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二十九話 狙われた聖女①

 それは、とある酒場での話。


「おい、聞いたか。聖女様の話」

「ああ。何でも、また強い魔獣を退治したんだってな」


 誰も彼もが話し合っている中で、またどこかの誰かが他愛もない世間話をしていた。


「にしても、やっぱ凄いよなぁ。流石はラインバート家の聖女様ってか。超上級の冒険者でも中々手を出せない魔獣も倒しちまうってんだから。そう考えると、前の聖女様よりほんと優秀なんだな」

「おいおい。そりゃ比べる相手が悪い過ぎるぜ。あのラインバート家と比べられたら、そりゃ誰だって形無しだよ」


 そりゃそうだっ! と大声で言いながら、男たちの酒は進んでいく。


「んー……でもよぉ。どうにも性格の方は問題あるらしいがなぁ」

「? どういうことだよ」

「ほら。以前話したろ? 今の聖女様が、前の聖女様を追放した話」

「ああ。あれか」


 言われ、相槌を打ちながら、男はそんな話もあったな、と思い出す。


「どうにも、やらかしているのはそれだけじゃなくてな。他にも、手柄を独り占めするために、たった一人で戦っているとか、折角助太刀しようとしたお付の騎士に激怒したりとか、そんな話もよく聞くんだよ」

「へぇ。そうなのか」

「しかも、どうやらかなりの戦闘狂でな。戦うこと以外、頭にないってくらい、戦闘以外の聖女の仕事はほったらかしとか何とか」

「そうなのか……まぁ、でもあのラインバート家の人間だからなぁ」


 ラインバート家の人間は鬼才天才の集まり。

 その中でも、戦闘面においては、ずば抜けた者が多いと聞く。一方で、戦うことしか頭にない、というのも珍しくはなく、結果、常識という枠から外れてしまった者もそれなりにいるとか。


「何か、以前の聖女様とは、どこまでも逆だな」


 セシリアの場合、功績をあげれば上げるほど、その性格面で悪い噂が広まっている。

 一方、シリカ・アルバスに関しては、功績の話は全くなかったが、悪い話というのは一切なかった。

 どちらが悪く、どちらがいいのか。そんな問答に答えはない。

 だが、敢えて言うのなら、魔獣を倒して回っている分、セシリアの方が、断然誰かの助けになっているのは確かだ。

 確かなのだが……。


「おいおい。話はこっからだって。なんでも今の聖女様、魔獣退治の報酬で得た金で、夜な夜な男をひっかけてるって噂だ」

「え、何だよ、マジかよ。それって聖女としてやばくないか?」

「ああ。本当なら、やばいどころの話じゃあない。しかも、どうやら聖女様は両刀らしくてな。小さな女の子を夜の店に連れてったって話もあるんだ。しかも口封じで、結構な額を出してるとかなんとか。」

「うっわ。マジか。幻滅だわぁ」

「まぁ、聖女としての仕事で色々と溜まってんのかもしれねぇけど、これがホントだったら、マジでひくよなぁ」


 などと話はどんどんと進んでいく。

 それは、全くの根拠のない、ただの噂話。だからこそ、彼らは何の責任もなく、語り合っている。

 だが、彼らは知らない。

 それが、一体どこから出ている噂なのかを……。


 *


 聖女が狙われている。

 それを知ったシリカの行動は早かった。


『師匠。私、ちょっとセシリアちゃんに会ってきます』


 そんな唐突かつ、素っ頓狂な提案を前に、ナインはおろか、ロマやスミレまで目を見開き、驚きを隠せずにいた。

 無論、ナインはそれを却下したが、言われて止まるほど、この弟子ばかは聞き分けはよくない。一度言い出したらなかなかに止められないことを、ナインはこの時、身をもって初めて知るのだった。

