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第11話

授業中、ユウマは窓の外を眺めていた。

綿あめのような雲を眺めていると、ギュルルとお腹が鳴った。


今朝、お父さんが出発した。

最近は度重なる遠征で家にいない日の方が多い。

帰ってきたとしても、疲弊しきった顔ですぐ床についてしまう。


今までは、国のために戦う父の姿がかっこよくて、これが正義だと感じていた。

でも最近は何かが違う、どうしてだろうか。

父の表情を見ていると、何か不安を煽られる気持ちになる。


『ブルルルルルル、ル!!!』


授業終了のチャイムが鳴った。

この後は待ちに待った『実技演習』である。

色んな種類の魔法をお試しで使用できる、子ども達には夢のような時間。


「よっしゃ、魔法や魔法!今日はどんな魔法を使ったろかな!」

「ぼ、僕は休むよ。う、動けないし」

「なに言ってんだよ。昼食まであと少しだ、頑張れよ!」

「そういうもんだいじゃない!」


ユウマたちは教室を出て、体操服に着替えるため更衣室に向かった。

メメは眼鏡を何度も揺らして嫌そうな顔を見せる。

魔法を使用しながら身体を動かすこの授業は、ひ弱なメメにとって一番嫌いな科目でもある。


「おいユウマ。今日は何使うんだよ!」


バツ夫は体操服の入ったナップサックを振り回した。

メメはタイミングよく身をかがめて、攻撃をよける。


「もちろん、炎魔法だよ」

「おまえなぁ。いくら父さんが使ってるからって、そろそろ飽きねぇのか?」

「僕はこれしか極めない、そう決めたんだ」

「あっそ、なら俺は怪力かいりき魔法だな。ムキムキになりてぇ!」

「バツ夫も変わんないじゃん」


【怪力魔法】はその名の通り、自身の筋力を強化する魔法である。

パワーが大幅にあがる攻撃型魔法であるため、戦でも用いられる実用的な魔法の一つではある。


「メメは、どうするの?」

「僕は」

「お、迷ってるのか!?そんなおまえには怪力魔法を…」

「いい加減にしろ!」


メメはクラスでもトップレベルの頭脳を持つ。

彼の父は、国が保有する【魔法科研究所】に所属しており、常に最先端環境のもとで様々な研究している。

メメもまた、ユウマと同じく偉大な父の背中を追っているのだ。


「見学かな。皆の魔法を観察してるよ」

「だから、見るだけじゃなくて身体動かせって!」

「…、エヘヘ」

「おい、笑ってごまかすなよ!」


更衣室に入ろうとした時、隣の女子部屋から扉が開いた。

金髪のカーリーヘア、刺激の強いアロマの香り。


「あら、まだ着替えていないのであらして?」

「ゲッ!ミツバ。おまえ、早すぎだろ!」

「何ですの、バツ夫?その嫌そうな口は」


品のありそうな声を出す彼女は、名をミツバという。

同じクラスで、お嬢さん気取りをした癖の強い少女。

潔癖症なのか、執事がつけるような白手袋を常にしている。


「というか、なんだその体操服は!」

「なにって、この専用のドレスであらして?」


彼女は赤いスカートをひらひらと動かし、バツ夫に対し自慢げに見せつける。


「今から実技だぞ、わかってるのか!?」

「ウフフ、もちろん」

「ならなんで、そんなドレスを」

「そんな薄汚い服は、私の肌に合わないですの!おわかりでして?」

「んだよそれ。あと『でして』は止めろと言ってるだろ!」


バツ夫はユウマやメメと違い、尋常じゃなく顔が広い。

同クラスはもちろん、他クラスや他学年まで誰とでも話せるらしい。

それでも彼にとっては、ミツバは苦手な一人である。

その証拠に、バツ夫の口調に対して彼女は動揺しないどころか、むしろ圧倒している。


二人の言い合いを無視し、ユウマとメメはコソコソと部屋に入ろうとした。


「あら、あなた方。お逃げになるつもりでして?」


ミツバの声に、二人の背筋が固まる。


「あ、いや、もう早く着替えないと。な、メメ」

「う、うん。もう時間もあまりないし」


男二人が女一人にあたふたしている光景を見て、バツ夫はため息をついた。

二人の頭に軽くゲンコツを入れると、そのまま更衣室の中に入った。


「い、いて。何で僕らが叩かれてるんだよ!」

「それは、あなた方がこの私に怯えているからでありまして?」

「なんで、わかるんです!?」


メメが少し泣きそうな顔をしていると、突然バツ夫が上半身裸で外に出てきた。

ミツバは「あらやだ!」と赤面し、思わず顔を両手で隠した。


(なんなんだよもう、僕たちを巻き込まないでくれ!)


メメとユウマは半泣きしながら、更衣室に籠った。


授業開始まで、あと5分。急がねば。



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