表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/120

序 聖女引退②

 シリカ・アルバスは魔女になりたかった。


 箒で空を飛び、動物とお喋りし、人を助ける薬を作る―――幼い頃から、そんな魔女の話を聞いて育ったシリカは将来は魔女になりたいと夢見ていた。

 魔女とは、隣人であり、賢人でもある。その数は圧倒的に少ないものの、昔から確かに人間と共に暮らしてきた。村で病人が出れば薬を作ってくれたり、森の動物が起こしたトラブルを解決してくれたりなど、そういった関わりを持っていた。

 しかし、一方で魔女という言葉を聞いて、あまりいい顔をしない人々もいることは承知している。魔女は邪悪で、凶悪。人間を惑わす悪魔の使いだと信じている人もいる程だ。事実、過去には人々に仇なした魔女も確かに存在する。

 けれど、シリカは幼い頃から母親から魔女の話を聞き、人々を助ける、彼女たちのような存在になりたいといつの間にか思うようになっていた。

 いつか自分もきっとなれる。

 そう信じていたシリカの願いは、ある日突然木っ端微塵に吹き飛ばされる。


『今日から貴様は聖女の後継者だ。異論は認めん』


 母が亡くなった直後、そんな言葉をぶつけてきたのが、『紅の聖女』。史上最も苛烈だったと謳われた聖女である。

 どうやらシリカには聖女になりうる資格があったらしく、それを『紅の聖女』は見抜き、シリカは抵抗する間もなく、聖女の後継者となった。

 魔女になりたかった少女が聖女の後継者になる……何と皮肉な話だろうか。魔女とは打って変わって、聖女は国、ひいては世界にたった一人の存在であり、神から与えられた奇跡の象徴。そんな、誰もが敬う存在にシリカは自分の意思とは関係なく、なってしまったのだ。

 最初は混乱したものの、しかしシリカはその状況を徐々に受け入れていった。確かにシリカは魔女になりたかった。けれど、聖女だって人々を助け、守り、導く存在だ。力の根源が違ったり、規模が違ったりはするが、誰かのためになれるのなら、それは素晴らしいことであるのには間違いがない。

 故に、シリカは聖女の後継者として、一生懸命、鍛練を重ねていった。


 だが、そんな彼女をまるで嘲笑うかのように、聖女の力は、年々と力が弱まっていった。

 おかしな話である。剣術でも魔術でも、個人差はあるものの、積み重ねれば、上達していくのが自然の摂理。

 しかし、シリカの場合は、修行を、訓練を、練習を死ぬほど続けていったのにも関わらず、彼女の力がまるで成長しなかった。それどころか、治せる傷も小さいものになっていき、いつしか、かすり傷程度のものしか完治できない代物へと変貌したのだ。


『……期待はしていなかったが、まさかここまでとはな』


 そんな先代の言葉を聞き、シリカは悟った。

 ああ、自分は正真正銘の落ちこぼれであるのだ、と。

 聖女の力は誰しもが継承できるものではない。だが、一人にしか受け継ぐことができないわけでもない。継承できる少女はごく僅かではあるが、複数存在している。シリカはその中の一人であるだけであり、それをたまたま『紅の聖女』が見つけただけだ。

 そして、そんな自分は恐らく、聖女候補の中でも一、二を争うほどの無才であるのだと理解する。

 聖女になれる資格は持っているものの、聖女の力を扱える才能がない。

 全くもって、笑える話だ。


 しかし、『紅の聖女』はシリカを後継者にしたまま、彼女を育てた。

 本来ならば、聖女の資格を持つ者は他にいる。だが、それを見つけ出すのはあまりにも困難。だから、仕方なく、シリカを後継者として育て続けたのだろう。

 けれど、それもいつまでもは続かなかった。


 ある日、本当に突然、『紅の聖女』は病に倒れ、そして亡くなった。それは、あまりにも呆気ないものであり、誰も彼もが信じられないと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 だが、問題は別にある。『紅の聖女』が死んでしまった今、誰が聖女になるのか。彼女の後継者は、シリカただ一人。故に、彼女が次の聖女の地位に就いたのだ。


 ここに来て、再び唐突な出来事に困惑しながら、シリカは聖女の仕事を全うしようとした。人々を助けたいという願いは昔からあったし、何より経緯はどうあれ、自分を育ててくれた『紅の聖女』に対する恩返しになると思ったから。


 しかし、だ。それも長くは続かなかった。

 当然である。彼女は聖女の力は継承できても、その力を完全に使いこなすことができずにいたのだ。聖女の力とは、神の力と同義。それが、傷薬で代用できるくらいの能力しかないとなれば、話にならない。加えて、彼女には人望もなかった。元々、『紅の聖女』が気まぐれで拾った少女という肩書きが彼女にはつきまとっており、今の地位にいるのも『紅の聖女』のおかげであり、彼女自身の力ではない。そんな人間に誰も憧れることも、慕うこともしない。

 結果、彼女は『最弱聖女』などという渾名で呼ばれるようになっていった。


 そして、二年という月日が経った今。

 彼女は、聖女の地位も力も、完全に失ったのだ。

 失ったのだが……。


「やっと聖女じゃなくなったんだから、魔女になっても問題ないですよねっ」


 流石に、聖女を引退してすぐにこの発言は、どうなのだろうか。

二話目投稿です!!

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します。

それだけで、作者に元気が湧きます。励みになります。そして、もっと構ってほしい愚かな作者が続きを書こうとします。

なので、みんなで馬鹿な作者に餌をやりましょう!!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