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十二話 杖と枝選び⑥

「全く……いいか、よく見ていろ―――【ファイド】」


 短い呪文。それを唱えたと同時に、ナインの杖から火の玉が放たれた。そして、目の前にあった木に直撃したと同時、木は文字通り、木っ端みじんとなる。


「【ウォルド】」


 次に出てきたのは水の玉。それらは全て飛び散った火へと正確に向かっていき、一瞬のうちに鎮火。


「おおおっ!! 今のは炎と水の魔術ですか!?」


 先ほどまでの涙はどこへやら。目の前で魔術を見たせいか、シリカの目からは涙が消えさり、爛々とその瞳を輝かせていた。


「ああ。今のは炎と水の魔術、その中でも基本となる【ファイド】と【ウォルド】だ」

「今の、どうやってやるんですか!?」

「簡単だ。魔力を集中させ、呪文を唱える。それだけだ。魔術についての細かい説明やら使用方法は後で教えてやる。今はとりあえず、杖を構えろ。狙いはそうだな……あそこの枯れ木だ」

「こ、こうですかっ!?」

「ああ。意識を杖の先に集中させろ。そこに自分のすべてを持っていくイメージだ」

「集中、持っていく、イメージ……」

「そうだ。そしたら、さっきオレが言った呪文を口にしろ。とりあえず、【ファイド】を放ってみろ。そしたらオレが【ウォルド】で鎮火をしてやる。とはいえ、魔術を放つ際に気を付けなければならないのは……」

「分かりました! まずは【ファイド】を―――」


 瞬間。

 シリカの杖先から、特大の炎の玉が放たれ、目標の枯れ木に命中。

 もっと言うのなら、枯れ木の近くにあった数本の木々も巻き込んで、火が燃え広がっていった。


「……おい。人が話している途中にぶっ放すとは、どういう了見だ」

「え、ちょ、ちょっと待ってくださいっ!! 今のは事故というか、故意じゃないというか!! その、魔術を放つつもりは一切なくて……!!」

「馬鹿者がぁ!! 杖に魔力を集中させることは、剣を振りかざすのと同じこと!! そして、呪文を口にするのは、振りかざした剣を振り下ろすのと同じこと!! そういう説明をしようとした矢先に魔術をぶっ放すやつがあるかぁ!! というか人の話が終わるまでじっとしてられんのかお前はぁ!!」」

「ひぃぃいいっ!? ご、ごめんなさいぃぃぃいいい!?」


 体を震わせながら頭を何度も下げるシリカ。その光景は、傍目からみれば、小さな女の子に平謝りする少女という何とも言えないものである。


「ったく。まぁ事前に言わなかったオレにも落ち度はあるのは事実だ。しかしだな、魔術が無事発動できたからいいものの、暴発したらどうするつもりだ。まぁいい。取り合えず、火を消さなければ……」

「ああ、ナイン。話しているところ悪いんだが、どうやら魔術は成功していないようだよ?」

「あん? 何を言って……」


 言われて、振り返るナインの視界に入ってきたものは。


「これは……木が燃えていないだと?」


 不思議な光景が広がっていた。

 シリカが放った【ファイド】は、確かに多くの木々を燃やしている。だが、そのまま塵になることなく、焦げてすらいない。

 より正確に言葉に表すのなら、燃えている、というより火が灯っている、というべきだろうか。


「いやはや、これまで長く生きてきたが、物質を燃やさない炎を見るのは初めてだ。というか、あれ、木々が若返ってないかい?」


 指摘され、ナインも気づく。最初に目標とした枯れ木が、見る見る内に葉を生やし、枝も長くなっていき、全体的に大きくなっていた。今では他の木々とも同じような、見た目となっている。それはまるで、人間でいうところの若返りだった。

 あり得ない。

 炎の呪文で対象を燃やさないどころか、逆に木の生命力を戻すとは。

 それではまるで……。


「……まさか」


 ナインの頭に一つの仮説が浮かびあがった瞬間、彼女はシリカに対して問いを投げかける。


「おい馬鹿弟子。お前の聖女の力は、確か治癒だったな?」

「え? はい、そうです。ああ、でも何度も言うように、かすり傷程度しか治せないもので……それが何か?」

「―――ああ。そういうことか。うん。なるほど。ナイン、君の予想はおそらく当たっている」


 なぜか一人納得するクルストン、そしてこれまたなぜか「はぁ」と大きくため息を吐きながら、頭をかくナイン。

 そんな二人の反応を前にして、シリカは未だ頭が混乱状態だった。


「えっと、えっと……つまり、どういうことなんでしょう? これも、私の聖女の力が関係があるんですか?」

「関係大有りだ。お前のその馬鹿げた魔力は、かつて聖女の力と一緒にいた。だから、聖女の力に魔力の方が影響されている。そして、その影響というのか、つまりこれだということだ」


 言われるものの、未だ理解していないシリカは首を傾げていた。


「分かり易く言うとだな、お前の魔力は聖女の力の特性、治癒の特性を帯びているというわけだ。本来、【ファイド】は火を発生させ、相手に攻撃するための魔術。だが、お前の場合は魔力のせいで、相手を傷つけるどころか、治してしまう。何かしらの魔術に特化した魔女や魔術師は珍しくないが、他の魔術を使っても作用する能力が限定されるとは、前代未聞だ」


 火炎魔術を使って、炎を出すことはできるが、その炎が物質を燃やさず、逆に元の状態に戻す能力を得ている。もはや、それは火炎魔術とはいえない代物だろう。


「恐らく、これは【ファイド】だけの話ではない。他の魔術でも同様の結果になるだろうな」


 ナインの推論は、恐らく当たっている。

 どんな魔術を使おうとも、それを使用するためには、魔力が必要である。故に、放たれる魔術がなんであれ、治癒という特性が付き纏ってしまうのは自明の理。

 結論。


「つまり、あれですか? 私はどんな魔術を使っても、全部が治癒系の効果を発揮する、と?」

「簡単に言えば、そういうことだ。そして、厳密に言うのなら―――お前は治癒系以外の魔術をロクに扱えない、ということになる」


 その事実を前にして、シリカは思わず、口を開けた状態で棒立ちしていたのだった。

十五話目投稿です!!

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します。

それだけで、作者に元気が湧きます。励みになります。そして、もっと構ってほしい愚かな作者が続きを書こうとします。

なので、みんなで馬鹿な作者に餌をやりましょう!!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。

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