表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/53

ネギラの里よ永遠なれ

シモネタが少し出ます。


加筆修正 2020.03.31

 

 しばらく里のあれこれや交易に勤しんでいて、オークションの事はすっかり忘却の彼方に追いやられていた。

 冬になっても相変わらず、狩猟班の連中は海での狩りなら可能なので勇んで、飽きずに毎日のように出掛けている。

 魔物に対しても積極的に狩るようになったのは、オレが素材を売った金で外の産物を買うようになってからだ。


「おいおい、こんなにも良いのかよ」


「いやぁ、意外と高値で売れてね。びっくりだよね」


「ああ、まさかあれがそんなに高く売れるとはな」


「また見かけたら狩るといいよ。あの素材はもっと欲しがっていたから」


「ふーむ、そうだなぁ。魚は他の連中も大量に獲れてるし、オレは魔物専用でやってみるか」


「そうして外の産物と魚を交換すれば皆が喜ぶと」


「そういうこった」


「果物で良いの? 」


「ナツメヤシと言ったか、あの汁が甘くてな。またあれを頼むよ」


「わっかりやした~」


 こちらの世界での名前がちょっと、なのでナツメヤシと称しているが、里の連中は外には出ないので恐らくバレはしないだろうと思っている。

 木になる玉なので、キンタマ、って果物に付ける名前かよ。

 まあそういう風にあの部位を呼んだりしないこの世界なので、誰もが連呼しても平気なようだけど、聞いているこっちはどうにもこうにも。

 ペシペシと叩いて客寄せとかをよくやっているけど、そういうのをあの名前で連呼されたらどうなると思う。


 聞いたらあそこがヒュンとなるんだ。


 里でもそんな気持ちになるのが嫌なので、あえて前世での呼称で馴染ませてもらうよ。

 同様に野菜も当時の呼び方を使うのは、キャベツがコノハだったりニンジンがアカネだったりと、前世の記憶のある者にとっては紛らわしい名前であり、どのみちかつて呼んでいたほうの名前のほうが馴染むからあえてそうしているだけなのだ。


 ちなみにダイコンはシロネ、ゴボウはクロネだ。


 もうね、色の付いた野菜はその色と形状で素直に付けているのが丸分かりなので、そのものを現している言葉ではないんだ。

 つまり、同様の似て非なる野菜が登場した場合に、そこに大きさとか味が足されて区別されるのだろうと思っているけど、だからと言ってリンゴをアカアマナシと呼ぶのはどうにも慣れなくてな。


 だからリンゴと里には伝えている。


 確かにキーウィという鳥に似ているからついた名という現実もあるけど、それはシナサルナシという名に弊害があるからに過ぎない。

 それはシナチクがメンマと呼び名が代わったのと同様の理由なので、そういうのじゃなしに殆どの産物がそうなのは納得出来ないのだ。


 シナガワとかシナモンとかシナノガワとかは関係無いとは思うけど。


 それはともかく、前世では系統立てて種類分けが成されていたので、そういう風な呼び方のほうが将来的には良かろうと思う気持ちもいくらかはある。

 さすがに現代まではいかないものの、外の世界とは比べ物にならない程に里の社会は進化しつつあり、そこに嘘や欺瞞が無いので素直に伸びているのも良い影響になっているのだろう。


 なんせ精霊化で消えるのは性欲ばかりではなく、独占欲や邪な感情も含めてだから、良からぬ事が思考に昇ったにしても、精霊化が解けたらサッパリと消えている有様だから悪事に発展しようがないのだ。

 なので争い事は互いに精霊化した後にしろ、と言うのが里の不文律になっていたりする。

 その為だとは思うが、争い事の話し合いの会場が山の上の小屋になっているのも、互いに精霊化して行った先での話し合いが感情に流されない為か、お互い冷静に話し合えている現状もあり、里でのトラブルは無いにも等しい状況になっている。


 人間という不完全な存在でも、精霊さんの助けがあれば理想的な社会を築けるんだなと、実感した瞬間でもある。


 だから今の里はあちらで言うところの、古き良き時代という感じでありながらも、その暗黒面の無い状態と言う、いわば良いとこ取りな社会になっているので、とても暮らし易いんだ。


