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意趣返しの喫茶店

いきなりアクセスが凄まじい事になっていますが、何かあったんでしょうか?

ともかく、蛇足をひとつ投稿しようと思います。

たくさんの方が訪れてくれたお礼としてなので、もし宜しければ読んでいただけると幸いです。


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 辺境伯の領地の一角にある小さな喫茶店は今、ちょっとした騒ぎに巻き込まれている。


 そこに納品されたあるお茶が辺境伯の耳に届き、その納品元を教えろと恫喝されている。

 本来ならすぐさま教えてしまう事になるのだが、オーナーの意向によって差し止められている。

 陰謀を現実にしようとした懐刀が国王陛下に呼ばれて叱責を受け、その恨みの先を自国の辺境伯に向けたのがその真実なのだが、巷の連中に知れるはずもない。


 かくして懐刀の意向を受けたオーナーと辺境伯の戦いが開始された。


(そもそも、あやつが余計な事をするからこちらも動きが取れんのだ。あれが無ければもう少しまともな取引になっていたと言うに。まるで損害賠償のような一方的な言い値での取引など改めたいのにそれがやれぬのもひとえにあやつのせいじゃ。意趣返しのようじゃが、それに嵌まってもらうぞ、辺境伯よ)


 ◇


 自らの領都での争いに対し、強固な反対を見せる小さな喫茶店。


 普通なら戦いにもならないはずなのに、どういう訳だかまともな戦いになっている様子は巷の興味を引き、噂が噂を呼んで喫茶店は空前の客入りとなっていた。

 誰もが噂の茶を欲しがり、飲んでその効果を実感していく。


 いかに種火しか使えぬ者達でも、減った魔力の復活は実感出来るので、魔力回復の効果のあるお茶の価値は皆の知るところになっていく。


 効果はともかく美味しいのだ。


 確かに少々高価だけど、懐に余裕のある者達は日参し、そうでない者も週に一度、月に一度のお茶会を喫茶店でやるようになり、辺境伯は強引な手法が採れなくなっていく。


(何故じゃ。そのような小さな店など、早々に潰して供給元からの独占はまだやれぬのか)


(それがどうにも。普通なれば早々に権利の放棄となりますが、強固なる反対が)


(どうしてじゃ。うちの兵を差し向ければすぐであろうに)


(それがですな。茶が気に入ったというある者達が詰めておりまして、実力行使には立ち向かうと言われ、それがかの有名な英雄の……)


(誰じゃと言うのじゃ)


(ドラゴンスレイヤーとしても有名な、大魔導ローマン様とその一行です)


(うぬぬ、なしてあの者が)


(ともかく、あの者を除かぬ限りはおいそれと排除もやれず)


(金では無理じゃったのかの)


(何万枚はたいても無理だから諦めよと申されまして)


(相手が大魔導では魔物をけしかける事も出来ぬか。厄介な相手に見込まれたものよな。これなれば致し方あるまい。卸元を探れ、そしてそこを恫喝してでも我が手に握るのじゃ)


(それがですな。どういう訳だか国軍が保護しておりまして)


(何じゃと、一介の商人を国軍が保護などあり得るはずもない)


(国軍の駐屯地の中での商いなので、保護としか思いようが無いのですが)


(引きずり出せ。ワシが呼んでおると申してここに連れて来るのじゃ)


(それが、断られまして)


(うぬぬ。ワシの呼び出しを断るじゃと)


(どうしてもと仰せなれば、国からの依頼なれば承ると)


(おのれおのれおのれ)


(今、裏方のほうから拉致の可能性について論じておりますれば)


(どのような手でも構わぬ。ここに連れて来るのじゃ)


(畏まりましてござります)……(やはりこういう流れになったか。ここも潮時だな。いかに影響力絶大な辺境伯でも、国を相手に生き残れるとは思わん。共々道連れになる前に早々に抜けないとな。あるじには言わなかったが、恐らく背後には懐刀が付いている。あいつが使う手は巧妙だが、それだけに今回の流れもそれに近い。ならば用意周到に絡め取られる前に抜けないと、共々流刑か絞首刑か、碌な事にはならないだろう。オレもまだ死にたくはないのでな、悪いと思うが命綱は話さんよ)


