帰り道にスタンピートに遭遇、だけど
主人公は魔物とは戦いません(汗
売れる売れる、ドンドン売れるよ。
魔物に感謝したら異端者認定されそうだから言わないけど、緊急依頼が発生して、回復薬が大量に必要と言われてさ、あるだけ買いますって言ってくれたんだ。
しかも等価だよ。
つまり、通常売価の銀貨1枚で買ってくれると言うから全て売り、花壇をフル稼働して日々200本生産体制にして、周囲の魔物が安全圏内になるまで留まって売り捌いたので、かなりの儲けになった。
1日金貨10枚、6日で金貨60枚。
全世界共通ギルド預金が無かったら、とても危険な旅になっていただろうけど、預金残額がかなりの額になったと騒いでいたので、財布の中身は探られないだろう。
念の為にまた花壇は片付けたから。
あれも慣れると楽に変更出来るようになったので、更なる改変もやれそうな予感だ。
まだやらないけど、火の才覚を混ぜたら燻製用の場所になるかも知れないし、水と風を混ぜたら冷蔵庫になるかも知れないのだ。
ああ、夢が広がるな。
その為の準備はそれとなくやっている。
すなわち、氷魔法の確立だ。
複合魔法という概念はあるようだけど、氷魔法は確かにあるけど、それはあくまでも攻撃魔法だ。
大体、冷蔵庫って現物を知らなければそもそもの発想も無いだろうから、かつて同類が居なかったのならオレが初になる可能性が高い。
それでも氷室はあるようだから、もしかしたら発想はするかも知れないけど、生憎と世間では神の慈悲魔法に手を加える事はタブー視されている。
なら確実だろ。
ああ、オレだけの冷蔵庫。
夏はエールを冷やして……。
果実酒を冷やしても良いな。
こういうのを考えていると、魔法開発の意欲湧きまくりになるんだよな。
◇
「てめぇ、ギルドに大金預けてんだって? ちょいと回してくんねーか」
ほおお、オレの新魔法の実験体になりたいとは奇特な奴だな。
任せろ。
ミニクラスの竜巻を四方に配してやれば、中央の存在は否応無く回転する……はずなんだ。
あれこいつ体重が重いのか。
もっと狭めて、もっと回転を……。
成功したけど、これじゃ洗濯物がボロボロになりそうだな。
ああ、横倒しになって弾き飛ばされた。
失敗だな。
「えめぇ、あいいやあう」
えっ、何だって?
目が回ると呂律も利かなくなるのか、解読が難しい言葉で話している。
これは実は洗濯機の魔法のプロトタイプになっていて、本来は水流制御の予定なんだけど、対人だと風じゃないと濡れネズミになって可哀想なので、風でやっただけなのだ。
立てないみたいだから今の内に……。
ご協力ありがとう。
「待てや、コラ」
「洗濯機の術」
「うお、ゴボゴボゴボ」
おお、水流ならそこまでの威力にしなくても回ってくれるな。
成功だ。
解除っと。
ザバー……。
「まだ文句があるなら魔法の実験は続けるぞ」
「くそ、貴族かよ、相手が悪い」
まあなぁ、平民は生活魔法がやっとだし、あんな魔法は生活魔法には無い。
確かに風の魔法は使ったけど、送風と勘違いした可能性もあるけど、湧水と洗濯機の術では大違いだ。
ちなみに術と言うのは某忍者マンガの影響では無く、魔術の術だから念の為……って誰に説明してるんだ。
「何をしておるかっ」
◇
チンピラ退治に魔法の実験と洒落込んでいたら、町中での魔法の行使をしたと衛兵に叱られてしまう。
確かにそこら中が水浸しになっているので、はた迷惑なのは確かなので素直に謝っておいたものの、目撃者の証言から絡まれていたとあったので、オレの申しようが嘘じゃない事が判明し、次から気を付けるようにで終わって良かった。
「ついでと言えば何だが、水の魔法を少し頼めないか」
どうやら衛兵達の夏の行事として、街の壁の大掃除があるらしいんだけど、上のほうはまた次に足場を組んでやるとして、手の届く範囲を今の内に磨いておきたいようで、比較的暇な時にやってはいたのだが、なにぶん井戸が中央にある関係で壁までの水の補給が大変で、今日は南側の壁を磨くのだけど、その為の水を桶に入れてくれと頼まれた。
馬車に乗せて運べばいいと思ったんだけど、壁磨きはあくまでも騎士団の町への貢献って名目になっているので、交通の妨げになる行為は本末転倒だと上官が却下するらしい。
