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七話 杖と枝選び①

「魔女に必要なモノは三つ。杖、箒、そして使い魔だ」


 それが、魔女の常識の一つである。

 昔話に出てくる魔女も、確かに杖を持ち、箒で空を飛び、使い魔を連れているのがほとんど。そう考えれば、絵本などの物語も、案外馬鹿にはできないと言える。

 そして今回、シリカ達の目的は、杖を作ることである。


「通常、杖はその筋の店で買うのが普通だが、お前はかなり特殊だからな」

「というと?」

「杖というのは、より効率よく魔術を発動させ、効果を最大限発揮させる道具。それなりの力がある者ならば、杖がなくても魔術は発動できるが、杖を持っていると持っていないのとではその効力は雲泥の差だ」


 言ってしまえば、文字を書くために、ペンが必要なのと同じ。正直、インクさえあれば、指で文字を書くことはできる。だが、本来、人間は指にインクをつけて文字を書く、などという行為に慣れてはいない。そのため、文字の出来栄えが良いと言えないだろう。最悪、誰にも読めないモノができてしまうことだってあり得る。


 そして、魔術もまた同じ。

 杖が無くても魔術を使うことはできるが、あるのとないのとでは、出力も精密さも段違い。下手をすれば、杖無しで魔術を発動してしまえば、失敗し命を落とす可能性もある。

 故に、魔女や魔術師にとって、杖とは必要不可欠と言っていい。


「しかし、お前の場合は魔力量が多すぎる。専門店などで売られている杖では話にならん。それこそ、魔力測定器の二の舞になるのがオチだ」

「うぅ……」


 言われ、シリカは思わず肩を窄ませる。


「安心しろ。お前の魔力にも耐えられる杖を作る方法はある。そもそも、魔女は専門店で売られている杖は使わん。全員が、オーダーメイドの特注品だ」

「そうなんですね。あっ、じゃあ師匠のその杖も?」

「…………まぁ、そうだな。この杖は、魔女が持つ杖の中でもある意味特別製ではあるな」


 特別製、とナインは言うが、正直なところ、シリカには判断できなかった。

 ナインが持つ杖は、彼女の背丈よりも少し長く、先端が円のように丸くなっている。特徴的なのはそこだけであり、後はどこにでもある杖としか言い様がない。

 だが、人を見た目で判断してはいけないように、一見何の変哲もない道具が、特殊な機能を備えていることもあるのだろう。それこそ、魔術の道具なのだから、尚更だ。


「とにかく、だ。杖がなければ、魔術の習得など不可能だ。そのためにもまず、お前の杖を作らなければならん。そのために、ここに来たんだからな」


 ここ、とナインはいった。

 そう。今、彼女達はナインの家ではなく、とある森へとやってきている。

 とある森、と言っても、ナインの家がある森ではない。そことは別の、『魔の樹海』と呼ばれる場所だ。一度入って迷ってしまえば二度と出られないという曰く付きの森である。

 そんな危険な場所へとやってきたシリカであったが、彼女は今、危機感よりも疑問の方が優っていた。


「えっと師匠……今更なんですけど、ここ、『魔の樹海』なんですよね?」

「ああそうだが?」

「でも、『魔の樹海』って、師匠の家からかなり離れた場所にあるはずですよね? というか、自分の認識が間違いなかったら、さっきまで師匠の家にいたはずなんですけど……」

「そんなもの、玄関の転移ドアを使ってここに来たに決まってるだろう」

「いや、それ初耳なんですけど。さも当然のように言われても、こっちは困るというか……そもそも、転移ドアって何ですか?」

「そのままの意味だ。あらかじめ決められた場所に行けるようドアに仕掛けを施してある」

「えっ、それ滅茶苦茶便利じゃないですか」

「そうでもないぞ。設定できる場所はかなり限定されるからな。いざあそこへ行きたいと思っても、結局使えない、なんてことはよくあるしな」


 そうはいうものの、それでも使えることに変わりないとシリカは思う。遠くの場所に一瞬で行き来できるというのは、誰にでもできることではないのだから。


「で、師匠。この森で何をするんです?」

「言っただろう。魔女の杖はオーダーメイドだと。そして、その材料はここでしか手に入らん」

「そうなんですか?」

「ああ。何せ、魔女の杖に必要なのは―――」


 刹那、森がざわめいた。

 無数の鳥たちが鳴き声を上げ飛び立ち、どこからかやってきた風が木々の枝を激しく揺らす。だが、それ以上に奇怪だったのは、前方から聞こえてくる大きな足音。

 明らかな異常な状況に、シリカは思わず生唾を飲んだ。


「し、師匠……」

「安心しろ、心配はない」


 緊張するシリカに対し、ナインは至って平常だった。


 そして、そんな二人の前に、『それ』はやってきた。

 最初、シリカが『それ』を見て思ったのはただ一つ。木だ。十メートル程の大木。しかし、それの大木に手足がついており、加えて頭部もあるとなれば、普通ではない、というのは初見で理解できる。

 そして、大木は自分達の前までやってくると。


「―――何だ。誰かと思えば、君だったか。ナイン」


 唐突にそんな言葉を呟いたのだった。

十話目投稿です!!

そして、祝総合評価100P突破!!

ありがとうございます。クソゴミ作者のテンション、爆上がり中です!


今後とも、何卒よろしくお願い致します。

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