第12話
太陽の日差しが眩しい中、クラス一行は運動場で整列した。
「ハーイ、皆さん。ボンボボーン!」
「ボ、ボンボボーン…」
4限目、実技演習が始まった。
ユウマたちのクラス担任は、二重あごが際立つ典型的なオネエ。
因みに『ボンボボーン』は彼女、いや彼のお決まりの挨拶である。
「ユウマ君、声が小さい。はい、ボンボボーン!」
「え!?ボ、ボンボボーン!」
「はい、よろしいわー。ウフッ」
先生はユウマに向かって大胆な投げキッスをした。
二人の年齢差は三十以上は離れている。
あまりの気持ち悪さに、ユウマは視線をそらす。
「よかったな。今日はおまえが狙われてるぞ!」
「なんで、僕が…。メメだって声出してないじゃないか」
「ぼ、僕は存在消してたから」
「じゃあ、授業を始めるわ。今日は【魔法で一撃よ!】。準備はいいかしら?」
この演習は、先生オリジナルの様々なプログラムで構成されている。
そのうちの1つ、【魔法で一撃よ!】。
内容はシンプル、魔法を使って瓦割りするだけ。
但し、割るものは瓦ではなく、学校を出た先に構える巨大な岩壁。
「よっしゃ、俺の得意分野だ。おまえら、俺が勝ったら今日の給食の牛乳頂くぞ!」
「それ、いつも言ってるじゃん」
「こ、困ったなぁ」
とは言え、ダイヤより硬いと言われるこの岩壁を壊すには強力なパワーが必要である。
ブン太の使用する【怪力魔法】は、この種目にうってつけではあるのだ。
「じゃぁ、いつも通りここから石を取って、配置につきなさい~」
先生がパチンと手を叩くと、巨大な段ボール箱が目の前に登場した。
中には、様々な色に輝く魔法石がぎっしりと詰まっている。
『うーん、今日は何使おうかな。やっぱり怪力?』
『えー、でも見た目、チョーダサいじゃん!』
『でも、試験に備えておかないとなぁ』
クラスの皆が各々の石を手に取り、自前の手袋に装着していく。
やはり今日は、濃い茶色の宝石を手にする人が多い。
ブン太も茶色の宝石を握りしめ、颯爽と校門を飛び出して行った。
メメは先生と話をしているが、きっと見学の交渉だろう。
ユウマは赤い宝石を握りしめ、仕方なく反り立つ岩壁のもとへと一人で向かった。
「あら、あなたは、あの下品な男の」
「うぇ!?ミツバさん…」
ドレスが地面の砂で汚れないよう、慎重に歩くミツバさんがいた。
足元の運動靴のせいで、せっかくの派手な衣装も一気に見栄えがなくなる。
彼女の側には、同クラスの付き人である女子が数人いた。
無視できない雰囲気のおかげで、ユウマは彼女の横へと並んでしまった。
「せ、先生には何も言われなかったの、その服装?」
「ええ、『まあ、綺麗ね』の一言だけで済みましたわ」
(先生も自由すぎるよ、全く!)
「そのドレスのせいで、岩に到着するの遅れるよ」
「あなたにミツバ様のナニが分かるの?悪口言うとこうやで、こう!」
付き人の一人が拳を前に出してユウマに迫る。
怯えたユウマは後ずさりした後、深くお辞儀して謝った。
「ところで、あなた。賭けをしませんでして?」
「か、賭けって。何の?」
「決まってるわ。あなた方と私、どちらが岩を壊せるかでして?」
「な、なんで、そんなこと」
「なんやコラ、ミツバ様のお頼み聞けんのか。ドつくぞ!」
今度は別の付き人が拳を出してユウマに殴らんとしていた。
「わ、わかった。やります!」
「ウフフ、物分かりが良い事でして」
(だ、誰のせいだよ!)
「あなた方が勝ったら、キスの褒美をやりますわ」
「え、今なんて!?」
「キスよ、キ・ス」
ユウマの視界に彼女の唇が映った。
瞬時にキスシーンを想像したユウマの頬が、カンタのように赤く染まる。
横からじっとのぞくミツバは、上品な笑みを浮かべて続きを話した。
「あなた方が負けたら、全員私の子分になってもらいますわ」
「こ、子分?」
「そうよ。彼女たちと共に付き人として働いてもらうわ」
「は、はぁぁぁ!?」
『こっちにいらっしゃい』と、付き人全員が笑顔で手招きポーズをとる。
一気にユウマの背筋が凍り付いた。
「一度承諾したこの賭け、もう逃げることが出来ないでして?」
「そ、そんななああ!」
そう言うと、彼女は人差し指を自分の唇にあててウインクした。
白い手袋には、ピンクの宝石が輝いている。
今後の学校生活の命運が決まる勝負が、無理矢理始まろうとしていた。