ほど前に就任したばかりだろ? それが何でこんなに早く、代替わりしたんだ?」

「ばっか。お前。そりゃ、あの異名が問題なんだろ」

「異名……ああ。あれか」


『最弱聖女』。

 それは、この国の誰もが知る、聖女の異名、というより、蔑称だった。


「歴代の中で、最も力が使いこなせず、その力っていうのもカスリ傷を直す程度の代物。それが問題になったんじゃねぇの?」

「ま、本来、聖女様の力って国の一つや二つ、救ったり、滅ぼしたりできるらしいからな。その力を使えないってなると、まぁ仕方ないことなのかもしれないが……」

「だな。けど、新しい聖女になったのは、どうやらラインバート家の者だって話だぜ? しかも、すっげー美人なんだと」

「マジかよ。まぁ、あの『伝説の剣士』を生み出したラインバート家なら、納得だな。あの家からは、天才しか生まれないって話だし」


 ラインバート家の武勇は、この国に住んでいる者なら、誰でも知っている。それこそ、彼らの祖先にあたる『伝説の剣士』は、この国の建国に大きく携わっているほどだ。加えて、かの家が輩出してきた者たちは、鬼才天才ばかり。

 だからこそ、民衆は誰もが思っていた。

 あの家の者なら、聖女になってもおかしくはない、と。


「でもよ……引退した聖女様って、別に、何か悪いことをしたわけじゃないんだよな?」

「ああ。とはいえ、逆に何か功績を残したわけでもないのも事実だしなぁ。可哀想だが、皆の上に立つ聖女様が弱いってなると、不満を持つ連中もいるのは確かだし」

「何はともあれ、ちょっと不憫な話だ」


 聖女が何か、悪事を働いたという話など、聞いたことがない。

 しかし、一方で何か功績をあげたという話も、同じく聞いたことがない。

 皆の標となる存在としては、それではいけないのだろう。同情の余地は多分にはあるが、しかし結局それだけの話。

 ……のはずなのだが。


「いやいや、話はこっからがキモなんだよ。なんでも、その引退した聖女様、本当は無理やり辞めさせられた挙句、追放処分まで言い渡されたらしいぜ?」

「え、何だよ、どういうことだ?」

「いや、確かな話じゃねぇけどよ。どうにも新しい聖女様は、自分の先代が無能だっていうのが嫌いで、さっさと城から追い出しちまったって話なんだよ」

「はぁ? なんだそりゃ。仮にも自分の先輩だぞ? そんなこと許されるのかよ」

「それが許される地位と権力を持った奴ってこったろ。いやはや、女って怖いねぇ」


 言いながら、酒を飲む相方を尻目に、男はますます、引退した聖女への同情を深くした。


 

 しかし、彼らは知らなかった。

 その中心人物である少女が、胸をときめかせながら、魔女に弟子入りをしようとしていることを。

 

 *


 魔女は世俗から離れた場所に住んでいる。

 それはおとぎ話にも出てくることであり、森や洞窟、山頂など、人気が少ない場所で一人で暮らしているのが基本だ。

 そして、シリカが紹介された魔女もまた、森の中に住んでいるらしい。その点については、予想の範疇内であり、驚く点ではない。

 だが。


「い、いつになったら着くの……」


 息を切らせ、膝を地面につかせながらシリカは思わず愚痴を零す。

 国王から貰った紹介状。そして、彼の知り合いである魔女の居場所を聞き、この森へとやってきたはいいものの、もう数時間歩きっぱなしの状態だ。

 歩いても歩いても、魔女が住んでいる家には着くことはなく、見えてくるのは、木、木、木の連続。


「もしかして、この森にはいないとか……? いやいや、国王様はこの森に確かにいるって言ってたし、少し離れた村の人もこの森には魔女がいるっていったから、それはないと思うけど……」


 思い込み、勘違いなどで場所を間違えてしまわないように、国王から聞かされたこの森に来る前に、事前に近くの人々に聞き込みはしていた。結果、ほとんどの者が森に魔女がいることを肯定していたことから、場所が間違っている、というのはおそらくないだろう。


