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誰が話を大きくしたんだ

 

 よくよく考えると言葉が変化して使えなくなった可能性もあるが、神様転生者疑惑は消えてない。


 ステイタス、という魔法はあるものの、それは教会で羊皮紙に焼き付けられる神からの刻印みたいな感じになっていて、神聖魔法の一種らしく、金が掛かるから中々その機会も無いらしい。


 12才の予備検査で使ったのは検査用の魔導具であり、貴族は本式の検査をするようになっているんだけど、どういう訳だか平民が使う簡易式だったんだ。


 本式は金貨10枚ってぼったくりな価格ではあるけどさ、仮にも後継者なら他の貴族と同じく12才でも本式にすべき状況のはずだったんだ。

 確かに家は裕福じゃなかったけど。本来うちの領地はそこまで赤字になるはずもないぐらいに魔物の被害も無くてさ、農地もそれなりにあったし領民の数もそれなりにいるし。


 だけどうちはどういう訳だか家計が赤字続きでさ、月末になったら母親と執事が頭付き合わせて暗い相談だろ、跡継ぎとしてはその理由が知りたくてさ、色々と調べたら父親の浪費を知ったのさ。


 んでまぁ、それが続いているって事は直接言えないか、言っても治らないかのどちらかだろうと思い……ここでも父親に言ってないんだよ。

 確かにうちは親子でもあんまり物の言えない雰囲気はあったみたいだけど、どうにも当時のオレは妙に萎縮していたような気がする。

 それも中途半端な記憶の残り具合が影響していたのなら、最初から全部覚えたままのほうが良かったとも思うけど、それはそれで辛い幼年時代だったろうとも思う。


 その点は助かったけど。


 だってそうだろ、赤子を横に置いて夜の運動を両親にされてみろよ、気まずいってもんじゃねぇだろ。

 幼児には性欲なんて無いから、いわゆる賢者状態が続いている状況だ。

 なのに横でお盛んなのを否応無しに見せ付けられる日々とか、記憶が無くて幸いだったとしか言えないぞ。


 2才違いの弟が居る時点でそうだった可能性は高い。


 ああ、だから妙に遠慮みたいな事になっていたのかも知れないな。

 中途半端な記憶で親がやっている事の意味をそれとなく理解して、昼間とは全く異なる両親の態度の変貌に恐怖でも覚えたのかも。


 その辺りの記憶は無いんだけど、トラウマみたいになったのかもな。


 ◇


 弟の余計なお世話が無ければ、3年間も特訓をすれば魔力1000は越えていた可能性もあるが、既に才覚を見せていた弟によってすっかり魔法に見切りを付けてしまい、折角の魔術師の師匠を持ちながら、サブスキルの薬師のほうに傾注して金を稼いで弟に貢ぐ日々になっていたんだ。


 父親もそんな上の息子に失望した可能性はあるけど、それでも教育をしないってのもどうかと思うんだけど、そもそも魔法は基礎学習を受けたのみで、後は放置になっていたような気がするんだよな。


 でまぁ15才の検査は体面もあるから簡易で終わらせる訳にもいかずに受けさせたけど、魔法は3年前からやってないので規定に満たないと。

 どうにも父親は弟の事ばかりかまけていて、兄のオレのほうは放置になっていたようだけど、そんなに才能が無いように見えていたのかな。


それはともかく、規定に満たない数値を出した兄に完全に見切りを付け、弟を後継者にしようと決定して、教会で申告したんだろう、出るのが遅かったから。

 普通は教会で跡継ぎが確定したらそれ専用の書類にサインをして、それを国に提出するのだと後で知った。


 そうして家に戻ってから今更のように、弟を後継者として自分はその護衛をやりたいと告げたんだ。

 そんなの雌伏の後のクーデターの準備と、邪推してくれと言っているようなものだ。

 それでも最後に風の魔法で叩き出すのはやり過ぎだと思うんだけど、そんなに凶暴に見えたのか?


