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十九話 ドラゴン退治の前に②

「……作れるだけ作れと言ったが、何もここまで作る必要はないだろうが」


 救護テント、その一つでナインは目の前にある瓶の山を見ながら呟く。

 それらは全て、村人のために作った解毒薬。

 この村は小さな村ではあるが、住んでいる人間は、大体百人前後。故に、それだけの解毒薬を作るとなると、必然的に百個は必要となる。

 しかし、ここにあるのは、明らかにそれ以上の数だった。


「村人の人数の倍……いや、三倍以上か? これだけ作ってお前、どうするつもりだ?」

「あはは……すみません」


 自分のことではあるが、流石にこれはシリカもやりすぎだと思う。

 村人を助けようと必死になって解毒薬を作っていたが、それに集中しすぎて、途中から数えるのを忘れていた。

 ナインが気づいて止めなければ、恐らくさらに倍以上の解毒薬を作っていただろう。

 そして、その一つを使ってみると。


「凄い……凄いぞ、本当に効いている!? あれだけ死力を尽くしても無理だったというのに……!!」


 男は驚きの声を上げつつ、歓喜していた。


「ありがとうございます、魔女様っ!! これで、みんな助かります!!」

「礼を言うのなら、オレではなく、そこの馬鹿弟子に言え。オレも毒の元がほとんどない状態でこれほどの効果を発揮できる薬をつくることはできんからな」


 言われて、男はシリカの方へとやってくる。そして、その両手を手に取り、涙を流していた。


「本当に、本当になんとお礼を言ったらいいのか……」

「い、いいえ、私は別に、薬だって師匠の調整がなかったら使えなかっただろうし、私がしたことなんて、そんな大したことじゃ……」

「しかし、貴方がいなければ、ここの村は全滅していました。貴女がいなければ、皆、死んでいたはずです。本当に、感謝の言葉が絶えません……!」


 何度も何度も頭を下げながら、感謝の言葉を述べる男。

 その様子から、彼がこの一か月間、どれだけ苦労してきたのかがうかがえる。きっと、本当に心の底から村人たちを救おうと努力してきたのだろう。

 そんな彼に対し、シリカがやったことと言えば、ただ解毒薬を作っただけ。一か月間もの間、悪戦苦闘してきた者と、たった一日薬を作った者。どちらがこの村に貢献してきたのか、そして苦労をしてきたのかは目を見るよりも明らか。

 ゆえに、シリカは自分がどんな反応をすればいいのか、戸惑いを隠せない。

 が。


「おい。馬鹿弟子。前にも言っただろうが。下手な謙遜はするな。お前は薬を作り、それでこの村の奴らは救われた。故に、村の連中からしてみれば、お前のやったことは大したことなんだよ。何せ、命を救ったわけだからな」


 だから。


「もっと胸を張れ。お前がやったことは、それに値することだ」


 師匠の言葉に、シリカは思わず呆然としながら、思う。

 無才、無能、最弱とまで言われた自分が、誰かの役に立てたのか。そして、それは胸を張ってもいいことなのか。

 未だ違和感はぬぐえない。しかし、それでも、シリカは自覚する。

 自分は、人助けをすることができたのだ、と。


 *


 その後もシリカが作った解毒薬を使用したおかげで、毒に侵されていた村人は、回復の兆しを見せだした。

 中には重篤な者もかなりいたが、それら全員も命の危機からは脱したようだった。

 これで村が全滅することは回避できた……のだが。

 シリカ達の本当の仕事は、これからなのである。


「ここがドラゴンが目撃された森ですか……」


 森の中を歩きつつ、シリカは周りを見渡す。未だ空気中に毒素が蔓延している状態ではあるがものの、異常なところといえばそれくらいで、他に気になるような点は見当たらなかった。

 むしろ、この毒のせいで他の森よりも生き物の気配が少ない、というところくらいか。


「でも、本当にドラゴンなんているんですかね?」

「何だ。お前、ドラゴンの存在を疑っているのか?」

「いや、疑っているわけじゃないですけど……」


 ここまでの被害が出ているのだ。何かしらの原因があるのは明らか。

 しかし、それがドラゴンだ、と言われてもいまいちピンときていないのもまた事実。何せ、ドラゴンなんてものは、それこそ御伽噺にしか出てこない生き物なのだから。


「まぁ、普通に生きていれば、絶対に出会うことはない存在だからな。空想や幻想の存在、と思われるのも無理はない。千年前も希少種と言われてたくらいだ。今ではさらに減っている。正直、オレも半信半疑、といったところだしな。とはいえ、あのロマがドラゴン退治、と言ったんだ。恐らくは何かしらの確証があるんだろう」

「確証って、何です?」

「さぁな。あいつは大事なところをはぐらかすところがあるからな。そのおかげで、毎度毎度、ロクな目に合わないが……」


 しかし。


「それでも、あれは憶測や推測で断定したことは言わない。故に、ドラゴンがいる、またはそれに相当する何かがいると考えるべきだろう。気を引き締めてかかるぞ」

「はいっ」


 ナインの言葉に、シリカは気合を入れた返答をしながら、森の奥へと入っていったのだった。

二十ニ話目投稿です!!

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します。

それだけで、作者に元気が湧きます。励みになります。そして、もっと構ってほしい愚かな作者が続きを書こうとします。

なので、みんなで馬鹿な作者に餌をやりましょう!!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。

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