「森に入ったら、十分程度でつくって言ってたのに……まさか、私って相当な方向音痴?」


 今までそんなこと考えたことすらなかったが、しかし自分が気づいていなかっただけ、ということもある。

 最初は道らしい道もあったが、それも今はなく、草木をかけて歩いてきた。生い茂る木々はまるでシリカの行く手を阻むかのように思えるのは気のせいだろうか。


「いや、そんなこと気にしてもしょうがない。森で迷った程度で、私は折れたりしないんだから!」


 森に迷ったというのは、それはそれでかなり重大なことなのだが、今の彼女にそんな思考は一切ない。とにかく、歩いて前へと進む。

 この状況下でパニックを起こさないのは、彼女の気質か、それとも元聖女としての経験か。良い悪いはともかくとして、流石だと言えるだろう。

 しかし正直なところ、シリカの行動はあまり褒められたものではない。ただがむしゃらに進めば解決するというわけでもないのに、無闇に進んでしまえば、もっと森の奥へと迷い込んでしまう。

 そういう意味合いにおいては、シリカは自分の命を危険に晒しており、愚行と言わざるを得ない。

 だが。


「つ、着いたぁぁぁぁああああっ!!」


 一時間後、彼女はあっさりと魔女の家らしき場所へとたどり着いた。


 その有り様は、まるで常識など知ったことかと言わんばかりの所業であり、彼女がいかに非常識な存在なのかがよく理解できる。


「うわ~。ここが魔女の家かぁ。うんうん。何かそれっぽい!」


 シリカの目前にあるのは家……というより、小屋に近い建物。小屋といっても、ただの小屋ではない。屋根からは大樹が突き出しており、まるで木に小屋を貫かれたかのような風貌だ。けれど、小屋自体は腐っている気配はなく、むしろ人間の手入れがされており、人が住んでいる、もしくは使っているのが分かった。

 どう考えても怪しい作りであり、ある種危険な雰囲気すらも醸し出している。

 けれど。


「お邪魔しまーす」


 馬鹿には恐れというものはないらしい。

 シリカは何の迷いもなく、小屋の扉を開いた。覗いてみるものの、視界は暗く、中の様子がいまいち見えない。


「んー、真っ暗だなぁ。もしかして、留守にしてるとか……」


 玄関から頭だけを出した状態で周りを見渡していた。

 刹那。

 唐突に、『何か』がシリカの両足に絡みついた。


「え、ちょ、何これっ!?」


 見ると、そこには蔦のようなものが彼女の足を拘束している。まるで生きているかのようなそれは、素っ頓狂な声をあげるシリカをよそに、徐々に上へと這い上がっていた。

 そして、あっという間に太ももほどのところまで来ると、まるで大男が一気に綱を引っ張るかのような勢いで、シリカを足元から引きずっていった。


「ぎゃ! ご! がっ! ぐはっ! ちょ! まっ! ごっ!?」


 壁や家具に身体をぶつかりながら、引きずられていくシリカは思う。もしかして、こうやって引きずり回して自分を殺そうとしているのではないか、と。

 そんなちょっとした命の危険を感じたのも束の間、突然と蔦は動きを止めた。いや、もっと正確に言うのなら、シリカを逆さに宙吊りにして、動かなくなった。


(せ、世界が回ってるぅ……)


 引きずり回されたせいで、未だ視界がはっきりとしない。分かるのは、周りが真っ暗であることと、自分が逆さに吊るされていることくらいだ。

 そんな中。


「―――ノックもせずに人の家にあがりこむとは、いい度胸をしている」


 ふと聞きなれない声が耳に入る。

四話目投稿です!!

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します。

それだけで、作者に元気が湧きます。励みになります。そして、もっと構ってほしい愚かな作者が続きを書こうとします。

なので、みんなで馬鹿な作者に餌をやりましょう!!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。

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