第4話
夕暮れ時、ユウマたち三人はひたすら真っすぐ歩き続けた。
生き物たちの鳴く声が聞こえず、どんどんと暗闇の中へ潜るばかりだ。
兄はすっかり黙り込んでしまい、時折弟の方へ振り向くぐらいだった。
「あの、僕そろそろ帰らないと。門限もあることだし」
「そこ、着いたよ」
「えっ?」
前には何やら人間が数人居れるほどの洞穴があった。
中に鞄が2つおいてある。この兄弟のものだった。
「僕たちはこの先の山奥に住んでてね、誰にも見つからないようにこっそりと暮らしているんだ」
「そう、だったんだ」
「たまにこの森に来ては、食べ物を集めに来るのさ」
ピタッと彼は立ち止まり、ユウマの方を振り向く。
つられて2人も立ち止まった。
彼の右手には弟と同じ黒い手袋を身に着けており、紅い宝石が手袋に埋め込まれている。
「もし存在が知られたら、人を殺すか自分が死なないといけない。それが一族のならわしでね。僕は当然死にたくない」
「え、それってつまり」
彼は黒の手をユウマに突き出した。
弟と同じ構えだ。
宝石が紅く輝きだす。
弟と同じ輝き方だ。
「や、やめてよ!僕だってまだ死にたくないよ!」
「悪いな坊主。ここなら誰にも見られない。殺すよ」
ユウマは慌てて後ろに逃げ出したが、目のまえにあった石につまずき転んでしまう。
紅い光が大きくなっていく。
ユウマは目をつむり身をかがめた。
「やめてくれ!アニキ」
「お、おい。カンタ!」
突如として光が消える。
同時に倒れる音が聞こえた。
カンタが兄に飛びかかっていたのだ。
懸命な顔でしがみついている。
「は、離せ。おいコラ!」
「だめだよ。相手は僕と同じ子どもなんだ。何にも罪はないでしょ!」
「いい加減にしろ!相手はニンゲンだ」
兄は腕を大きく振り払い、カンタを突き飛ばした。
転んだ彼のもとへとユウマは駆け寄る。
手を貸そうとするが、彼は自分で起き上がった。
「アニキ。彼を殺すなら、まず俺を殺せ!」
「バ、バカなことをいうな」
「じゃあ、殺さないでやってくれよ」
「な、なんで、オマエはこの子に構うんだ」
「コイツは悪い子ではない。何日も俺のことを探してたんだ!」
必死に訴える弟に兄は少し後ずさりした。
二人の会話に入れないユウマは、ただ怯えながらカンタの後ろにいた。
「こ、この子がオマエを殺す可能性だってあっただろ!」
「それはないよ。武器なんて何ひとつ持ってなかった」
続けてカンタは話す。
「お、俺、彼と話がしたかった。何で俺のことを何日も探してるんだろって。でも勇気がでなくて中々話かけれなかった」
「そう言われても、彼は…」
「たのむよ、アニキ!」
紅いバンダナの結び目が風に仰いでパタパタと動く。
兄はゆっくりと唾を飲み込み、ユウマの方を見た。
「君、なんでこの子を探していたんだ?」
「え、そ、それは…」
ユウマの心臓はバクバクと動き続ける。
兄は鋭い目つきでユウマを睨んでいた。
「…、助けてもらったから」
「え?」
「崖から落ちそうになった僕をカンタ君に助けてもらったから、お礼を言おうと」
「そ、そんなことで俺を!」
暫しの沈黙が流れた。
遠く彼方から、鳥の群衆が一斉に羽ばたく音が聞こえる。
少しだけ笑った兄は、手袋を外し鞄の中にしまい始めた。
「わかった。もう攻撃はしない。悪かったよ」
「アニキ!」
「君、名前は?」
「え、僕はユウマです」
「そうか…、脅して悪かったね」
冷たい彼の目は姿を消し、穏やかな表情に変わっていた。
「すまなかった」と一言添えて、彼はユウマに握手を求める。
緊張の糸が切れたのか、ユウマはどっと涙を流した。