 ここは理想郷なのかもな。


 ◇


 遂にオークションの日取りが決まったと、道具屋のあるじは勇んで報告した。


 二回目の茶葉の納品は60キロなので、小型拡張バッグに入れてある。

 ちなみに小型拡張バッグは検査機構の近くで割高購入を呼びかけたら、大勢の商人が乗ってくれたので大量に確保出来、里の連中に配布になった挙句、代々永続的な古い茶葉の取り扱いの家指定が成されるまでになっちまい、もうそれ以上は茶葉での交換がやれなくなってしまったんだ。


「里人全員なのはありがたいがの、その対価は莫大な金であろう。いかにおぬしとてやり過ぎじゃ。こたびはこれで何とか呑むが、次から茶葉は使えないと思うがよい」


 もっともっと貢献したいのに、どうして分かってくれないのかな。


 それはともかく、オークションは商人ギルドも巻き込み、更には薬師ギルドの介入もやったうえで、馴染みの貴族連中も噛ませてあるようで、こちらが利益分配をしたいと言えば、ならばとあちこちを噛ませて利益分配をして、危険回避をかなりやった関係で自然と儲けが減るようにした状態になっている。


「じゃから落札額の半分はあちこちに配られる事になろうが、それだけに安全なのはこの上にもない程じゃろうの」


 あちらに1割、こちらに1割と、邪魔しそうな連中へ分け前をやる事によって味方に引き入れる。

 外の世界はこれがあるから安易な儲けもやれないが、里なら10割がそのまま収入になるのが当たり前なので、逆に新鮮な気分になるのはどうにも面白い。


 ワルに憧れる少年のようだけど、戻りたくないという気持ちだけは確実にある。


 かつて住んでいた泥水の中もたまに入れば面白いが、そこで暮らそうとは思わない。


 清い水に住む事に馴染んだ今となっては、懐かしさから泳いでみるものの、すぐに清い水が恋しくなるんだ。


 もうオレも里の一員になったのだな。


 だから外に出たくないという里の皆の気持ちも分かるけど、まだまだ貢献したいという気持ちがある以上、懐かしさも意欲に含めてこれからも外との繋ぎをやっていこうと思っている。


 だけどもそれがどうしても辛くなったら、他の皆のようになるかも知れないな。


 師匠も今では戻りたいとは言わなくなったし。


 ◇


 試供品の意味も込めての3本の最上級身体回復薬の提供は、その中の1本を大物の孫に使う事で後ろ盾を得て、万全の体制で開始された。


 聖女の回復魔法でも無理だったと言われるその怪我を負いながらも、今では当主の座にある大物の孫。

 彼の左手はかつて幼少の頃に魔物に噛まれて以来動かないままになっており、どんな回復魔法でもそれ以上の回復は見込めなかったらしい。


 ゴクリと飲めばピクリと動く。


 今はリハビリの中にあると聞くが、とりあえずは効果があったようで何よりである。

 上級薬草の完全なるエキスの抽出という新しい試みは、既に精霊さんの熟練の中にあるので、頼めばいくらでも拵えてくれるだろう。

 洞窟で得た最後の上級薬草の苗は、今では里の宝として専用の空間の中で栽培されている。

 師匠がその担当になっているので、恐らく絶滅させる事は無かろうと思われる。

 もちろん普通の薬草も、改造財布の中でじっくりと育てれば同様になる事は分かっているけど、それでもあそこの薬草までにするのは大変なので、財布を色々な用途に使いたい今のオレにとって、その環境の実現はそのさまたげになるので、出来ればやりたくはない状況になっている。


 だけども今回の騒ぎを見るに、おいそれとは出せない品になりそうで、これを里の保険の意味以外には使わない予定だ。


 すなわち、懐刀の陰謀も、貴族連中の纏め役のような大物グループが相手になれば、潰えるんじゃないかという目論みもあって、今回のオークションは成り立っている。


 そのうち本命とばかりに大勢の人が欲のままに値を吊り上げていくのだろうが、その気持ちはもう共感出来ないものの、かつては馴染んでいた水の濁りを懐かしくは思う。


 それを活気があると称していたのも、懐かしく思う今日この頃。


 どうかあの里よ、何時までもそこに在れ。


 ◆


 ◆


 ◆


 以下は例の世界観を壊す話なので、気分を損ねると思われる方はこの先は無いものとしてお扱いください。

 読んでいただきありがとうございました。


 ◆


 ◆


 ◆



(これはシナリオ改変と言われませんか? )