 そもそも、頃合を見計らって話す約束とか、事後承諾とか、記憶が定まらないが、どうにも記憶の中の弟と、その所業が合致しないんだ。

 まさかとは思うが、あいつ、オレを嵌めようと……いや、しかしあの記憶の中の純粋そうな……どうにも分からん。


 兄は3年前から弟と相談して後継者を譲り、自分はその護衛をやる約束になっていたと聞いて、弟に確かめたらそんな約束は知らないと答えたんだろうか。


 それなら辻褄が合うな。


 そうじゃないと自分がかつて経験した後継者争いの記憶が蘇ったような激情に駆られたりはしないだろうし、その思考ならあいつは弟をそのうち殺して成り変わるつもりだったのかと邪推したりはしないだろうし、まだいたのかとか、追い払ったつもりがまだ弟を狙っているとでも思い込んだのか、いきなりの追放の為の魔法の行使になったりはしないだろう、それぐらいの背景が無いと。


 この国では致命的な行動だしさ、後継者を守る為に自分が犠牲になっても仕方が無い、ぐらいの気持ちだったのだとしたら、そこまで追い込んだのは誰だって話だよな。


 そうして潮が引くようにおちついて、我に返ったと。


 追い出すまでは真っ赤になっておいて、追い出すと言うか殺したつもりでいきなり賢者モードとか、これもおかしいんだよな。

 まあ殺したつもりなら確認に来ただろうから、あれでも追い払ったつもりなのかも知れないな。

 

 普通なら死ぬぞ。


 冷静になってやり過ぎたと思っても今更の事だし、母親が帰ってオレを殺したとか言ったら喧嘩じゃ済まないから魔法の攻撃の話は黙っていて、あいつは後継者になれないと知って、家を出てしまったとかその場しのぎをやらかしたのかも知れない。

 

 風の嵐は中級攻撃魔法だ。


 戦争にも使われるその魔法は、今までにかなりの人の命を奪った魔法として、現在でも盛んに活用されているような代物だ。

 そんなのを至近距離から受ければ、運が良くないと助からない。

 確かに荷物は周囲に散らばって、着替えも殆ど千切れて使い物にならなくなっていたけど、それがオレの命を救ったのなら構わない。


 ただ、やらかしたほうはタダでは済まない。


 領民に対する中級攻撃魔法の行使とか、相手が重犯罪者でも無い限りは許される事じゃないってのに、いかに能力不足だとは言うものの、自分の息子に対しての行使とか、精神を疑われるような話だ。

