親友
友情とはなんなのか。親友とはだれが決めるものなのか?
そう考えたとき、この話が思い浮かびました。
初心者故、読み苦しいところがあるかと思いましが、ご了承ください笑
私には小さい頃、友達がいなかった。人と話すのが苦手で、クラスの輪に入ることができずによく一人で泣いていた。そんな私を見つけて、話しかけてくれた人がいた。それは当時小学1年生だった私より5つも上のお姉ちゃんだった。はじめは話すのに緊張したけど、由美という私とは反対の名前であることが分かり、私たちはすぐに打ち解けていった。
(クラスになじめなくたって由美お姉ちゃんがいるもん!)
そう思うことによって学校に行くのが嫌じゃなくなって一人で泣くことも少なくなっていった。
夕方6時。台所ではお母さんが夜ご飯を作っている。私はリビングでテレビをぼーっと眺めていた。
「ねぇ、美優。そろそろクラスのお友達はできた?」
野菜を刻みながらお母さんは私に尋ねる。
「んー、クラスに友達は必要ないかも。」
「えっ?どうして?」
さっきまで流れていた軽快なリズムがピタッと止まった。
「だって、由美お姉ちゃんがいるもん!」
私はテレビを消してキッチンへ向かう。言われる前に動けと幼稚園の時から言われているので6時を過ぎたらご飯の準備を始めることに慣れた。
「ねえ、美優。この間の運動会の時にそのお姉ちゃんに会わせてくれるって言ってたのに結局会えなかったじゃない。ほんとに6年生のお友達なんてできたの?」
お母さんは私が何度言ってもお姉ちゃんの存在を信じてくれない。私が強がってるようにみえてるらしい。
「この前はたまたま熱が出てたんだよ。次こういう時があれば絶対会ってもらうから。」
「でもねえ。6年生ってもうすぐ卒業しちゃうでしょう?そうなると美優のお友達いなくなっちゃうわよ?」
話しながらもお母さんは切った具材を鍋に入れて調味料で整えている。
「お母さんはね、美優に学校で泣いてほしくないの。みんなみたいに教室でお話したり、校庭で遊んでほしいだけなの。わかるでしょ?」
「でもね、由美お姉ちゃんは休み時間とか放課後に美優のところまで会いに来てくれるよ?あとね...」
続けようとした私の横でボッとコンロの火がついた。どうやらお母さんは怒っているらしい。
私の横でメラメラと一際強く燃える炎が何よりの証拠だった。
学校からの帰り道。いつものように私と由美お姉ちゃんはお喋りをしながらとことこと歩いていた。私はふと昨日のお母さんとの会話を思い出して愚痴るように話し始めた。
「・・・なことがあったんだよ。お母さん酷いよね。」
斜め下を向く私を覗き込みながら由美お姉ちゃんは私の頭を撫でた。
その途端に私の目から涙が溢れた。
「お姉...ちゃん...卒業したら...会えなく...なるの...?」
涙と鼻水で私の目の前は何も見えなかった。そんな何もかも見えない私に由美お姉ちゃんは、優しい声をかけてくれた。
「大丈夫だよ。私、...しないから。」
「え?なんて言ったの?」
自分の鼻をすする音のせいで大事なところを聞き逃してしまった。
「んんん、なんでもない。もう日が落ちてきたし、早く帰ろっか。ほら、美優ちゃん泣かないで。」
そう言って由美お姉ちゃんは私にハンカチをくれた。ハンカチの隙間からみえる由美お姉ちゃんの目には心なしかうっすらと涙が浮かんでいた。けれど私にはその涙の理由を聞くことはできなかった。
それから数ヶ月が経ち、卒業式の日になった。1年生もお見送りということで参加することになったので、由美お姉ちゃんが歌を歌っているところや卒業証書を貰ってるところが見える!と楽しみにしていた。が、残念ながらその姿はなかった。
「先生、由美お姉ちゃんはどこにいるの??」
先生は驚いたような顔をして私に目線を合わせるためにしゃがみ込んだ。
「美優ちゃんはひとりっ子じゃなかった?由美お姉ちゃんって誰のこと?」
「ええと、、美優のホントのお姉ちゃんじゃなくって、、毎日一緒に帰ってくれてた6年生の、、」
