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巷の回復薬事情

 

 以前にもやった広場で出店料を支払い、レンタル屋台を借りて販売開始。


『ウマクナルゾ』オープンです。


「こ、これは、まさか」


 おや、これを知るのか。

 おっかしいな、転生者かな?


「いくらですか」


「銀貨1枚です」


「安くは無いね」


「3個買ったら銀貨2枚にするよ」


「もう一声」


 ううむ、あんまり値切られるのは好きじゃないんだけど、別に儲けが必要な訳でもないんだけど、あんまり安くすると皆が集まったらすぐに売り切れになるからな。


「ええい、6個で半額だ」


「買った」


 押し切られる感じになったけど、最初の客だから試食みたいなものだし、許せる範囲かな。

 だけど売り切れたら当分来ないと思うし、もしかしたらもう二度と来ないかも知れない。

 試しに売ろうと思っただけなので、商売にするなら精霊さんの手助けが毎回必要になるし、うっかり精霊さんが飽きたらおいそれとは作れなくなるんだよな。


 それに、駆け引きとか疲れるし。


「毎度あり」


「ありがとう」


 お、早速、食べてますな。


(へぇ、それっぽい味じゃないの。これならまた買ってもいいな)


 ◇


 少年に売れた後、半額にしたのを見ていたとか言われ、仕方が無いので2個で銀貨1枚で売る事にした。

 客はそんなに大量には来ないものの、目の前で食べて絶賛してくれるので客が切れず、用意していた120個のハンバーガーは昼過ぎに完売となった。


 銀貨60枚の売り上げである。


 単に儲けるつもりなら、中級回復薬が銀貨10枚なので6本売れば良いだけだ。

 魔素水はすぐに手に入る……と言うのも濃縮魔素水を5倍に希釈するだけなので、特に必要な物もなくすぐに作れる代物であり、上級回復薬ともなれば金貨数枚は確実に飛ぶので、需要はあれど中々出回らない品のようである。


 確かに精霊水……つまりは濃縮魔素水は、迷宮の最下層で製造可能だけど、肝心の上級用の薬草が手に入らない。

 なのでプレミアが付いてかなり高価になっているので、売ればかなりの価格になるだろう。

 更に言うならお茶とかもう、1杯分でも金貨数枚は飛ぶような価格で卸しているので、そちらの儲けも半端ない。


 ちなみに魔力回復薬には10グラム、つまりは2杯分の茶葉を使うので、茶葉の原価だけでも金貨5枚は必要になるうえに、精霊水が回復薬用の量で金貨1枚というぼったくり価格なせいもあり、普通に拵えると金貨6枚が原価となる。


 魔物由来の魔石はそこまでの価格じゃないので、従来の魔力回復薬とは比べ物にならないものの、いくら飲んでもお腹を下さない品なので、同じ回復量でもかなりの価格違いとなっており、高級魔力回復薬として金貨15枚で売られているそうだ。

 酷いぼったくりもあったものだけど、売った後の話なので好きに売れば良いだけだ。


 ただ、他国には売らないで欲しいと暗に匂わされたものの、巷で売ってはいけないとは言われてない。


 となるとだよ、ここで売っても構わない訳だ。


 ◇


「お試し売り~魔力回復薬だよ~高級品だよ―」


 最初は注意を引くものの魔法使い御用達な品なので、巷の冒険者の中でも魔法がまともに使える者が少ない事もあって、買おうって人が出て来ない。

 本当はギルドで売りたかったけど、茶葉由来の魔力回復薬の買取価格が分からないと言われ、本部でも制定中との事なので今しばらくの猶予が必要らしい。


 どうにも売れそうにないので、屋台を片付けながらの売りになり、もう止めようかと思って屋台を返しに行く途中での流し売りをやっていたところ、広場受付で反応があった。

 そうして屋台を返して売り上げからの税金を支払い、そのまま対話となる。


「おいおい、メシが尽きたら今度は薬かよ」


「手持ちにあるだけだけどね」


「どんだけある」


「50本」


「おお、ならよ、相場だと金貨5枚だろ。20本くれ」


「お客さん、魔石由来の魔力回復薬じゃあるまいし、そんな価格では売れないですよ」


「おい、そんな物、どっから手に入れた」


「それはちょっと言えないね」


「そういやお前……ちょっと来てくれるか」


 うえっ、精霊さんからの警告だ。


 何かあるのかな。


 付いて来いと言われているが、このまま付いて行くとヤバい予感である。

 とりあえずは付いて行く風を装って、物陰に駆け込んで精霊化でやり過ごす。

 急ぎの精霊化の場合、衣服がまとめて落ちるので、部分精霊化がやれないと財布に入れられないからもったいないので、両手だけ具現で衣服を掻き集めて財布行きだ。


(パッと見ただけだけど、恐らくこいつが手配の少年だろう。見かけたらさり気なく詰所に案内して上に連絡しろと言われているが、何かの悪事じゃないので強制はしてはならないとも言われているんだよな。だからこんな迂遠な方法で……おや、あいつ、何処に行った)


 こいつ、何者なのかな。


 ◇


 私服の兵士っぽいおじさんは、肩を落として詰所に入っていった。


(ああ、やっぱり間違いない)


(おい、見かけたのか)


(だが、連れて来る途中で見失ってな)


(連行なら楽なのによ)


(ああ、だがそれはしてはならないとのお達しだ)