 ◇


「聖樹茶、おかわり」


「へい、毎度」


「うむ、美味い」


「それはどうも」


「しかしこの価格では合わぬであろうに」


「それが卸元ならばですけどね」


「そんなに安価なのか、その里では」


「日用品ですよ。そこらの茶と同じく」


「ならばかなりのぼったくりだな」


「ええ、値切りと引き換えに里を有利にしようと思いましたのに、懐刀が陰謀に走るものだからそれがやれなくなりましてね」


「あやつはその陰謀で表舞台に立ったからの、何でも陰謀で片付けようとする。だがそれが人を遠ざけていると気付けぬ愚か者よ」


「それにしても師匠の伝手とはいえ、まさか英雄様と話が出来るとは思いませんでした」


「あやつとは同じ宮廷魔術師での仲間であったからの。辺境に流れてどうしておるかと思っていたが、今でも元気なればそれで良い」


「精霊魔法、知りたいですか? 」


「あやつから聞いておるよ。精霊を感じねばならぬのであろう。我もそれを試しておるに、どうにも感じられぬでの。半分諦めておるところよ」


「実は今、貴方の周囲を精霊さんが」


「人族にありながらも使い手か。なれば可能性はあるのだな」


「ええ、感じて馴染んで感謝をする。それだけですよ」


「ううむ、周囲にのぅ……どうにも分からぬの」


「精霊さん、お水、お代わり」


 ジョボジョボジョボ……。


「ふふふ、安易に使うの」


「これぐらいは使ううちに入らぬそうで」


「ともかく、あやつの意向もあれば此度の件、最後まで付き合おうぞ」


「ありがとうございます」


「なんの、わしもおぬしの精霊をこの機会に何としても感じたいからの」


「最近では万能の精霊になりましてね、何でもやってくれる頼れる相手になっています」


「おや、視界が揺れて、これが精霊の影響か」


「精霊さん、濃縮魔素水持ち出して何してるの。まさか」


『ワレ、ミズノセイレイナリ』


「おおお、これが伝説の」


「こんなところで顕現を使うとか、かなり気に入ったみたいだね」


『カンジネバナカマニハナレヌ、サアカンジロ』


「感謝するぞ、精霊殿よ」


 なんか水中で話しているような声だけど、どうやって出しているんだろう。

 本当に万能の精霊になりつつあるな、うちの精霊さんは。


 取り扱い責任者の王子様の意向を受けたとはいえ、辺境伯のお膝元での挑発のような喫茶店の店長の役回り。


 懐刀の陰謀は潰えたらしく、あの回復薬の必要供給も含めて抑えつけられる見通しが出来たらしく、今では半ば引退状態になっているらしい。


 元々、陰謀好きなところがあったが、それが今回致命的な失敗になったようで、完全に権力構造から離れての相談役という立ち位置になろうとしているのだとか。


 そういう雲の上の話は理解したいとも思わないので、やりたい連中に任せたままだけど、それぞれはそれぞれの思惑によって動いているだろうから、そのうち何とかなるんだろう。


 それも欲の一環なれば、捨てた今のオレには関係の無い話だ。


 ともかく、辺境伯への意趣返しという概念が、懐刀も含めて一致しているのが今回の一件になったようで、オレとしてはもう辺境伯への思いは無いので断っても良かったんだけど、国として余計なちょっかいを出さないという誓約を里に対して永久に保障すると言われてはどうしようもない、と言ったところだろうか。


 まあ、真剣に実力的には負けているとは思わないので、それでも断っても構わないが、そういうのは今は見せないほうがいい。


 あくまでも小さな里の防衛構想として、お茶と回復薬を出していると思わせておいたほうが将来の役に立つからだ。


 要は、舐めてくれるぐらいが丁度良い。


 いざと言う時に驚くのは勝手なので、そうなった時に後悔して有利な条約になる可能性もある。

 いきなり全てを教える筋合いは無いので、過少ながらも常識的な範囲での戦力を教えておけばそれでいい。


 だから間違っても駐屯している国軍をオレ1人で殲滅出来そう、なんて事は言わないよ。


 ◇


 英雄様の才覚は火が多かったので、馴染みの火の精霊さんにお願いして周囲を回ってもらったところ、何となく感じると言われたので他の火の精霊さんを紹介してもらい、日々の探知の修練になっているらしい。