 それを母親が知ったとなると、実家と相談する可能性が高い。


 だから音沙汰が無いんだな、それどころじゃないから。


 ◇


 誰が話を大きくしたんだ。


 確かに発端はオレに対する殺人未遂だけど、母親の実家から寄り親に情報が漏洩したのか、すっかり大事件みたいな扱いになっている。

 被害者として出頭して証言しろと言われてもな、既に終わった案件として他人になったつもりだ。


 オレはあれで殺されたつもりで自分の人生を歩んでいるのに、今更蒸し返されても困るんだよ。


「この辺りの領主の寄り親と言えば辺境伯。となれば、それは断れんぞぃ」


 ああ、嫌だ嫌だ。


「念の為、花壇は消しておくのじゃな」


 ああ、バレたらヤバいな、確かに。


 花壇とは、生活魔法の中の財布を改造した代物になる。

 これは師匠の構想を実現した代物で、不可能とされていた生活魔法の改造となってはいるものの、生活魔法は神からの慈悲と言われているのでその改造を知られるのは拙い。


 生活魔法と言うのは下記の種類がある。


 ・種火 マッチの火ぐらいの炎。

 ・耕作 土を柔らかくする効果。

 ・送風 夏場にちょっと涼しい。

 ・湧水 コップ一杯の水の確保。

 ・照明 ロウソクの代わりになる。

 ・日影 真夏の日差しの緩和。

 ・財布 ちょっとした金庫の代わり。


 この世界の属性は、基本的に火・土・風・水・光・闇の6属性となっており、生活魔法は全ての才覚に1が必要になる。


  生まれたばかりの人間は、全ての才覚が0から始まり、生後半年までに大体の属性が決まるのだが、それは神によって定められると言われている。


 オレは周囲に魔法があるかないかの違いとしか思えないんだけど、貴族は合計100になるんだけど、平民は0のままだったりするんだ。

 中には平民でも数値が上昇する場合があるけど、これはたまたま近くで魔法が行使されたとか、そんな理由じゃないかと思っている。

そうして何かの数値が6以上あれば、それを振り分ける事によって全てを才覚1にする事が出来る。

 才覚の上昇は教本の朗読で上がるくらいなんだし、魔法が近くにあれば誰でも上がるんじゃないかと思うけど、生後半年以内ならば1以上に上がるだけじゃないかと思っている。

 ともかく、そういう状況なので、魔法を使っている人を見ると、普通は貴族だと思われるんだ。


 話が逸れたけど、とにかく6属性に合わない最後の財布は辻褄が合わないと思うよな。


 だからそれこそが神からの慈悲の証であると言われるんだけど、確かにミニクラスのアイテムボックスみたいなものだとしても、空間魔法が必要になる、という予想はあるものの、誰もそれを実現出来ないので推論だけの状況になっている。


 つまり、全属性にその答えがあるらしい。


 だけど実証出来ない限りは教会の言い分を否定出来ないので、今のところは神から平民に対しての慈悲の魔法って事になっている。


 これも師匠から教わった話だ。


 だけど師匠は学術の徒でもあるから、神がどうとかってのは嫌だったんだろうな。

 全属性の謎は解けないまでも、財布の改造理論だけはいけそうな感じになっていたんだと。

 だから多分、師匠はかつて中央で宮廷魔術師か何かでさ、禁断の研究とか言われて辺境に流れたんじゃないかと勝手に思っている。

 そんなオレはかつてならいざ知らず、記憶が蘇った今となってはかつての無宗教がメインとなる。

 しかも神様転生者疑惑もあるとなれば、神罰を食らうなら食らってから考える。


 みたいな心境になって研究に賛同したんだ。


 今のところは神罰の気配も無いけどさ、信心深い連中にこの事が知られたら、何を言われるか分かったものじゃない。


「ほれ、抜き出すのじゃ」


 水の才覚を抜いて元に戻せと言われても、難しいんだよこれ。


「調べてみよ」


 《ステータス・オープン》


 火5・土5・風5・水70・光14・闇1・生活・魔力980


「ほんにそれで出るとはの。どうやって知ったのやら」


 寝ぼけて伸ばして唱えたら偶然に出たって事にしているけど、追求されたら前世の知識を答えようと思っているのに、追求されないからそのままになっている。

 恐らくは薄々分かっているのだろうけど、そんな異界の知識の保有者の成れの果てでも知っているのか、追求して来ないんだ。


「知りたいよね」


「要らぬ」


 学術の徒な割りに、弟子想いなんだから。

 

世界のミニ知識


神聖魔法は精霊魔法の劣化版。


精霊に対するアプローチなのに、神に対して感謝を捧げるのは筋違いだけど、感謝の気持ちは受け取るのでとりあえずは発動させてあげるって感じになっているので、効率の悪い精霊魔法とも言えるかも知れない。

精霊魔法が伝説になってしまった現在、神聖魔法こそが本物だと思い込んでいる関係者が多く、その効率は改善されてはいない。

精霊魔法には自由があるが、神聖魔法にはそれが無い。

それはかつて精霊魔法の使い手が定めた魔法がそのまま神聖魔法として伝わったのが原因になっているが、そればかりではなく、その全ての魔法の性能が落ちており、見るだけ(本来は干渉も可能)、羊皮紙に印字(本来は何にでも可能)、というぐらいに劣化している。

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