同様の理由で壁際の住民の協力も無理らしく、早朝のうちに水を馬車で、という革新的な案すら却下になったので、単に嫌がらせではないか、という意見も増えているらしいが、それって体力作りの一環とかのつもりじゃないのかな。
どのみち魔法の使用は修練になるので、快く受けて同行した。
「うわ、本当にたくさんある」
「はははっ、そうだろう」
見れば100個ぐらい桶が置いてあり、あれを全部満タンにして掃除をするらしい。
しかも巡回に半分人が取られるので、かなりの重労働なのだそうだ。
「全部いけそうか」
「水の才覚70だよ、任せて」
「おお、それは頼もしい」
どうやら衛兵の中に水が得意な人がいないらしく、火が多く、次いで風なのだそうだ。
確かに攻撃魔法と言えば火が強いって話だけど、冬場の水魔法は最強だと思うんだが、かつての世界でも有名だった、火炎旋風という合わせ技をこの騎士団でもやるらしい。
もちろん滅多にはやらないらしいが、水が無いと消火も出来ないのにどうするのか、少し気になるところだ。
それはともかく、畑の水やりに開発した散水魔法で全ての桶に水を満杯にする。
「それはもしや、畑に使う為か」
当たった。
「確かにそういう使い方もあるな」
「火だって焼肉出来ますよね」
「確かにな」
「下草を焼くのにも便利だし、湿気の多い時期だと洗濯物の乾燥にも使えますよね」
「ほお、さすがに色々と考えているのだな」
発想が問題なのであって、それさえやれたらどんな属性でも生活に役立つ魔法は作れる。
それなら仕事の合間にそれを考えれば、実力も上がるからお得だねって話で意気投合し、お昼をご馳走になってしまった。
衛兵詰所に弁当が届くらしいのだけど、毎回余るんだそうだ。
それをジャンケンして勝った人がおやつ時に食べたりするんだけど、良かったら食わないかと言ってくれた。
どうやら街の飲食店の人達の回り持ちになっていて、今月は肉と野菜を炒めたものをパンに挟むという斬新な料理だった。
ソバがあれば焼きそばパンになるのに、無いからソバ抜きパンだな。
道理でおやつにする訳だ。
これも街への貢献の一環らしく、月の数だけの組を作り、そこに所属した飲食店で割合を決めてひとつの料理を衛兵詰所に配っていて、値切り無しの言い値で払う決まりになっているんだそうだ。
もちろん、それでぼったくるような勇気のある組合は無いらしいのだけど、あった場合はそのままお縄にするのだがと、手ぐすね引いている感じがちょっとな。
それじゃますますぼったくりは出ないよ。
今日はかなり余ったと言われ、土産にならないかも知れないが、持って帰れと8個もくれたので、帰りに掃除してている連中の近くで水流洗浄を試してみた。
「おお、魔法で洗ってくれるのか。ありがたいぞ」
汚れの酷い所を水流洗浄……近距離なら威力も減衰しないんだけど、散るのが問題だよな。
まあこれも修練だし、可能な限りはやってやろうな。
コケとか泥のこびり付いたのが水の勢いで跳ね飛んで行く様は、見ているだけで爽快なんだけどさすがに全面の清掃は魔力が足りなくなるな。
今も1000に満たない量しか無いけど、水の才覚が高いから効率が良いので何とかなっているだけだ。
ああ、そろそろ限界か。
「そろそろ魔力ヤバい」
「ありがとうな。本当に助かったぞ」
どういたしまして。
さて、そろそろ馬車の頃合だろうし、乗り場に向かいますか。
(来期は水を入れませんか? )
(そうだなぁ)
(桶に水だけでも違いますし)
(確かにな。それにあんな子供でもあれだけやれるとなると、一考の価値はあるな)
(夏場の散水もありがたいですし)
(捕物にもなるか)
◇
水の魔法と言えば、テンプレ的にはウォーターカッターの魔法がある。
だけどもあれは射程の二乗に反比例して威力が落ちる代物だ。
だからさっきは至近距離での射出になっていたんだけど、攻撃に使うとなると距離が問題になる。
となるとその改善が必要となり、思い付いたのが氷魔法になる。
つまり、氷の針を飛ばす魔法だ。
試してみると、生成さえやれるなら消費魔力はかなり少なくて済むようだ。
