十七話 神父の依頼
「全く。人を三時間以上もまたせるなんて。おかげで虫に刺されまくったわ」
頬や腕などの肌をさすりながら言う神父に対し、ナインは鼻で笑いながら、言い放つ。
「まぁそうだろうな。この森の虫には、お前が来たら刺すよう魔術をかけてあるからな」
「え、何その地味な嫌がらせっ!? やり方が陰湿すぎるっ!?」
「どこが陰湿なものか。不審者に対しての防犯としては最適だろうが」
「しかも人を勝手に不審者扱いしてる!? もうほんとやだわーこの金髪ロリ」
「喧しい。唐突に来ておいて、文句を垂れ流すな。変態神父が」
などと言い合う魔女と神父。その光景は、ちょっとした違和感を覚えるものだった。そもそも、魔女と神父が一緒にいること自体が、珍しい状況だろう。何せ、教会からすれば、魔女はあまり歓迎される存在ではないのだから。
「お茶です。どうぞ」
「あら。ありがと。貴方がナインの弟子ね? 初めまして。ワタシは、ロマデウス。気軽にロマって呼んでね」
「シリカ・アルバスです」
言いながら、シリカは頭を下げる。
しかし、その行為が気に入らなかったのか、ナインはムッとしながら、口を開く。
「おい弟子。わざわざこんな奴に名前を教えてやる必要などないぞ。そもそも、偽名を平然と使うやつにロクな奴はいないからな」
「ちょ、そういうこと勝手に言わないでくれる!? しかも、初対面の女の子に対して!! 勘違いされたらどうするのよっ。というか、偽名じゃなくて、仕事用の名前なだけですーっ」
「本当の名前ではないのだから、偽名には違いなかろうが」
「むっかーっ。相変わらず、見た目以外、ほんっと可愛くないわね!! ほんと、見た目以外全然タイプじゃない!!」
などとまた口喧嘩が始まりそうになる。
それを察して、シリカはロマに対し、問いを投げかけた。
「ええと、お二人の関係は、どういう……?」
「こいつは教会からの使いだ。定期的にオレのところへやってくる。鬱陶しいことこの上ないゴキブリのようなものだと思えばいい」
「ちょっと、人をゴキブリ呼ばわりって、失礼しちゃうわね」
「喧しい。それより、今日は何の用だ?」
「あら。何の用って、そりゃもちろん、あの『楔の魔女』が弟子をとったって聞いたから、急いでかけつけたにきまってるじゃない。しかも、それが元聖女なら、調停者としては無視できないでしょう?」
調停者。
その単語は、シリカも知っている代物だった。
「調停者……? って、あの調停者ですか? 特定の人物と教会のトラブル処理をするための特別な役職の」
「ええそう。その調停者で間違いないわ。とはいっても、ワタシの場合、相手は魔女だったり、魔術師だったり、時には人間以外だったり、いろいろだけど」
「でも確か、調停者って、凄い危険な仕事で、だから厳しい訓練を耐え抜いたエリート中のエリートしかなれない、超一流の役職って聞いたことあります」
「あらやだ。エリートだなんて、恥ずかしいじゃないっ。もっと褒めて褒めて!」
などとふざけた口調で言うロマだったが、実際に調停者という役職は相当な地位にある。それこそ、その権限は時に、教会の幹部にあたる大司祭と並ぶほどといわれるほどだ。
しかし、そんなロマに対し、ナインは鼻で笑った。
「はっ。調停とは笑わせる。監視役の間違いだろうが」
監視役? どういうことだろうか。
疑問に思っているシリカに対し、ナインは続けて言う。
「教会は昔から何かとオレのことを疎ましく思っているからな。それこそ、何度ももめ事を起こしたものだ。そのために、今でもこんな奴を定期的によこして、オレを監視しているのさ」
「んー、まぁその役目もあるから、別に否定はしないけど。でも、監視っていってもねぇ。アナタ相手に、そんなの無意味だと思うけど。その気になれば、ワタシどころか、教会という組織すら、簡単に潰せちゃうんだから」
さらり、とロマはとんでもないことを口にした。
教会は、それこそ多くの国に信者を持つ、言わば巨大な組織。その力は、一つの国すら簡単に操ることも可能と言われるほどだ。
そんな教会を、簡単に潰せると言わしめるナインの実力は、一体どれほどのものなのだろうか。
「でもねぇ。色々と文句は言っているけど、その分見返りは渡してるはずよ? 金銭もそうだけど、他にも結構優遇してるはずよ。ワタシが仕事をもってきてあげてるんだから感謝しろ、とは言わないけれど、そう邪険に扱わなくてもいいと思うのだけれど?」
「はっ。よく言う。その仕事が毎度毎度ロクなものではないだろうが」
「それはそうでしょ? ワタシが持ってくるのはアナタにしか解決できないような仕事だもの。そう簡単なわけないでしょ」
ロマの言葉を聞き、シリカはどこか納得していた。
この国、ひいては世界には冒険者という者たちがいる。ざっくばらんに言えば、組合という組織に所属する何でも屋だ。特に魔獣退治においては、彼らの仕事と言い換えてもいいほど。無論、それだけではなく、薬草採りから重役の護衛など、さまざまである。
そんな団体があるというのに、わざわざ教会が魔女に頼みごとをしてくるとなれば、それこそ何かしらの事情がある、とみるべきだろう。
そして。
「で? 今日もそんな仕事を持ってきたというわけか」
ナインの言葉に、ロマは苦笑する。
「ええ。大当たり。シリカちゃんの顔を見に来たってのも本当だけどね」
「ふん。白々しい言い分だ。それで? 今回の仕事の内容は何だ」
「別に、アナタからしてみれば、そう大したことじゃないわ。ちょっと村を壊滅させてる、ドラゴンを退治してもらうだけだから」
あっけらかんと。
ロマは、そんなとんでもないことを口にしたのだった。
二十話目投稿です!!
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