表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

第10話

「オオオ!緊張するからでありまして!」

「ハリケーン・スプラッシュ!」

「熱い。熱いでありますからして!」

「ハリケーン・ボンバー!」


訓練場はサウナ状態であった。

約100名の野郎たちの熱気が部屋全体を充満する。


それもそのはず。

第三部隊は明日より、リアル国のはるか北へと遠征する。

目的は、【ネマキ族】と呼ばれる異民族の殺戮である。


彼らは国王、「ヤーダⅡ世」に歯向かう者たちである。

彼の悪政は多くの異民族からの反感をかっていた。

溜まる怒りは反乱や虐殺という形で、我々にも被害を及ぼしている。


「まだ炎の制御がなっとらんな。魔法の反動は大きい、もっと腰を使え」

「イエッサーであります。熱いから上着を一枚だけ脱ぐのであります!」

「さっさと脱ぎなさい」

「わかりました、もっと腰ですね。ハリケーン・ストレート!」

「いちいち必殺技を言うな。コロコロ名前も変わっとる」


彼らはサトルの指導を全面に受けていた。

『であります』少年、マカナイ兵士。

『必殺技』少年、ササミ兵士。

今年の入隊試験、個人の実技成績1、2位のコンビである。


夜20時、部屋全体にドラの鐘が鳴り響いた。

訓練終了の合図である。


「ようしお前ら、ここまでだ!明日は早い、ゆっくり身体を休ませるように!」

「ご指導、ありがとうございました!!」


大将は今日一番の大声で、この場にいる兵士全員に呼び掛けた。

野郎共が全員、ぞろぞろと大浴場へと向かう。

にじみ出る汗臭さが尋常ではない。


「ムム、隊長は入らないのでありますか!?」

「うちの風呂に入りたいので、却下」

「ひどいのであります!我々兵士は宿舎がここでしかない故、しょうがなく大浴場を利用しているのでありますからして!」

「うるさい、『しょうがなく』って言うな。給料下げるぞ」


涙を流しながらマカナイは連中に続いて大浴場へと向かった。

隊長であるサトルに対しても物怖じしないのは、彼の個性である。


「どうした、ササミ。お前も早くいきなさい」

「隊長、明日どうなるんでしょうか」

「おん?どういうことだ」

「その、こんなこと言うのも失礼ですが、不安なのです」

「なんだ心配するな。お前ら新米にとっちゃ初陣なんだ。なにも重い命令は下さん」


ササミは右手を心臓に当てる。

彼の手袋には亀裂が何か所もあり、右手には多くの傷がついていた。

まだ、魔法を制御できていない証拠である。


「隊長はどうだったんですか?初陣は」

「おい、愚問だ。俺を誰だと思っている。天才だぞ」

「し、失礼しました」

「でもまぁ、始めは『殺生』に対して抵抗があったな」


サトルは口から煙を吹き出した。

奥にある横長のソファーに座り、すっからかんになった灰まみれの訓練場を見渡す。


「俺は殺しすぎた。死んだら地獄が待っているだろうな」

「でもそれは、国のために行ったことでしょう。やむを得ない行為で…」

「ササミ。これだけは言っておこう」


サトルは隣にある自分専用の灰皿に向けて力強くこすりつけた。


「お前のその不安は大事なことだ。一生忘れるな」

「どういうことでしょうか?」

「誰にでも『慣れ』ってもんがある」

「な、慣れですか」

「俺にはもう殺しに抵抗はないんだ。お前らは違う。分かるだろ?」

「しかし、そんな感情は隊にとって害でしかないんです!」


真面目なササミに、サトルは手を叩き大きく笑った。

ダーツのように、煙草をゴミ箱へと投げ入れる。


「とりあえず明日だ。早く寝なさい」

「ササミ!まだ居たでありますか、早くするのでありますからして!」


上半身裸体のマカナイが勢いよく大扉から飛び出してきた。

タオルを頭上で振り回している。


「では、失礼します。ご指導ありがとうございました」

「ああ。寝坊するなよ」


ササミは小走りでマカナイのもとへに向かった。


「害ね」


サトルは二本目の煙草を口にくわえながら、暫く男臭い訓練場を見続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