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二十二話 師弟③

 闇の中から生み出される数々の脅威。

 荒れ狂う嵐、憤慨したかのような溶岩、天の裁きだと言わんばかりの落雷。

 それらは全て自然災害。人間が太刀打ちできるものではなく、故に遭遇してしまっただけで、人は命の終わるを悟るもの。

 けれど、生憎とナインはそんな程度でやられるような魔女ではない。


 どこからともなく取り出した箒に跨り、あらゆる攻撃を回避していく。それによって、彼女には先ほどから一切の攻撃が当たっていなかった。

 最早、それは奇跡の所業。ここまでの災害を相手取って怪我の一つもしてないなど、本来なら不可能だ。

 だがしかし、だからこそ、というべきか。

 ナインは回避はできているものの、怒涛の攻撃の前に反撃をしていなかった。


―――無駄だ。ここは俺の力の中。たとえ、存在が消えにくかろうが、こちらの陣地にいることに変わりない。地の利はこちらのものだ。


「そのようだな……!!」


 苛立ちながらも、そんな言葉を口にする。

 忌々しいことに、先の言葉は紛れもない事実だった。

 ここは、『上書き』の世界。つまりは、敵の世界であるということ。その能力から察して、どんなことも思うがまま。事実、先ほどからの、ナインは奇々怪々な攻撃に悩まされていた。


 だが、悩まされていたのは、何もナインだけではない。


―――ああ、全く鬱陶しい。本来ならさっさと溶けて消えている存在が、いつまでも俺の邪魔をして……まるで、あの女のようだ。


 あの女、というのが誰のことなのかは、言うまでもなく、そしてナインもまた聞くまでもなく、理解していた。


―――加えて、何故お前のような存在が彼女の傍にいる。いや、先ほどの口ぶりからして、本来ならば、お前は彼女を消す存在だろうに。


 その指摘はある意味、尤もだった。

 ナインは異世界の存在に対抗するための存在。ゆえに、それが脅威ならば排除するのが当然のこと。ゆえに、彼女がしている行為は、本来の自分の使命に背いている。

 先ほど、自分の宿命について語っていたというのに、これは何たる矛盾か。


「確かにな。オレの生まれた理由からすれば、これはある意味矛盾だ。だが、それでも、今のオレにはこれが正答なんだよ」


―――何を言って……。


「シリカ・アルバス。あの馬鹿弟子はな、魔女になりたいと言ってきた。困った人を助ける魔女になりたい、と。本当に、何度聞いても、バカバカしい目標だ」


 魔女とはそんな甘い存在ではない。

 魔力は多い。魔術も強い。だが、結局のところ、それだけなのだ。いかに長く生き、修行を重ねようとも、魔女は万能ではない。できないことは山のようにあるし、不可能な場面に直面することもある。

 だからこそ、シリカのような考えを持っていれば、いつか必ず己の力不足に絶望する日がくるのだ。


「オレは異世界からの脅威を取り除くのが使命だ。それに嘘偽りはない。だが……それ以上に、あれが目指す道を見てみたいとも思えるのだ。人助けなどという甘ったるい考えをどこまで貫き通せるのか。その果てを、この目で見てみたい、とな」


 そう。それは、かつて、一人の少女が諦めた道。

 自分では到底辿れない茨の道を、あの少女がどこまで歩めるのか、それを見極めたいのだ。


「まぁ、つまりは、だ。あれはもうオレの弟子モノというわけだ。そういうわけで、今更父親ヅラして横取りするのはやめてもらおうか」


―――理解不能だ。お前の行動は、矛盾の塊だ。他人の行き先を見て、それで一体どうなる? それが自分に何の利益があるというのだ?


「ハッ。あの馬鹿の親だというのに、その点についてはまるで逆だな」


 父と娘が必ずしも同じようになるとは限らない。いや、むしろ、これが当然の結果と言えるのか。何せ、彼女は父親ではなく、母親達によって育てられてきたのだから。


「利益なんてものはないさ。ただ……ああ、そうだな。こんな道もあったのかと、納得できればそれでいい。オレがかつて歩もうとした道を、他の誰かが進んでいく。その姿を、有り様を、この目で見れれば、それだけで十分なんだよ」


―――意味が分からん。お前の言葉は、さっきから不明瞭で、曖昧すぎる。


「不明瞭で、曖昧、か……ああ、確かにそうかもな。だが、それは今のお前にも言えることだろう?」


―――何を言って……


「今のお前は確固とした存在ではない。『上書き』の力に依存した残骸。自分の娘の体を乗っ取らなければ復活することさえできないときた。あやふやで、不確かな存在。故に、だ。そんなお前に、一つ指摘させてもらう……お前、自分しか『上書き』の力を使えないとか思っていないか?」


 その言葉への返答は無かった。

 いいや、できなかった、というべきか。

 ナインの言っていることは、多少なりとも事実である。

 いや……多少、という言葉で終わらせていいのだろうか。

 確かに、今、自分は力を取り戻しつつある。だが、それでも未だ確固たる存在としては至っていない。未だ残骸にすぎない。

 そして、先ほどからのナインの言葉。

 それは、つまり、もしや……。


「―――揺らいだな?」


 刹那、闇が蠢いたと同時に、理解する。


 今の思考をさせることが、向こうの狙いだったのだ、と。

 ここは、『上書き』の世界。使い手の思い通りにさせる世界。

 だが、今のこの状態では、その力を十全には発揮できない。故に、現状に限って言ってしまえば、使い手が不安に思ったことも現実のものとなってしまう。


 だからこそ。

 自分以外の誰かに主導権があるかもしれない。

 そう思わせることが、彼女の、いいや、彼女たちの狙いだとしたら。


「いいや、もう遅い。これで条件は揃った―――やれ、馬鹿弟子!!」


 その言葉と同時に。

 深淵の暗闇に、一筋の光が出現したのだった。

最新話投稿です!!

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します。

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