九話 杖と枝選び③
『枝選び』とは、その名の通り、相手にあった枝を選ぶ行為である。
ウッドマンの枝は確かに他とは別格の材料だ。しかし、だからといって、どこの枝も使えるというわけではない。
相手の魔力に合った枝。それでなければ、どれだけ頑丈で高出力の杖ができたとしても、扱うことができなくなってしまう。そうなってしまえば、話にならない。
だからこその、『枝選び』である。
そして、そのためには、まず相手の魔力の量、質、流れを知らなければならない。だからこそ、相手の身体をよく観察しなければならない。ゆえに、今、シリカが上半身裸でいるのは、それだけの理由である。
とはいえ、だ。
「うううっ……」
さすがのシリカも、他人に裸を見られることには、耐性はなかった。
厳密にいえば、上半身裸になりながら、クルストンに背を向けており、両手で胸を隠すような姿ではあるため、背中しか見られてないのだが、それでも恥じらいを感じてしまうのが乙女というものである。
そんなシリカの姿を見て、ナインは思わず首を横に振った。
「全く。いつまで恥ずかしがっている? 全裸にされて嘗め回されているわけでもないだろうに」
「そんなこと言っても、恥ずかしいものは恥ずかしいんですっ!」
「気持ちは分からんでもないが、その程度で一々動揺していては、魔女になった時、身が持たんぞ。というか、その、なんだ……結構あるな、お前」
「どこ見てるんですか、師匠っ」
まじまじと自分の胸部を見てくる師に対し、半裸の弟子は思わず叫ぶ。
そんな様子を見ながら、クルストンは苦笑しながら言葉を紡いだ。
「すまない。最近、どうにも服があると魔力の流れを正確に読み取れなくてね。昔は遠くからでも見分けることができたんだが、これも歳かねぇ」
「なんでもかんでも歳のせいにしていると、それこそ老化が早まると聞くぞ」
「ほほほっ。相も変わらず、手厳しいな、君は。……っと、よし。もういいよ」
「は、はい……」
頬を赤らめながら、そそくさとシリカは服を着ていく。
着替え終わり、振り向くと、クルストンは腕を組みながら何やら唸っていた
「しかし……これはまた奇妙な魔力だな」
「奇妙な魔力……? それって、量が多いってことですか?」
「それもあるが、なんというか、今まで感じたことのない魔力、と言えばいいか。色で例えるなら、魔女や魔術師の魔力を『黒』とするのなら、君は『灰色』だ。純粋な魔力とは別の『何か』が混ざっている」
「恐らく、それはそいつが持っていた聖女の力のせいだろうな」
「何だって?」
ナインの唐突な言葉に、クルストンは信じられないといわんばかりに驚く。そんな彼に事実を突きつけるかのように、ナインは続けて言う。
「そいつは、少し前まで聖女をしていた女だ。しかも、長年その馬鹿みたいな魔力と聖女の力、両方をその身に宿しながらな」
「魔力と聖女の力を? しかし、それは……」
「ああ。反発する二つの力を持ちつつ、力が発揮されるわけもなく、そいつは周りから出来損ない扱いされていた。そして、それが原因で、聖女の座から降りて、引退したらしい」
「引退……つまり、君は元聖女だと?」
「ええと、まぁそうですね、はい」
苦笑いしながら、シリカは肯定した。その様子を見てか、クルストンはようやくそれが本当のことだと認めたようだった。
「それはそれは、何とも珍しい。しかし、だとするのなら、納得だ。おそらくだが、長年聖女の力に浸されていた魔力が、その性質を変化させてしまったのだろう。だから他の者たちと魔力の雰囲気が違うわけか」
成程、と言わんばかりな表情をするクルストンに、シリカは思わず質問をぶつける。
「あのー……魔力が聖女の力に影響されるってこと、あるんですか?」
「いや、どうだろうか。そもそも、聖女の力と魔力を同時に所有する、ということ自体、聞いたことがない。その二つを持っていても、メリットなど一つもないからなぁ。そういう意味では、君は史上初めて二つの力を持っていた人間、ということになる」
史上初めて、という言葉は聞こえがいいものの、この場合は喜んでいいものなのだろうか。
「しかし、だとすれば益々難しいな。こんなものは前例がないが……取り敢えず、この『二の腕』枝はどうだ? 良質で、しなりがいい」
言いながら、クルストンは己の二の腕から生えている枝を折り、シリカに手渡す。それは、三十センチほどの長さであり、女のシリカでも、握ることのできる太さだった。
「少し振ってみろ。それで相性がいいかが判断できる」
ナインに言われるがまま、シリカはその場で『二の腕』枝を振る。
刹那。
シリカの目前にあった木々十本ほどが、まるで巨人の剣に斬られたかのように切断されていった。
そして。
それと同時に枝は木っ端微塵と吹き飛んでいった。
「……、」
その光景を前に、目を丸くさせながら、シリカは思う。
また、やっちまった、と。
十二話目投稿です!!
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