となるとだよ、威力と命中強化の為に回転させてみても良いな。
そこまで行くなら弾丸にしたほうが威力が上がるかなと思い始め、結局は土の才覚で弾丸を生成し、風の魔法で回転させ、光と水の混合でミニ雷を発生させてのレールガンや、コイルガンの構造を考えているうちに、気付いたら寝てしまっていたようだ。
次の町で道具屋や鍛冶屋にお邪魔して、工作に使えそうな木っ端や鉄の破片を貰い受けようと画策した。
もちろん代償はある。
「しばらくの間だけど、ふいご要らずのお仕事はいかが? 」
「お前、このままずっとやってくれんか」
「倒れるよ」
「はっはっは、それじゃ頼めんが、少しでも助かるぞ」
どうやら魔法の風を送るとふいごよりも高性能の鋼が作れるらしいが、そんな事をわざわざやってくれる魔術師もいないらしく、王都には鍛治専門の魔術師が居て、自前での作成はしているらしい。
「わしも一度やってみたくてなぁ」
図らずも彼の希望に沿ったようで、可能な限り継続してあげたら、お礼だと言って鉄のインゴットをタダでくれた。
「こんなに良いの? 」
「念願が叶ったからな、構わんさ」
本当に魔法を生産に使えたら、いくらでも需要があるだろうに、魔力の少ない平民は哀れだよな。
後は道具屋に赴き、金が溜まったので拡張バッグを購入し、ついでに木板や木の棒を買おうと思ったらサービスでおまけにしてくれた。
拡張バッグ(中)のお値段は金貨20枚でした。
大は売り切れらしくて買えなかったけど、金貨50枚で買えるらしいな。
内容量は中の3倍は入るらしく、価格的には大がお得なのだそうだ。
本当は寄り親の領地で買うつもりだったけど、どうにも京都みたいに知らない人とは取引しないような風潮でさ、あれだけでかい都市の商いだと、そんな殿様商売でもやっていけるんだね。
この町はあそこまで大きくはないけどそれなりなので期待したけど、大が無かったのが残念だ。
それでも今の体格なら中でも構わないけど、二十歳越えたら大が欲しいところだ。
本当は自作したいんだけど、これは特殊魔法の範疇であり、学校で学ばないと属性魔法みたいに使えるようにならないらしいのだ。
特殊魔法は他にもあり、付与魔法、鍛治魔法、魔道具作成魔法、そして神聖魔法がある。
実は精神魔法もあるらしいけど、これは禁忌魔法の範疇であり、他にも暗黒魔法や隷属魔法などの他に、人族の知らない魔法も多々あるらしい。
まさか弟君、精神魔法持ってないか? なんてな。
隷属魔法に関しては犯罪者相手の行使に限っては正式な国の認可を受けた業者のみは許可されているが、一般奴隷への行使は禁じられている。
それじゃ一般奴隷が逆らうと思うところだろうが、それはまた別の契約魔術という、神聖魔法によって羊皮紙に契約文言が記された代物での縛りとなり、隷属魔法が永続なのとは違って契約成立で解除される代物らしい。
基本は隷属魔法とは変わらないけど、逆らったら苦しむのが隷属魔法で、眠くなるのが契約術式となっているとか。
逃げようとしたら寝てしまう訳ね。
実は馬車の客にそういうのに詳しい人がいて、隣の客に自慢気に薀蓄を語っていたのを聞いたんだ。
まあ、奴隷を運んでいる馬車とすれ違ったから、話の切欠になったんだろうね。
オレはそんなのと関わり合いになるつもりは無いので、単なる知識として持っているだけだ。
そもそも、親戚の馴染んでいたばあちゃんがよく言っていたんだ、自分がやられて嫌な事はするなって。
つまり奴隷になるのは嫌なので、買おうとは思わないんだ。
前世でもその手の読み物は見たけど、自由を縛っておいて何が恋愛だとか思ったし、そもそも助けてもらって惚れたとか、つり橋効果とか言わなかったっけ。
よく覚えてないけど。
世界のミニ知識
街ごとに衛兵の町への貢献は様々な方法で行われており、場合によっては市民に対する武術指導、なんてのまであるとか。
これは近くに魔物がよく出る町の防衛対策の一環らしく、タダで教える代わりに市民にも戦ってもらえれば、という目論みもあるらしい。
だが、大抵の町では経済の向上を目的として、一番多いのが飲食店に対する貢献になっているのが現状のようだ。