 あれれ、オレの似顔絵が付いた書類がある。

 重要参考人? 何の話だ。


 国の上層部から回って来たと思しき書類となれば、どうしてもあの懐刀の関連を思わせる。

 あの時はあのまま止まったけど、やはり水面下で動いていたんだな。


 まず考えられるのは価格低下の模索。


 オレを確保しようという流れから、精霊魔法を警戒して強制はしない方向で確保して、後は精神魔法か何かで洗いざらいに情報を抜いて、世間の事情に疎いと思しき里との直接取引で、珍しい品を貴重と思わせての交換取引と言う、騙す形での安価で大量の仕入れがやれるのが理想だろう。


 確かにそこいらの田舎の村なら通用しそうな話だけど、はっきり言って里での技術水準はかなり高いうえに教育水準もかなり高いので、無知な村人のつもりで相対すれば、精霊の助けもあるので化けの皮などあっさり剥がれるだろう。


 皆は当たり前に使っているから気付かないだろうけど、はっきり言って精霊化は切り札になり得る存在だ。

 それを隠しているからこそ普通に捕縛なんて流れになるんであって、そんなの知られたらますます精霊魔法の確保の為の攻撃が強くなるだけだ。


 なんせ精霊化をして王宮に忍び込めば、暗殺し放題だろうから、命令系統のトップである王様の暗殺すら可能そうな按配だ。

 しかもそれを探知出来たとしても精霊の能力を越える魔法攻撃じゃないと倒せないからおいそれとは反撃もやれない有様だ。


 そんなの知られたら血眼で里を探し回られる事にもなりかねない。


 だからあくまでも下手に出ながらも高額取引にしてあるのであり、今後の交渉で割引と引き換えに里が有利になるあれこれの要求を飲ませようって作戦なのに、あれっきり上層部からの通達も無いから不思議に思っていたところだ。


 グラム単価銀貨5枚で契約しており、出荷量は収穫される茶葉の中からの割合になるので、最低10キロでそれ以上の取引となっている。

 それと言うのもまだまだ備蓄はあるけど、毎年過剰に売っていれば減っていくので、将来的には備蓄が無くなっても困らないように、最低量をかなり少なく定めている。

 現在は始まったばかりなので多めの取引と言っているが、そのうち最低量に落ち着く予定とも告げている。

 そんな訳で今年は初年度という事もあり、100キロの取引になったんだ。


 つまり、金貨5万枚だ。


 だからてっきり値下げ交渉が派手になるかと思ったのに、あれっきり無しのつぶてで言われるままな支払いとなり、不要な金がやたら多くなっちまって使い道に困っている状況だ。


 どうして言われるままな支払いなのかと思ったが、どうやらまたぞろ何かの陰謀が進行しているようだ。

 普段、裏の無い取引を里の連中とやっているせいか、どうにも煩わしいと感じてしまう。


 貴族の習い性なのかも知れないが。


 今回の陰謀のキーマンはオレみたいなので、おいそれとは屋台もやれなさそうだ。

 そのうちギルドでの買い取り相場が出るのを待って、そっちに販売を考えるべきかな。


 まあ、他国なら関係無いだろうし、屋台は他国でやるしかなさそうだな。


 ◇


 どうやらこの国では売れないようなので、他国で少しずつ流してみようと思う。


 確かに茶葉としては流してくれるなとは聞かされたが、魔力回復薬については何も聞かされてはいない。

 だから小売価格より少し下げて大量に売ろうと思ったのに、たまたま非番の衛兵に見つかるとは運が悪かったな。


 まあ、他国ではそもそも茶葉が無いので、この国で購入して持ってきたと言えば、金貨20枚でも買い手が出るかも知れないな。

 恐らく国からは他国に流すなとかお触れが出ているかも知れないけど、里の行商人にそれは通用しない。


 なんせ生産者なんだし。


 ちまちまと拵えていた魔力回復薬もそろそろ1000の大台に乗りそうだし、何処の国で売れば良いかな。

 とりあえずこの国と国境が接してなければおいそれとは流れない品なので、何処で売っても恐らくは先駆けになるだろう。

 あんまり好戦的な国に売るのは宜しくないので、拡張バッグ検査機構のある神聖帝国で売ってみるか。


 そうしてまた拡張バッグを買っておこう。


 と言うのも皆が皆、生活魔法の財布に樽を入れるようになっちまい、沖合いの岩礁での活け締め魚を拡張バッグに詰めるようになり、カバンがいくらでも欲しい状態になっている。

 もちろん、小型で充分なんだけど、もうこの国のあらゆる店で買いあさった結果、何処に行っても入荷してないとか言われるんだ。

 だからもう、検査機構の近くで待機していて、それらしき商人が通ったら直接購入をやってみたいと思っている。


 そうしていつかは里の連中全員に配るのだ。


 本当のところを言えば、里でも拡張バッグの製造は可能なんだけど、バッグに使う魔物の皮を集めるのが大変なうえに、検査機構を通してないバッグを使っていてうっかりそれがバレたら大騒ぎになるので、そんな手間は掛けたくないのだ。


 どのみちお茶の儲けが半端無いので、それぐらい外で買っても知れているし。


 確かに外との交流が無いのでバレないとは思うけど、未認可の拡張バッグには神聖帝国の印が無いので、パッと見れば分かるようになっている。


 まさか偽造する訳にもいかないし。

 

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