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三十三話 聖女を選んだのは①

 結論を言うと、人形達はナインの楔の前に手も足も出なかった。

 次から次へと空中に出現しては、人形達へ襲い掛かる楔。その勢いはまさしく、疾風の如くであり、放たれた矢よりも速いそれは、人形達の頭を、胸を、手足を撃ちぬいていった。


「とりあえず、こんなものか」


 人形達を一掃したナインは周りを見ながら呟く。そこには、塵となり、崩れた人形達の成れの果てがあるのみ。残骸すら残ってはいない。

 それは人形が持っていた元々の仕様なのか、それともナインの楔の効果か。シリカにはそれは分からないが、しかしナインの実力がただならぬものであることは、改めて知ることができた。


「おい弟子。オレはもう少し、奥まで行ってみる。お前たちは外に出て待っていろ」

「え、師匠一人で行くんですか……?」

「当然だ。お前、オレを誰だと思っている? こういう入り組んだ洞窟で、複数人で行動するのははぐれる可能性が高い。かといって、一緒に行動していても、現状のお前たちでは足手まといになるだけだ。とくに、お前の場合は迷子になる可能性が高い」

「そ、そんな、子供じゃあるまいし……」

「文句があるのなら日頃の行いを反省しろ。加えて、今は別の問題があるだろうが。結論、オレは一人で行く。以上」


 そう言い残して、ナインは一人、洞窟内へと進んでいった。


 そして現在。

 シリカ達は、言われたように、洞窟の外でナインが帰ってくるまで待機していた。

 していたのだが……。


「………………」


 明らかに落ち込んでいるセシリア。足を腕で抱え込むように座り込み、さらに顔を膝に埋もれさせている。暗闇の洞窟から出てきたというのに、彼女の周りには、未だにどんよりとした空気が漂っていた。


「セシリアちゃん、大丈夫?」

「…………………………穴があったら入りたいです」


 つまり、それが今の彼女の心境、ということか。


「いいえ、今から穴を掘りますので、ちょっと一人にしてくれませんか。そしてよければ、わたしが入った後、穴を埋めてもらいたいのですが……」

「うん、それは流石に承諾できかねるかな」


 あまりの恥ずかしさに混乱しているセシリアに対し、シリカは珍しく冷静な言葉を返す。

 とはいっても、シリカにもセシリアの気持ちは分かる。あれだけの痴態をさらしてしまえば、どんな人間だって、恥ずかしくもなるし、テンションだってだだ下がりだ。


「はぁ……聖女として、頑張らないといけないのに、この体たらく……本当に自分が情けないです」


 未だ落ち込み続けるセシリア。

 そんな彼女に、シリカは一つ問いを投げかけた。


「あのさ。一つ質問なんだけど……セシリアちゃんが、護衛の人をつけてないのって、聖女は一人で頑張らないといけないって思ってるから?」


 その言葉を聞いた瞬間、セシリアの方が一瞬震えた。かと思えば、その顔をゆっくりと上げ、不思議そうな表情を浮かべながら、口を開いた。


「……なんでそう思うんですか?」

「いや、何となくそうじゃないかなって。私も一時期、そう思ってたことがあったから」


 シリカも、『紅の聖女』が亡くなった直後は、同じように考えていた。

 もう先生はいない。自分一人で何とかしなければならない。

 それが、聖女なのだから。

 聖女は人々の希望であり、標であり、光だ。そんな存在が、誰かに頼ってなどいてはいけない。そんな弱さを見せてはいけないのだ、と。

 力と立場、その両方があるからこその悩み。聖女になれば、必ずついてくる代物なのだ。


「……わたしは、聖女と言っても、新米です。実績はなく、ただ家柄のみで選ばれたようなもの。そんなわたしが認められるには、それこそ功績をあげるほかない。それこそ、たった一人でなんでもこなせるような、そんな存在にならないといけないんです……」


 たとえば、あの『紅の聖女』のような。

 セシリアが目指す聖女とは、つまり彼女のような存在。誰にも負けず、何にもおびえず、常に堂々とした振る舞い。

 彼女は今でも覚えている。

 その苛烈でありながらも、凛々しい強き聖女を。

 そんな彼女を目指し、努力し、研鑽を積み重ねてきた。

 けれど。


「でも、だというのに、虫の幻を見ただけで、泣きわめき、子供のように人に抱き着く。しかも、抱き着いたのが、先達に対してだなんて……わたし、聖女には向いてないのかもしれません」


 何度目かの溜息。明らかなネガティブモードに対し、シリカは「うーん」と言いつつ、首を捻った。


「そうかなぁ。でも私、セシリアちゃんは聖女に向いてると思うよ?」

「……どうしてそんなことが言えるんですか? わたしのこと、何も知らないのに……」


 少し棘のある言葉。そのことに気づいたセシリアは、やってしまった、と心の中で吐露する。しかし、取り繕うにも次の言葉が見当たらない。

 しかし、そんな彼女の心境など分からないシリカは、笑みを浮かべて言い放つ。


「いやいや、知ってるよ。貴女のことは、色々と調べたからね」

「調べた?」

「うん。だって―――貴女を次の聖女に推薦したの、私だもん」


 刹那。

 シリカは、そんなとんでもないことを口にしたのだった。

三十六話目投稿です!!

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します。

それだけで、作者に元気が湧きます。励みになります。そして、もっと構ってほしい愚かな作者が続きを書こうとします。

なので、みんなで馬鹿な作者に餌をやりましょう!!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。

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