三十一話 炭鉱の魔獣①
「……いつまで付いてくるつもりですか?」
炭鉱に向かう途中のこと。
セシリアは歩きながら、後方にいる二人に対し、問いを投げかける。いや、正確には一人に対してなのだが……。
「もちろん、炭鉱まで一緒に」
即答する先達に対し、セシリアは青筋をたてて言い放つ。
「だ、か、らっ。何でそうなるんですかっ!? 昨日言いましたよね!? わたしは一人でやるって!!」
「うん。でも、着いていったらダメとも言われてないし」
などと尤もらしいことを言うシリカ。
確かにその通りなのかもしれないが、昨日の空気でそれは言わなくてもわかるはずだ。いや、彼女の場合、分かったうえでのことなのだろう。
「くっ……なら今言いましょう。着いてこないでください。迷惑です」
「うん。ごめんね。でも、一緒に行くって決めているから、それは聞けないかな」
「結局聞く気ゼロですかっ!! もうホント自由ですね、貴方はっ!!」
マイペースにも程がある有り様に、セシリアはツッコミを入れざるを得なかった。
そんな彼女に対し、ナインもまた、どこか渋々といた顔つきで、口を開く。
「諦めろ。こいつがこうなったら、聞く耳持たん。加えて、オレ達の目的も炭鉱の魔獣とやらだ。お前が退治しに行くというのなら、同行するほかない」
「? どういうことですか」
「えっとね。師匠もね、教会から炭鉱の魔獣退治を依頼されてるの」
それこそが、シリカ達がここに来たもう一つの理由である。
そもそも、セシリアの情報はロマから聞き出したもの。その際、交換条件として出されたのは、ここの魔獣退治である。
もしも、シリカ達が到着した時に既に魔獣が倒されていればそれでよし。まだならば、一緒に聖女と共に魔獣を倒すこと。それが、今回の依頼内容であった。
「だから一緒に行った方がいいでしょ?」
「……分かりました。しかし、それはそちらの事情のはず。わたしには別に関係のないことです」
頑なに一緒に行動することを拒否するセシリア。
そんな彼女に対し、ナインは大きなため息を吐きつつ、言う。
「別に、一人で魔獣退治をするのは構わん。オレ達はついていくだけだ。手柄を独り占めしたいのなら、そうすればいい。もし魔獣をお前が一人で倒せたのなら、こちらとしては『聖女が魔獣を倒した』と報告するだけでいいからな」
「そういう問題では……」
「阿呆が。オレ達としても、依頼を受けてここにいるんだ。それこそ、お前が魔獣を一人で倒すのに合わせる道理がどこにある? 獲物はくれてやると言っているんだ。これ以上の譲歩はない」
きっかけはシリカの我儘ではあるものの、ナインは歴とした仕事としてここにいるのだ。彼女からしてみれば、確かにセシリアの言う通りにする理由など、どこにもない。
「セシリアちゃん。絶対に仕事の邪魔はしないから。だから、一緒に行こ? ね?」
再度説得を試みるシリカに対し、セシリアは。
「………………分かりました」
長い長い沈黙の後、絞り出したかのような声音で、了承したのだった。
*
炭鉱に着いた一向は、早速内部へと足を踏み入れた。
昔から採掘されていたらしく、内部はまるで迷路のようにあちこちに道という道があった。さながら、アリの巣状態である。
そんな中を松明を持ちながら歩くシリカ達は、会話をしながら探索を続けていた。
「―――なるほど。つまり、シリカ様の使い魔を襲った者が、わたしの命を狙っている、ということですか」
セシリアの言葉に、シリカは頷く。
彼女は、ここまでの経緯をさらに詳しく説明していた。特に、スミレについての件を話し、それがきっかけでセシリアの下へとやってきたことを。
「それで、その使い魔は今どこに?」
「師匠の家で、留守番してるよ。本当は連れてきたかったんだけどね。今は師匠に出された課題の練習をしてると思うよ」
「課題……?」
首を傾げるセシリア。
そんな彼女に対し、今度はシリカの方が質問を口にする。
「それにしても、まさに魔獣が隠れてそうな場所だよね。あっ、でもここの魔獣、何でも今まで見たことがないって話なんだけど、具体的な姿形は聞いてないんだよねぇ。何か知っている、セシリアちゃん」
「さぁ。それについては、わたしも疑問に思って調べてみたのですが、目撃者の情報がちぐはぐで、具体的なことは何も分かっていないのです」
「ちぐはぐ?」
「個々人によって、目撃した内容が違うのです。一人は巨大な大蛇を見たと言っていたのですが、同時に見ていたもうひとりは巨大な蠅を見ていたと言っていました。他にも何人かのものに聞き込みをしましたが、同時に魔獣を見たはずなのに、その外見が全く違うものだったそうで」
炭鉱で作業していた者たちは、魔獣を目撃した際、一人ではなく、最低でも二人以上はいたという。が、同時に見たはずだというのに、その内容が全く違うとなれば、これはおかしな話である。
「見る人間によって、姿形が違って見える魔獣……確かに、そんなの聞いたことも見たこともないね」
「ええ。変化ができる魔獣は何種類かいますが、見る人間によって姿が異なるなんてものは、わたしの知っている限り、知りません」
「そうだよねぇ……あっ、そうだ。師匠。師匠なら何か知ってるんじゃないですか?」
「さてな。魔獣というくくりでなら、オレもそういう種類は知らん……だが、その正体は簡単に知れそうだぞ。何せ―――向こうからやってきてくれるのだからな」
ナインがそんな言葉を口にした直後。
炭鉱内で、不気味かつ、奇妙な声音が響き渡ったのだった。
三十四話目投稿です!!
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