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二十六話 依頼報告①

「―――以上がドラゴン退治の事の顛末だ」


 自宅に帰ってきたナインは、ロマに今回の事件についての詳細を伝えていた。村人達の解毒、森にいた傷ついたドラゴン、そして、それを治癒し、最終的には弟子の使い魔にしたこと。

 その全てを聞き終えたロマは、引きつった顔をしながら、口を開く。


「ええと……ワタシの依頼って確か、ドラゴン退治のはずだったけど?」

「そうだな。だが、ドラゴンを殺せ、と言われた覚えはない。要は、あの村からドラゴンがいなくなればいいのだろう? ならば、連れ帰っても問題はないはずだ」

「うわー。全く悪びれもせずな発言。そこまでいくと、逆に清々しいわね」


 退治と言っておいて、その対象を連れ帰る奴がどこにいるのか。はっきり言って、揚げ足取りもいいところだ。

 しかし、むかつきはするものの、一応の理屈は通っているのもまた事実。


「確かにこっちもドラゴンの対処をしてほしかっただけだから、殺さなくてもいいんだけど。……まぁ、とはいえ、確実にワタシは愚痴の百や二百、言われるんだけど、そこのところはどう思っているの?」

「ざまぁみろ」

「むっきーっ!! ホント腹立つわね、この金髪ロリ!! ほんと、はったおしたいわね!!」


 まぁ、そんなことは無理なのは百も承知。

 ゆえに、ロマができることと言えば、机につっぷし、溜息を吐くことのみ。


「はぁ。憂鬱だわー」

「知るか。そもそも、オレのところに仕事を持ってきたお前が悪い。こっちは何の不手際も起こしていないんだ。こんなことで、一々文句を言ってくるな」

「はいはい。分かってます。分かってますよーだ」


 ロマとて、ナインに頼んで何もないなどとは思っていない。むしろ、森が一つ消し飛ぶ、くらいの覚悟はしてあったので、今回のことは別の意味で予想を裏切られた形となった。

 ナインにかかれば、ドラゴンとて、一瞬でかたずけられたはずだ。だが、そうはならなかった理由は、やはり一つしかない。


「にしても、まさかドラゴンを使い魔にするなんてねぇ。流石は、アナタの弟子ってとこかしら?」

「ふん。何が流石だ。成り行き上、そうなっただけで、偶然が重なったにすぎん」

「そうだとしても、よ。よく言うじゃない。運も実力のうちって」


 ただ運が良いだけでは、恐らく今回の結果は得られなかったはずだ。偶然、ドラゴンの記憶を垣間見たとしても、それで助けよう、となるだろうか。普通なら、そんな面倒なことはしない。可哀そうだ、哀しいことだとは思っても、それだけ。きっと手を差し伸べることなどはしないはず。

 だが、彼女は敢えてそれに抗った。

 救いを求める声に応じ、それを助けようとする心。それがなければ、きっとドラゴンを使い魔になどできるわけがない。


「んー。でも大丈夫なの? そのドラゴンって確か猛毒の特性持ってるんでしょ? 相手を倒すという意味でなら強いかもしれないけど、使い魔としてはどうなの?」


 話を聞く限りでは、ドラゴンであるスミレはそこにいるだけで毒を広めてしまう。無論、傷ついていない状態ならばいくらかコントロールもできるだろうが、しかしそれも万全ではない。だからこそ、彼女は今までのけ者扱いを受けてきたのだから。

 しかし、ロマの疑問にナインはあっけらかんとした口調で答える。


「それについては問題はない。一応の解決はしてある。いや、この場合、してしまった、というべきか……」

「え、何その意味深な言い方。気になるんだけど」

「安心しろ。ちゃんと話してやる。とはいえ、こればっかりは、オレにも予想外のことだったんだが……」


 などと言葉を零しつつ、ナインは語りを続けていった。


 *


 話はシリカがスミレと契約した直後に遡る。

 その異変に気が付いたのは、ナインだった。


(? 周りの毒の霧が一斉に晴れた……?)


 先ほどまで森の中に充満していた毒の霧。それらが一気に消失してしまっている。考えらえることとしてば、スミレの傷が完治したため、毒を制御した、ということだろうが……。


「? おいドラゴン。お前今、毒の霧を制御したか」

『え? いえ、そんなことはしてませんが……』


 スミレからの返答はそんなものだった。

 嘘をついている様子はなく、恐らくそれが本心なのだろう。ならば、無自覚で毒を制御したのだろうか。

 いいや、そもそも、だ。

 これは毒を制御するとか、そういう次元の話ではない。

 文字通りの消失。毒を消し去ってしまっている。


「まさか……」


 ふと一つの疑問が浮かんだナインはスミレに対し、問いを投げかける。


「おいドラゴン。お前、毒の息吹とか出せるか?」

『? はい。一応、私毒のドラゴンなので……』

「なら、ここでそれを出してみろ」

『え……し、しかし、そのあれは毒気が強すぎて、草木を一瞬で枯れさせるどころか、溶かして消し炭にまでする代物で……』

「構わん。もしもの時は、オレが何とかしてやる。いいからしろ」

「ちょ、し、師匠? どうしたんですか、急に」


 シリカは、唐突な師の言葉に困惑していた。


「少し気になることがあってな。そのためにも、こいつに毒を吐いてもらう必要がある」

「でも、スミレにとって毒は……」

「ああ。理解している。が、これはその毒に関係する重要なことだ」


 真剣な眼差しで言い放つナイン。そんな師の言葉を、シリカは断ることができなかった。加えて、スミレが随分と苦しんできた毒に関してのこととなればなおさらである。


「えっと、スミレ。お願いできる?」

『マスターが言うのなら……』


 シリカに頼まれたことで、スミレはその大きな口を開いた。

 そして、次の瞬間、毒の吐息が吐き出される

 ……はずだったのだが。


『あれ……?』


 目の前の光景に、思わずスミレはそんな言葉を漏らした。

 彼女が吐き出したのは毒の息というには、あまりにも真っ白なものだった。それも、息というよりは、光に近い。そして、その光は近くの木々に触れるものの、朽ちることはなかった。


『これは一体……』

「やはりそうか……」


 驚くスミレに対し、ナインはどこか納得したような口調で続ける。


「先ほどからここら一帯の毒気が無くなっていることから予想はしていたが……どうやら、お前のドラゴンは毒の性質を失っているらしい」

「毒の成分を失っている……?」

「正確には、こいつの性質そのものが変質してしまっている」


 変質。

 その言葉を聞いた瞬間、シリカの頭に何かが横切る。


「ええっと、まさかとは思うんですけど、その原因って……」

「お前の魔力以外、ありえないだろうが」


 端的に、そしてはっきりと言われ、シリカは毎度のことながら、思ってしまう。


 ま、た、か、と。

二十九話目投稿です!

そして、祝500P突破!!

ありがとうございます!! 本当に、励みになります!!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。

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