十三話 薬作り①
杖を入手してから、一週間。
シリカは、魔女の弟子として、修行の日々に励んでいた。
結果から言って、ナインの予想は当たっており、シリカはどんな魔術を使っても、治癒の効果が付与されるようになっていた。
「【サンダド】」
杖から放たれる雷。しかし、それらは目標である瓶に直撃するものの、丸焦げはせず、帯電させるだけだった。
ちなみに帯電した瓶に触った途端、一瞬痺れはするものの、その結果何故か健康的になった気分になった。
「【アイスド】」
荒れ狂う吹雪。が、けれどもこれも対象を凍らせるだけの威力はなく、適度な涼しさを与えるだけであった。
ちなみに吹雪で積もった雪を材料にしたかき氷は、体力を回復させる効果があった。
「【ウィンド】」
強烈な暴風。本来は、その鋭い風で鎌鼬を発生させ、相手を切り刻む、という効力があるのだが、やはりというべきか、シリカが使用すると、切り刻んだ後、すぐに再生してしまう。
ちなみに、風は適度な涼しさであった。
雷の魔術、氷の魔術、風の魔術……他にも多くの魔術を使用してみたものの、結果は同じ。
対象を攻撃しても、傷をつけるどころか、立ちどころに治してしまう。これでは、攻撃系の魔術は全くの無意味と言っていいだろう。
別段、攻撃魔術が、魔術の全てとは言わない。だが、それらが使えないというのは、魔女にとっては大きなハンデだといえる。
とはいえ、だ。シリカには無限大ともいえる魔力があるのは事実。攻撃魔術を使えずとも、その魔力を他の用途で補えば済む。
だがしかし。
問題なのは、魔術だけではなかった。
「師匠、傷薬ができました!」
ナインの家の地下。その一室である実験場で、シリカは薬を作っていた。魔女の役目として、薬を作り、村人の病や傷を治すのも昔からの仕事の一つ。そして、それはナインも例外ではない。
ゆえに、彼女の弟子であるのなら、傷薬から媚薬まで、あらゆる薬を作る技術も知識も必要不可欠であるのだが……。
「……ほう? お前は、これを、傷薬だと、言うんだな?」
「え、えっと……はい」
シリカが作った瓶入りの傷薬を凝視しながら、青筋を立てるナインを見て、彼女は理解する。
自分はまた、何かやってしまったのだと。
「何か、おかしなところでもあるですか?」
「おかしなところだらけだろうがっ! 何で傷薬作るはずが、エリクサーなんてとんでもないもん作ってるんだよ、お前はっ!!」
「え……ええぇっ!?」
思わずシリカも声を上げる。
エリクサー。それは、ほんの極わずかな魔術師にしか作れないという伝説的な薬。どんな傷、病もそれを飲むだけで一瞬にして完治させてしまうといわれるほどの代物だ。
今ではほとんど入手することなど不可能であり、見たことがある人間などほとんどいない。無論、シリカも実物など見たことがなかったため、自分が作ったものが、エリクサーであるなどと分かるわけもなかった。
「ほ、ほんとにこれが、あのエリクサーなんですか!? あの、万能薬のっ!?」
「正確には、エリクサーと同等の効果を持つ傷薬、だがな。というか、いやほんと、お前これどうやって作ったんだ?」
「いや、作ったというか、作れちゃったというか……正直、自分でも全く意味が分かりません、はい」
それは、嘘偽りのない言葉である。
そもそも、シリカは傷薬すら作るのが初めてだったくらいだ。本来なら、そんな人間がエリクサーなんてものを作れるわけがない。
だからこそ信じられないし、ナインが半ば怒っているのも理解できる。
(普通に師匠の真似をしただけなのに……)
傷薬の作り方は、ナインから教えてもらい、またその様子も見させてもらっていた。それを見本にして、作業をしたはずだ。
料理を覚える時もそうだったが、シリカは初めて作るものは見様見真似、それこそそっくりそのまま作るようにしてある。
故に、勝手に変な材料も入れていないし、分量だって間違えていないはずだ。
「……まぁ確かに、手順も配合も間違っていなかった。オレの指示通り、というか、気色悪いほど正確に作っていたのは間違いない」
「気色悪いって」
「だが、だからこそ、解せない。なんで、あの材料と調理法でエリクサー並みの薬が作れるんだ」
千年以上生きているナインも、エリクサーの調合の仕方は知っている。多くの材料を使って、分量を間違えずに的確に組み合わせることで初めてそれは完成する。加えて、その材料がまた面倒なものばかりであり、普通なら集めるだけで一生を終えることだってある。
それを、ただの傷薬の材料と調理法で作れることなどありえない。
「考えられる原因は、一つ、か……」
瓶を見ながら考え込んでいたナインは、シリカの方へと視線を向け、言い放つ。
「おい、弟子。ちょっとお前の血を取らせろ」
十六話目投稿です!!
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