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第14話

疾風のごとく、メメは現場に到着した。

懐には何かがギッシリ詰まった鞄をぶら下げている。


「み、水を…」


ユウマはボトル一杯の水をメメに渡すと、その半分ほどを一気に飲み干した。

干からびかけた彼の頬に生気が宿る。


「メメ、おまえ何だよその鞄!」

「あ、慌てて学校まで戻ったんだよ。状況は何となく察しはつくし」

「察しだと!?」


そう言うと、メメは岩壁を手でなぞるように何度も触り始める。

そして、鞄から試験管を数本取り出した。

中には不気味な紫色のエキスが入っている。


その隣では、ミツバの付き人が懸命に魔法で岩を壊していた。

表面には大きな穴が貫通し、崖の中まで手をかけようとしている。


「メメ、その液体は…?」

「話は後!残り3分、二人とも魔法の準備してて!」

「わ、わかった」


演習が始まる前のメメとは別人だった。

目をキラキラ輝かせて、ガッツポーズしている。

その姿に圧倒されたユウマは、指示通り赤い宝石を輝かせた。


「そりぃあ!」


メメは試験管から蓋を外すと、岩壁に向けて液体を飛ばした。

特に目立った変化もない。


「よし、魔法を放って!」

「う、うん」


ユウマは手から炎をレーザーのようにして放出した。

接触した岩肌から火花が飛び散る。


「やっぱり何も…、ってあれ!?」

「おい、ユウマ。見ろよ!」


先程まで何ともなかったあの岩が、ゼリー状に溶け流れていく。


『ねぇ、岩が見る見る溶けていくわ!』

『凄い、手品でもしたのか!?』

『ちょっと、ミスター・メメ。一体何をしたのよ!?』


後ろのヤジが一気に興奮しだした。

メメはヒーローになったかのように、拳を上に突き上げる。


「…ちょ、ちょっと。これは!?」


この信じ難い光景にミツバは、慌てて日傘から身を乗り出した。


「あなた。これは何の冗談でして!」

「か、壁に張り付いていた魔力物質を化学の力で消しただけだよ」

「物質ですって…、化学なんてまだ授業で習ってないでして!」

「図書館で読んで覚えたんだ。このタイプの魔力なら、そこに生えてるオオバナとピリバの実、それから…」

「聞いても分からないですわ!先生、これは不正でして?」


ミツバはプンプン顔を赤くして先生に指を指した。

先生は二重あごに指をあてて悩みの素振りを見せる。


「手段に規定なんて無いんだろ、な、先生~」


ブン太は気やすくミツバの肩をポンと叩き、皮肉混じりに質問した。


「み、認めざるを得ないわね…。せんせい、悔しい!」

「もういいですわ!あなたたち、ペースを上げなさい!」

「了解です、お嬢様。行くぞ、オマエラ!」


ミツバからの催促の圧を受けた付き人全員が、フルパワーで壁壊しに取り掛かった。

【怪力魔法】により筋肉増強した拳を岩に何度も交代で叩きつける。


『がんばれ、ミツバさん!』


周りの女子生徒がミツバたちを応援し始めた。

残り時間、2分弱。


「メメの作ったこのチャンス、逃すわけにはいかねぇ。ユウマ、そこをどけ!」

「う、うん」


負けじとバツ夫も茶色の宝石を光らせ、魔法を繰り出した。

彼の右腕が象の脚よりも太く膨れ上がる。


「ウオリャアアア!!」


重たい鉄槌を、ユウマが溶かしたドロドロの表面に向けて一撃で叩きつける。

バリーンと大きな音と共に、彼の腕が崖の中まで一気に貫かれた。


『ス、スゲーぞ!一瞬で壁の奥まで穴が開いたぜ』

『そのままやっちまえ、ブン太!』


男子勢から拍手喝采が巻き起こる。

残っている砂の量からして、時間はあと1分と少々。


「このまま一気にケリつけてやる!」

「が、がんばれ。ブン太」

「ブン太君、いけるよ!」


「あなたたち、ラストスパートでして!」

「任せてください。行くぞ、コラ!」

「オオ!!」


ラスト1分、壮絶な拳の打ち合いが繰り広げられた。

その衝動に驚いたのか、森の中でカラスが飛びまわっている。

こんな光景は始めてのことだった。


「はい、終了よ~。手を止めて頂戴!」


最終ジャッジは先生に委ねられた。

両者が掘った穴の深さを、尻を横に振りながらじっと目視している。

それを一行は、かたずを飲んで見守っていた。


「うーん、そうね。勝者、ア・タ・ク・シ!」

「ええええええ!!!」


その場の生徒全員がずっこけた。

その音にカラスの群れが森から飛び立っていく。


「どういうことだよ!」

「そうよ、しっかりジャッジしたのでして?」

「両者共に互角なのよ。判断できないから、間を取ってアタクシよ~!」

「い、意味が分からん!」


結局、濃い10分間の行方は引き分けに終わった。

「キス」も「付き人」も今回はお預けというわけだ。


『おまえ、地味だけど見直したぞ』

『かっこよかったよ、メメ君』


生徒の中でのMVPは、メメが選出された。

彼には景品こそないものの、それに劣らないクラスからの温かい拍手がプレゼントされた。もちろん、異論の余地はない。


「フン、次こそは私は勝利するのでして」

「ベ―だ、いつでもかかってこい。返り討ちにしてやるよ」


各々が盛り上がりを見せる中、ユウマはただ一人、ポツンと立っていた。

何か大きな無力感だけが心の中に留まった。



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