 火と同化になると水中には入れないだろうけど、空中を泳ぐのには関係無いので、里への来訪も可能だろう。

 師匠との旧交を温めるのも良いし、そのまま滞在になっても構わないだろうけど、清い水に馴染んだらもう、外に出る気力が湧かなくなるんじゃないのかなと、少し心配しているところでもある。


 何より移動が楽だしね。


 馬車に揺られて数時間とか、今では到底やる気にもならないけど、英雄様を含めた人族の通常移動の方法でもある。

 だけど精霊化をしてちょっと歩けば到達出来る距離とか、わざわざ数時間も掛けて腰を痛めてまで移動しようとは思えない。


 精霊化での移動に慣れちゃったら、いかに英雄様と言えども馬車に乗る気にはなれないと思うけど、そうなったら一行の移動に困りそうだよな。

 何より、現在でも英雄様と他の人達の戦闘力に差があるのに、そこに精霊魔法が加わったら足手纏いとしか言いようが無くなるだろう。


 山脈の連なる奥地への遠征とか、財布の中に食糧を詰めて精霊化で行けばすぐさまだろうけど、人族の移動方法を踏襲すれば数年掛かりの作戦になっちまう。

 下手したら作戦立案中に用件が終わりそうな勢いだろうが、そうなったらもう同じ時間では生きられないだろう。


 何より、精霊化の影響で欲の欠片も無くなるので、大物を倒しての栄誉など望まなくなる可能性が高い。

 となると、里での研究に明け暮れる生活のほうを魅力に感じそうで、巷から英雄の姿が消える事にもなりかねない。

 里としては問題無いけど、英雄を有する国としてはどうなんだろうね。


 まあ、里が有利になるんだから、忠告はしないけれど。


 ◇


 奥さんもたまにはと、喫茶店でのんびりしている。


 お茶の販売は店員……本来の店長な……に任せて、奥でのんびりしている状況だ。

 元大学生のオレに喫茶店の経営などやれるはずもないので、名目的な店長としてのトラブル対策係になっているだけなので、実質的なものは何も無い。


 いわば用心棒みたいなものだな。


 だからトラブルに対して、先生お願いします、って状況で表に出て、協力体制にあるあちこちの大物の名を出せば良いだけだ。

 それで権力者は抑えられるし、ならず者なら余裕で倒せる。

 相手が街中で魔法を使うなんて無謀な事をすれば、すぐさま精霊さんが拘束してくれて、それ用の人員が国軍に連絡してくれるのですぐさま捕縛要員がやって来る。


 つまり、辺境伯が手を出したらそれで終わりになるという陰謀なのは、懐刀が作戦に参加している証拠であり、王子側に降伏したという事でもある。


 里から誰かを出して何かの役回りに就ける、という要請に対して、名目的な店長の役回りをこちらから申し出、トラブルに対処すると共に、ちょっかいに対してはすぐさま各所に連絡するという話で纏まり、関係各所との連絡員も店に詰める事になったんだ。


「これ、まだあるか」


 まさかその連絡員がたこ焼きに夢中になるとはな。


 財布からネタを出して精霊さんにお願いすると、すぐさま皿に完成品が載る。


「便利だよな、その魔法はよ」


「君も精霊さんと馴染めばすぐだよ」


「やってはいるんだが、感じねぇ」


 今では印籠のような極小種火保持魔導具を腰に提げ、そこに火の精霊さんが待機してくれているので、必要ですぐさま出てきてくれる状況になっている。


 どんなに小さな火であっても、火でありさえすれば問題無いらしく、里内では提灯の中でのんびりしていても、出先では魔導具の中で過ごしてくれている。


 必要魔力はうちの精霊さん経由でいくらでも得られるので、火の精霊さんに文句は無いらしく、すっかり馴染みになっている。


 同様に土の袋も腰に提げ、土の精霊さんも同行になっているものの、あんまり出番が無いので恐らく土の中で眠っていると思われる。

 それでも出先での茶会では、テーブルや椅子などを即席で拵えてくれるので、ありがたいんではあるんだけど。


 精霊さんのノリのままにネタ全てがたこ焼きになったので、短期サービスとして喫茶店の臨時メニューに載せ、珍しい料理として人気になったらしく、かつて鍛冶屋に頼んで拵えた穴ぼこ鉄板を店長に見せると、意欲を見せるので別のネタの容器を取り出して焼いてみた。