私は必死になって訴えた。
休み時間になる度に私の教室に来てくれていたこと。居残りをさせられた日も一緒にいてくれたこと。周りの子にいじめられた時に守ってくれたこと。すると先生は名簿を持ってきてこんなことを言った。
「その由美お姉ちゃんって人は松崎由美さんであってるかしら?その子は先週、親御さんの都合で転校したわ。」
「え!?うそでしょ?」
先生たちが冗談を言っているようには見えなかった。私の唯一の親友だった由美お姉ちゃんは、私に何も言わずに遠くへ行ってしまったのだ。悲しさと、悔しさと、自分には何もないという喪失感が入り混じって今までにないほどの涙があふれた。けど、その涙を拭いてくれる友達は私にはいなかった。
あれから五年が経った。年が経つにつれて、私にも友達ができていった。次第に由美お姉ちゃんのことは忘れていった。
「美優ー、先行ってるねー。」
少し離れたところから友達の声が聞こえてくる。
私は、はーいと返事をして教室に忘れ物を取りに階段を上ろうとした。
「んん..ぐすん...。」
階段の横の物置から声が聞こえる。
私は恐る恐る覗いてみると、そこには1年生くらいの女の子がいた。
「ねえ、どうしたの?」
私は近づいて声をかける。次の授業まではあと二分しかないが、そんなことはどうでもよかった。
女の子は涙と鼻水でいっぱいになった顔を私のほうへ向けた。あまり表情は見えなかったが、かなり整った顔をしていた。
「ほら、これでお顔を拭拭いてね。」
私はポケットからハンカチを出し、女の子に渡した。女の子はありがとうと弱弱しい声でお礼を言って、鼻をかんだり、涙を拭いたりしていた。
「どうしてこんなとこで泣いてたの?」
女の子はさっきよりも少し元気のある声で話した。
「いじめられてたの。クラスの子から。」
私はとっさに昔の自分を思い出した。そういえば私も廊下の端っことか階段の隅で泣いてたっけ。
たしかいつも先生が私の話を聞いてくれて一緒にいてくれていたような...。いや、何か違うような...。
その時、私の脳みそに高電圧の電流が走った。
「そうだ、由美姉ちゃんに助けてもらってたんだ...。」
私は今まで彼女の存在をまるっきり忘れていた。
そうだ、私は由美姉ちゃんのおかげで人との関わり方を学んで二年生からは自然に友達ができるようになったのだ。なのに、なのに、その存在を忘れるなんて...。
「どうして私の名前知ってるの?それにお姉ちゃんはそっちでしょ?」
「え?」
さっきまで泣いていたはずの女の子が突然変なことをいった。
「だから、さっき会ったばかりのお姉ちゃんが、どうして私の名前を知っているの?」
「え?あなたの名前、由美っていうの?」
とても偶然とは思えなかった。5年前、私をひとりぼっちから救ってくれた女の子の名前と、今自分が慰めている女の子の名前が同じなのだ。
「そうだよ。お姉ちゃんはなんていうの?」
「私は美優。あなたと反対のお名前よ。」
「ええ、そうなの?すごーい!!」
由美ちゃんはキラキラと目を輝かせて言った。
奇跡としか言えない出来事。まるでこれまでの日常がこの子に会うためだけにセッティングされたかのようにすら思えた。
「ねえ、美優お姉ちゃん。私とお友達になってくれる?」
先ほど同様、目を輝かせたままの由美ちゃんが当時1年生だった頃の私と同じことを言っていた。
あの時、由美お姉ちゃんはなんて言っていただろうか?今から私が言おうとしていることと同じことなのだろうか。
いや、そんなこと考えなくていい。仮に違ったとしても私は自分の人生を歩んでいくのだし、この子だって彼女なりの人生を歩む。だから私はしっかりと彼女の目を見てこう言った。
「もちろん!よろしくね、由美ちゃん!!」
「うん!!」
誰もいない階段の端っこで、私たち二人は紛れもない親友になった。
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