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十話 杖と枝選び④

「………………ええと。これは、もしかして」

「失敗だな」

「ああ。枝が力に耐えきれていない……なら、これはどうだろうか。 『脇腹』枝。少々重いが、その分頑丈だ」


 再び渡され、同じように枝を振ってみる。

 と、今度はまるで巨大な猪が突進していったかのように、十メートル先まで木々が倒れ、地面が抉られていった。

 そして、これも先ほどと同様に、枝が粉々になっていった。


「これもだめか。だったら、こいつはどうだ? 『爪先』枝。頑丈さは先ほどよりも劣るが、逆に柔軟性がある。これならば」


 大丈夫だ、と言いたげな表情を浮かべるクルストン。

 しかし、そんな彼の期待を裏切るかのように、振るわれた枝は竜巻を起こしたと同時に見事にバラバラになってしまった。


 その後もクルストンは次々と枝を渡すものの、シリカはそれらすべてを壊していく。しかも、突風やら地割れやらを起こしながら、だ。

 そのせいか、徐々に自分が枝を破壊し、森を崩していく様を見ながら、彼女は心を痛めていた。

 そして、枝が五十本を超えたところで、ナインが口を開く。


「おいこら。いつまでかかっている」

「いや、そう言われてもなぁ。こんな膨大な魔力の子は初めてだからなぁ。加えて異質な魔力を持っている。相性がいい枝が見当たらないんだ」


 膨大かつ異質な魔力。それによって、今までの経験が活かすことができずにいるクルストンだったが、シリカの顔を見ながらむっとした表情を浮かべる。

 それは苛ついているわけではなく、どちらかというと、まさか、と言わんばかりのもの。


「しかし……いや、もしかすれば……」


 ぶつぶつと言いながら、クルストンは自らの左手、その人差し指を見つける。そして、次の瞬間、その先に生えている枝を折った。


「次は……これを試してみてくれ」


 今までとは違う真剣な声音と視線。それらに対し、違和感を覚えたシリカであったが、とりあえず『人差し指』枝を受け取った。

 そして、先ほどまでと同じように、枝を軽く一振りした。

 けれど、結果は今までとは違う。

 振るう度に何かを破壊してきたシリカの杖は、しかし何も壊さなかった。そして、杖もまた、木っ端みじんに吹き飛ぶことはなく、無事である。


「ええっと……これは、成功、でいいんでしょうか?」

「あ、ああ。枝はしっかりと君の魔力と適合している。しかし、これはまた、予想以上の結果だな。まさか『指』の枝、それも人差し指と相性がいいとは。いやはや、とんでもない弟子を連れてきたものだね、ナイン」

「オレの意思ではない。仕方なく、だ。……ただ、正直オレも驚いている。魔力量だけでも馬鹿げているというのに、ここまでの規格外とはな」


 シリカは未だ、魔術については疎く、魔女としては見習い以前の存在だ。しかし、そんな彼女でもクルストンやナインの反応からして、渡された枝が普通ではないことは理解できた。


「あの……この枝って、そんなにすごいものなんですか?」

「凄い? そんな言葉ではとても足りない。ウッドマンの指の枝は強力で、それを素材とした杖は魔女ですら扱える者はほんのわずか。それこそ片手で数える程度だ。しかも、その全員が、魔女の中の魔女、【大魔女】と呼ばれる者たちだ」

「【大魔女】……」


 魔女はただでさえ数が少ない。そして、その中でもさらに少ない【大魔女】となれば、その実力がどのようなものなのかは、言うまでもないだろう。


「ちなみに、そこにいるナインもそのうちの一人さ。彼女の杖は、中指の枝で作られている」

「へぇ……え? ってことは、師匠も【大魔女】ってことなんですか!?」

「何を今更。『楔の魔女』ナインと言えば、【大魔女】でも古株中の古株。最も長く生きている魔女の一人じゃないか」


 驚愕の事実。

 いや、考えてみれば、国王と知り合いの魔女が普通の魔女なわけがない。加えて、家の地下に空間を歪めた実験室を持ってたり、転移ドアなるものを使えたり、挙句千年以上も生きているとなれば、古株と呼ばれるに相応しいだろう。


「ふん。そんなおべっかを使ったところで、何もでんぞ」

「別にそんなつもりはないんだがね。けれど、そんなナインですら、指の枝の中でも一番強力な人差し指の枝を扱うことはできなかった。もはやこの枝を素材にした杖は作られないと思っていたが、いやはやなんとも、こんな奇跡を目の当たりにするとは」


 何とも大げさな言葉だ、と思うのはシリカが未だ半人前であるからだろうか。

 知識も経験もない彼女にとっては、彼らの反応が正しいのか、それとも間違っているのか、それすら判断しかねるものだった。

 けれど。


「おめでとう。君は歴史に名を残せる程の才能の持ち主だ。せいぜい精進し、励み、己を高めたまえ。そうすれば、きっと君の未来は素晴らしいモノになるだろう」

「―――はいっ」


 その言葉が心から言ってくれているということだけは、理解できたのだった。

十三話目投稿です!!

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します。

それだけで、作者に元気が湧きます。励みになります。そして、もっと構ってほしい愚かな作者が続きを書こうとします。

なので、みんなで馬鹿な作者に餌をやりましょう!!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 杖を選ぶ場面に有名な魔法学校に通うポッターさんの杖選びに近いのを感じました ウッドマンと呼ばれる精霊の数が少ないのはこういう杖などを作り出せるから狩られた可能性もあるんでしょうね
[気になる点] 魔女になったら主人公の寿命が変わるんですかね?
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