 かつて空想概念理論化研究会でバザーをやった折、たこ焼きの担当になってひたすら焼いた経験が今に生きた訳だけど、さすがに知識はあっても身体は別なので慣れるまでにかなりの時間を要したものだ。


 しかも精霊さんが拵えたほうが遥かに美味しく、満遍なく焼けているので完全に負けた状態だけど、人族が拵えるならこれしかないので、教える時が来ても困らないようにと、練習しておいたのが役に立った状況になっている。


 そのうち連絡員も焼き方に馴染めば、屋台をしながらの任務もやれそうだと意欲も高く、材料のタコも沿岸で獲れそうなので、後々は屋台を隠れ蓑にした連絡員の立ち位置を確保するかも知れないな。


 そうしてたこ焼きは世に広まっていくのだろう。


 あの鍛冶屋はシャックルでかなり儲けたらしく、たこ焼き鉄板の権利も第二弾としてかなり期待しているようで、見返りの金物は相当大量に頼んだのに全て無料で拵えてくれた。


 里にも鍛冶屋はいるけど、日用品の製造が主なので、こういう金物も少しなら良いが、大量は困ると言われては仕方が無い。

 馴染みの外の鍛冶屋は一軒しかないので、シャックルに続く第二弾として斡旋すれば、快く応じてくれた今がある。


 大量の金物、それはどんぐりの形をしていて……。


 ◇


 かつて拵えた魔導具である、魔銃のカスタマイズをするにあたり、銃弾の補充に関して外の鍛冶屋に頼もうと思った。

 今ではふんだんに金もあるのでやれる道楽のようなものだけど、里の防衛構想の一環として提案した武器である。


 外の連中に流せば何をするかは大体分かるので、防衛にしか使わないと思われる者達、つまりは里の連中以外に流す予定は無い。


 確かに精霊さんに頼めばすぐだろうけど、レアスキルになっている精霊魔法をいきなり行使するのは今ではかなり逆効果になってしまっている。

 すなわち、欲しい物を見せびらかしているようにも取れるので、今度侵略者が到来した時には、精霊魔法を使えば使う程に相手の意欲が増す可能性があるのだ。


 となれば未知の武器を出すしかない。


 もちろんその行使にも精霊さんは活躍するけど、パッと見にはそれが分からないという利点もある。

 確かに普通の魔導具のように拵えれば可能だろうけど、効率という点においては比べ物にならない程に悪かろうと思われる。


 そんな劣化版な品を拵えられても、そんな攻撃は精霊さんが全て防いでくれるだろうから、情報が漏れても問題は無い。

 火薬が知られたにしても、火の精霊さんに頼めば備蓄はすぐさま暴発するだろうし。


 武力では精霊さんには敵わない。

 魔法でも精霊さんには敵わない。

 文明の利器も暴発するから敵わない。


 後は科学の最先端となれば分からないけど、それでも電子機器は水には弱いものだ。

 精霊化をして電子機器の中を暴れてやれば、どんな精密機械でも精密であればある程に、しっちゃかめっちゃかになるだろう。


 その対策を遺しておけば、未来永劫は分からなくても、遥か未来までは安心できる。


 どれぐらい寿命があるかは分からないけど、いつかオレも精霊となる日が来るだろう。

 そうなった時に安心出来るように、将来の禍根の対策は遺しておこうと思っている。


 その為もあってわざと鉄砲の概念を表に出すのだ。


 わざと出してその欠点を熟知しておけば、それを突く事で対策になる。

 何をしてくるか分からない相手より、対策済の武器のほうが安心出来る。

 それが有能な武器であればある程に、捨てるなどという発想にはならないはず。


 現に魔物相手には有効な武器だし、平民でも魔物を倒せる武器として広まったらもう止まらないだろう。


 それでもすぐには出さないので、ならず者への対策として使われた情報から再現してみるといい。


 そうすればそのうち火薬の発明にはなるだろうし、それも含めて既に対策済なのは里の重要機密になっている。


 いつか開発されるかも知れない品の対策は、オレが生きている間に確立しておきたい。


 それが里への貢献だと思っている。


気が向いたらまた投稿するかも知れません。

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