第5話
ユウマは、彼ら兄弟と洞穴で話した。
彼らのしきたりは事実だった。
自民族以外は敵であり、自分が殺すか殺されるかの二択を迫られるのだという。
自分たちの存在がバレないように。
「でも、あの鷹は大丈夫なの?」
「ああ、彼とは古くからの知り合いでね。最近は会ってなかったんだ。でも、滅多に彼は表に現れないんだよ。よく会えたね」
「え!ちょっと、いろいろあって…」
兄はユウマに事の経緯を教えてくれた。
弟とはぐれてしまい探していたところに、主が現れた。
急いで近寄ると、弟が鷹に襲われそうになっているところを目撃した。
「それで、近くにいる君の存在を見つけてね」
「なんでこの洞穴で殺そうとしたの?」
「ここってかなり暗い場所だろ?それに周りには誰もいない。誰にも見つからず君を殺す…。って、ゴメン!」
「い、いえ、聞いたのは僕ですから」
全身震えるユウマを兄が必死になだめた。
他の皆がどこにいるのかと、ユウマは尋ねた。
この先の山中に住んでいると答えてはくれたが、必ずしもそこに住んでいるわけではなく、転々と住居を移して暮らしているという。
「そういえば名前がまだだったな。リュウヘイだ」
「リュ、リュウヘイさん」
見た目は全然違うが、人間と同じような名前を持っている。
ユウマは驚き、どこか不思議な感覚に浸っていた。
しかしあの山に暮らしている人がいるのかと、まだ見ぬ世界に目を輝かせる。
「また会えるかな、リュウヘイさん」
「え?うーんそうだな、ここに毎日来るわけでもないし…」
そう言うと、兄は弟の顔をちらっと見た。
なにかもの言いたげな表情を浮かべていた。頬が赤く染まっている。
「わかった。来よう」
「やった!」
「ただ、条件があるな」
そう言うと、彼は二つの指を立ててユウマに示した。
ユウマはコクリとうなずく。
条件は子どもにもわかる簡単な約束だった。
ひとつは、今日の出来事は内緒にすること。
「わかったよ!もうひとつは?」
「もう一つはね、コイツと時折話してやってくれないか?」
「ちょっ、アニキ!」
兄の話を黙って聞いていた弟だが、思わず口から言葉が飛び出す。
「今日巡り合えたのも何かの縁だ。コイツいつも一人で暇そうだし、ユウマ君がたまに話しかけに来てくれると、助かるよ」
「もちろん!よろしく、カンタ君!」
「やめてくれよ。恥ずかしい…」
「本当はオマエも話したいんだろ、正直に言えばいいのに」
「う、うるさい!」
照れくさそうにカンタはそっぽを向いた。
額から噴き出る汗が赤い頬の上に流れ落ちていく姿がバレバレだった。
日が沈み、足下も見えないほど森は暗かった。
一人では危ないと、森の出口まで二人は魔法で明かりを灯し、ユウマを連れて行ってくれた。
「魔法使えるんですね!僕も学校で習ってるんです」
「使えると言っても、僕は魔法苦手なんだけど」
別れた後は急いでダッシュして家に帰宅した。
当然門限は守れず、母にはこっぴどく叱られた。
でも今日はなぜだか嬉しくて、説教の言葉が耳に残らなかった。
翌日、ユウマは再び森にむかった。
昨日の影響で、門限は小一時間短くなった。
ブン太からの遊びの誘いがあったが、外せない用事があると今日も断った。
洞穴に向かうと、紅いバンダナをつけたカンタが一人で焚火をしていた。
川で釣った魚を焼いている。
カンタはユウマに気付くと、照れくさそうに視線を逸らした。
「カ、カンタ君」
「く、君はやめてくれよ…」
「うん、わかった。カンタ」
「さ、魚食べる?」
森の景色を眺めながら、二人は横に並んで魚にかじりついた。