 結果。


「……なぜ、オレがこんなところに来なくてはいけないのだ」


 げんなりした表情を浮かべながら、ナインはそんなことを呟く。

 今、彼女たちは、『ロゼの街』という場所にやってきていた。

 国の北部にある街であり、そこに現聖女であるセシリア・ラインバートがいるらしい。無論、それはシリカの用事であり、ナインには全く関係のないことなのだが。


「すみません、師匠。私の事情で付き合わせてしまって」

「そう思うなら、さっさと帰る支度をしろ」

「あっ、それはできません」

「即答かっ。ちっ、本当に妙なところで融通が利かん奴だな」


 ナインはシリカと出会って、正直そこまで長くはない。が、その性格は何となくではあるが、分かっていたつもりだ。

 しかし、まさかここまで我を通すところがあるとは、思いもしなかった。


「というか、師匠が着いてきてくれるなんて、正直予想外です。『オレの知ったことか』とか言われると思ってたのに」

「ああそうだよ。現在進行中で、まさにそう思っているよ!! だが、買い出しに行かせるのならいざしらず、こんな場所に自分の魔力も持て余している馬鹿弟子を一人で送りだしてみろ。絶対に何かに巻き込まれるに決まっているだろうが」

「わ、私の信用ってゼロなんですね……」

「当然だろうが」


 迷いのない言葉に、シリカの心はボロボロである。


「……まぁ、とはいえ、お前の気持ちが全く理解できんというわけではない。自分の後輩が命を狙われているとなれば、気になるのは当然だが」


 スミレの時の反応を見るに、シリカが他人を放っておけない性質であることは、重々理解している。そんな彼女が、自分の後継者が殺されそうになっているのを知って、黙っていられない、というのもある程度は予測できる事柄だった。

 しかし、だからと言って、即行動に出るとは。

 やはり、頭の中の大事な何かが抜けているのではないだろうか。


「それで、確かセシリアちゃんは、このロゼの街にいるんですよね?」

「ああ。あの変態神父の情報が正しければ、な」


 一応、神父ということもあってか、聖女の居場所はロマからすぐに聞き出すことができた。そして、その情報を頼りにここに来たわけなのだが。


「にしても、まさかこんな場所に聖女が来るとはな」


 この『ロゼの街』は、どこにでもある街である。言い方を悪くすれば、正直何の変哲もない場所だ。違いがあるとすれば、近くに炭鉱のための山がある程度のことだが、それとて他の街にだってある代物。

 そんな場所に、聖女が来る理由。


「確か、炭鉱の中にいる魔獣退治でしたよね?」

「ああ。何でも炭鉱の中で今まで見たこともない魔獣が出たとか。おかげで、炭鉱には誰も近づけず、採掘作業はストップしたまま。このままではまずいということで、聖女に役目が回ってきたわけだが……」


 と、そこで言葉を途切れさすナイン。

 そんな彼女を妙に思ったシリカが、思わず声をかける。


「? どうしました、師匠」

「……いや、何でもない。それよりも、馬鹿弟子。お前、聖女に会って、どうするつもりだ?」

「え? そりゃあ、命が狙われることを伝えるに決まっているじゃないですか」


 何を当たり前のことを、と言わんばかりの顔をする弟子に対し、ナインは大きなため息を吐いた後、ムスっとしながら口を開いた。


「ここに来る前にさんざん言ったがな、そんなもの手紙の一つでも送ればいいだけの話じゃあないのか?」

「いやいや、その理由もここに来るまでにさんざん言ったじゃないですか。命の危険が迫っているのに、手紙で済ますわけにはいかないって」


 その一点において、シリカは譲ることは決してなかった。

 人の命がかかっている。それは重大なことであり、ましてや知り合いともなれば、何もしないというのはできない相談だ。それこそ、命の危機が迫っているというのは、教えなければならない。

 その理屈はナインにも分かる。

 分かるのだが……なぜか、妙な違和感を感じるのは、何故だろうか。


 などと考えていると。


「……シリカ様?」


 ふと、そこでナインにとって聞き覚えのない声がした。

 振り返ると、そこにいたのは、白い修道服を着た少女がこちらを見ていた。

 この国で、白い修道服を着ることが許されるのはただ一人。

 つまり。


「セシリアちゃん……?」


 シリカ達がまさに探していたセシリア・ラインバートが、そこにいたのだった。

三十二話目投稿です!

そして、祝600P突破!!

ありがとうございます!! 連続徹夜しているかいがあります!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。

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