(確かに原作とは比べようも無いが、それでも二次と言い張れば通るのだよ)


(管理者服務規程に抵触しなければ良いのですが)


(あれはね、実の所、平管理の為の決まりであり、上級管理はその埒外にあるのだけど、大っぴらには話せないのだよ。だけども君は今は修練の中にある。いずれは様々な技能を得て上級を目指すのなら、その特典を意欲に変える事も出来るだろう)


(はい)


(君なら漏らす事は無いと信じるから伝えるが、他の連中には伝えてくれるなよ)


(それは決して)


(まあそれはいい。ともかく、シナリオが進むにつれて、必要が無くなった存在を減らすのは、あくまでもそれ以上にシナリオを崩壊させない為の措置として報告するので、特に問題は無いのだよ)


(封印洞窟の魔竜の件ですか)


(彼が魔力溜まりを見つけてくれたから、もう必要が無くなったアレは消したのだけど、本来はある魔物の中に収納されるはずなのに、その魔物が何かに殺されたのだったな)


(ええ、当初、シナリオのままに能力を望むはずだったのですが、どういう訳だか欠損がありまして、トカゲの魔物に殺されたんです)


(あれは不可抗力だよ。確かに様々な能力を望むように仕向けても、本人の感じようで変更もあり得るからね、本当は主人公を堕とされし者にするのが理想なのだけど、今回はどうしても都合が付かなかったから仕方なく、一般を用いたのが失敗だったようだね)


(ならば予備シナリオは保険だったのですか)


(まあそうなるかな)


(さすがですね)


(いやいや、これも上級なら当たり前の話でね、要は失敗になりそうな時はその対策も考えておく、と言うのは何も上級だけの話ではなく、平管理もそして俯瞰さえも必要な事なのだよ)


(肝に銘じます)


(うんうん。ともかくお疲れ様。これからはどう流れるかは分からないものの、彼は少なくとも楽しそうだ。それだけでもやった甲斐はあるね)


(はい……それにしても世界内存在に浮遊素子化など使わせて良かったのでしょうか)


(おやおや、今それを言いますか)


(主人公だけならまだしも、集落の面々ともなればかなりの数です)


(それで不安になったのですね)


(確かに私に責任はありませんが、だからと言って……)


(実はですね。これはサプライズのつもりだったのですが、君が不安に思うのなら、ここで明かしてしまいましょうか)


(えっ……)


(シナリオが終われば君は世界の安定化のみに尽くす事になり、現在よりかなり暇になりますよね)


(確かに、シナリオが無くなれば、歪み消しだけになるでしょうから、現在よりはかなり暇になると思います)


(そこで君に後輩をたくさん用意して、見所のありそうな方を配下に出来る権限を与えようと思うのです)


(そ、そんな事をして大丈夫なのですか? )


(私は上級管理ですよ。それぐらいの裁量は持っています)


(じ、じゃあ)


(はい。シナリオが終わったら後輩の育成に努めつつ、世界の安定化に努めるというお仕事が待っています。飽きる暇などありませんよ)


(ありがとうございます)


(いえいえ、長年、私に尽くしてくれた君ですし、それぐらいはしてあげないとね)


(意欲がかなり湧いてきました)


(それは良かった。では、このシナリオも残りあと少し。お互い頑張りましょう)


(はいっ)



(本当はちょっと越えてますけど、君の気力に尽きられると困るんですよね。最近、ちょっと気力が怪しくなっていて、心配していたのですよ。上の存在の気力が尽きれば、そのまま消滅するのですから)


(まさかこんなサプライズを用意してくれていたとは。これは近年に無く意欲が湧きますね。ありがたい事です。それにしても私に配下とは……ああ、楽しみですよ)


 ◇


(やるとやったらトコトンですね。ですがそれも皆の指標になるでしょう。本当に大きくなりましたね)


(神様もどきがますます成長しているようで、オレとしては安心だよ)


(君も成長するんだよね)


(オレは楽しいからするんだよ)


(くすくす、そうでしたね)

 

シナリオ崩壊原因


刺されて魔物に転生した主人公は、魔竜に会う前にトカゲの魔物によってドロドロに溶かされて死にました。


お心当たりのある作者様。

どうか見逃してくださいませ。

それでも無理でしたら、削除要請には快く応じさせていただきます。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