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十八話 ドラゴン退治の前に①

 ドラゴン。

 それは、この世界において、最強と言われる種族の一つである。

 よくよく間違われるが、彼らは魔獣ではない。精霊に近い種族であり、そしてそれ故に強い。かつてはもっと多くのドラゴンがいたというが、時代が変化し、彼らも精霊と同じように、その数を劇的に減らされていった。

 が、逆に言えば、今残っているドラゴンは、そんな状況下でも生き残ってきた、ということになる。


 そんなドラゴンが、とある村の近くで目撃されたらしい。


 今や希少種となったドラゴンが目撃されるというのは確かに珍しい。が、今回については、珍しいだけでは済まない状況になっている。


「これは……」


 シリカは、目の前の光景に言葉を失っていた。

 彼女たちは今、ドラゴンが出た場所のすぐ近くにある村を訪れた。しかし、そこにあったのは、奇妙な霧に覆われた姿だった。


「毒の霧だ。普通の人間なら、まともに吸えば身体に機能障害が起こる」

「でも……この霧って村全体を覆ってますよね。だったら……」

「ああ。こんな状態では、村人は無事ではないだろうな」


 そんなことを呟くナイン。

 そして、二人は教会が作った救護のテントへと向かった。

 そこには、大勢の村人が横になっており、だれもかれもが、暗い顔をしていた。そしてそれは表情だけの話ではない。実際にせき込む者や中には吐血する者すらざらにいた。


「ひどいですね……」

「ああ。まさか、ここまでとはな」


 言いながら、ナインはテントの中を見渡す。いや、正確には、その中にいる村人達か。


「全員、毒でやられているな」

「師匠っ。早く皆を助けないと……!!」

「落ち着け。慌てたところで、状況が良くなることはない」


 はやる気持ちを抑えられないシリカに対し、ナインは落ち着いた口調で言い聞かせる。

 と、そこへ二人に対し、一人の男が話しかけてきた。


「あの、貴方がたは……?」

「調停者・ロマデウスの依頼で来た者だ。お前が教会の者か」

「調停者……もしや、貴方があの『楔の魔女』様ですか!?」

「ああ。そうだ」


 短い返答。

 しかし、男は、まるでその言葉を待っていたかのように目を見開き、そしてその場に跪く。


「よくぞ、よくぞ来てくださいました。最早ダメかと……もうこの村は見捨てられたものだとばかり……」


 その態度と言葉から、今の状況がどれだけ切迫したものなのか、ナインはおろか、シリカですら理解せざるを得なかった。


「状況は、ごらんのとおりです。ひと月ほど前から原因不明の毒素が撒かれ、それにより、村人が次々に倒れていったようで。我々がかけつけた時には、もう手遅れの状態でした」

「ひと月、か」

「幸運なことに、未だ死者は出ておりません。が、それももう時間の問題でしょう。色々と薬を試してはみましたが、毒そのものが見たことがないものでして。解毒薬を作ろうにも作れず、といった状況で……」


 それはそうだろう、とシリカは心の中でつぶやく。

 どんな凄腕の医者や魔術師であっても未知の毒の解毒薬を作るとなれば、相当苦労する。ましてや、それが原因不明の毒ともなれば、尚更。


「それで? この毒を撒いているのがドラゴンであるというのは本当か?」

「恐らくは。村人の話ですと、森に出かけていた青年が、ドラゴンを見た次の日からこんな状態になったらしく。最初は、微々たる量で、村人もおかしいと思う者はいても、体に害が及ぶことはなかったのですが……」

「日に日に毒の濃度があがり、今ではこの有様、か。ドラゴンの中には、毒を持つ種類もいると聞いたことはあるが」

「そもそも、ドラゴン自体、希少種である中で毒を持つ種類も相当少なく、当然それに対する特効薬を作ることは、今の我々にはできませぬ。やれることといえば、既存の薬で毒の浸食を遅らせることくらいしか……」


 息を吐き、肩を下す男の姿はすでに焦燥しきっていた。


「もしも、あのエリクサーさえあれば、村人を救えるのに……」


 男の言葉に、シリカは思わず、「え?」と声を漏らしてしまう


「あ……ああ、すみません。つい口が滑ってしまって……いけませんね。あんな夢物語のものに頼ろうだなんて」


 乾いた声で笑う男。

 しかし一方で、シリカはそんな男の言葉に思わず懐に手を当てた。


「……、」


 ここに来るとき、シリカもまた準備はしてきている。

 自分が毒にやられないよう、ナインから貰った布で口や鼻を塞いだり、薬を作るための道具一式も全て鞄に入っている。

 そして、だ。

 もしもの時のために、以前自分が作った『失敗作』も数本ではあるが、持ってきていた。


「あの、師匠!!」

「ダメだ」

「え、まだ私何も言ってませんけど!?」

「言わずともわかるわ。どうせ、その懐に隠してある『失敗作』を使わせてくれというんだろう?」


 指摘され、うっ、と唸るシリカに対し、ナインは続けて言う。


「阿呆が。その数本で、ここの村人全員を助けられるわけなかろうが。加えて、それはあくまで傷薬として作られた失敗作だ。今回、オレ達が必要なのは、解毒薬。いくらエリクサー並みの効果があるとはいえ、用途が違うものを使用するなど、話にならん」


 尤もな言い分だった。

 傷薬と解毒薬。その二つは同じ薬でも、大きく異なる代物だ。そして、シリカが作った失敗作はあくまで、エリクサー並みの効果がある傷薬。言ってしまえばそれだけだ。傷に関しては無敵でも、毒への対処は全くされていないのだ。

 しかし、それは逆に言えば……。


「ま、お前がここで力を制限せず、エリクサー並みの解毒薬を村人全員分作るというのなら、話は別だろうが」

「師匠……!!」


 師の思わぬ提案に、シリカは驚く。


「本当は、毒の元を見定めてから解毒薬を作るつもりだったが、こんな状況だ。癪に障るが、今回はお前のその馬鹿げた力に頼るとしよう。空気中に蔓延している毒素を素材に、解毒薬を作る。本来はその程度の素材では解毒薬は作れんが、恐らくお前の魔力ならば可能だろうよ。解毒薬の作り方は覚えているな?」

「は、はい!」

「よし。なら、作れるだけ作ってみろ。細かい調整は、オレがしてやる」

「っ、ありがとうございます!!」


 そうして、シリカ達は解毒薬作りにとりかかったのだった。

二十一話目投稿です!!

そして、祝300p突破!!

ありがとうございます!! 腹痛に耐えながら執筆したかいがあります!!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。

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