里の名物の開発と屋台の料理
「これは、まさか」
グループの連中が総動員して狩った獲物。
師匠によると、船にへばり付いて昇って来る魔物らしく、巻き付かれたら死者も出るとても危険な魔物らしいんだけど、どう見てもタコです、本当にありがとうございました。
どうやら集団で生活するタイプのタコらしく、漁場を荒らすので一斉駆除を思い立ったらしく、ロープでつらつらと連ねて里に空輸されたので、またぞろ空飛ぶ魔物の噂が出るかも知れませんね。
「これ、どうするの? 」
タコ焼きに挑戦してみるか。
タコ足がでかいので根元の辺りはコマ切れにして酢味噌で合えるとして、先のほうだけ使えばいけるか。
本当はタコ刺しに挑戦してみたいんだけど、さすがに魔物の生食は師匠に止められている。
火炎熊はあくまでも蜂蜜に漬けてあるので、厳密には生食じゃないからな。
そんな訳で獲れたタコの魔物は全て湯がかれて真っ赤な代物となり、足をぶつ切りにされた胴体は解体されて料理の具となり、根元の辺りはコマ切れにされて酢味噌で合えて、先のほうだけもらってたこ焼きに挑戦となる。
商品名・精霊焼き。
と言うのも、ネタにタコのコマ切れやらキャベツのみじん切りを入れたのを空中で丸く保持してもらい、火の精霊さんに全体を焼いてもらうのです。
やはりこれも一度やったら次からは複数同時にやれるらしく、火と水の精霊さんの合作で次々と出来るんです。
中部地方の一部のように醤油で食べる方法もありますが、野菜や酢や糖類を混ぜて作るソースのほうが好みなので、その研究も欠かしていません。
そしてマヨネーズですが、卵の殻をアルコールで洗って使用していますので、細菌感染はかなり抑えられるだろうと思っていますが、どうなる事やら。
まあ、精霊化をする里の連中なら心配はありませんので、ここはマヨタコといきましょう。
大好評ですね。
◇
イカの魔物はいないものか。
もちろん、魔物で無くても構いませんが。
甘辛い醤油を焼きイカのたれにして、食べてみたい今日この頃。
「任された」
頼むよ、研究班。
さーて、探そう探そう、小さなイカを探そう。
化け物イカは放置して、小さなイカを……おお、これならいけそうだけど、これは魔物じゃないよな。
魔物の仔かも知れないけど、これぐらいの大きさなら問題あるまいと、ずた袋を財布から取り出して詰めていく。
たくさん獲れたら財布に入れて、そのまま里までゴー。
ドサドサドサ……。
「うわぁ、気持ち悪い」
しまった、料理する前に奥さんに見せちまった。
とりあえず桶に出したイカに醤油をぶっ掛けます。
本当は船の上で拵えるのですが、まだまだ新鮮なので構わないでしょう。
しばらく置いて色が染まったら焼きましょう。
沖漬けならそのまま食べるのですが、魔物の仔かも知れないので念の為に焼くのです。
「いい匂いだけど、あのニュルニュルしたのがこれなのよねぇ」
仕方が無いので1人で食べましょう。
うん、中々のお味。
半生でも問題無さそうなので、ここは思い切って生で挑戦。
おお、イカ刺しの味だ。
「あれ、美味しいね」
気分はゲテモノとか言いながらも、食べてみると美味しかったのか、次々と手が出るようです。
「こういうのはご飯のほうが合うのね。パンと一緒だとちょっと」
パンの申し子みたいだった奥さんも、かなりご飯に染められたようです。
◇
「酒が出来たぞ~」
おお、遂に日本酒が……。
まあまだどぶろくみたいな代物ですが、そのうち清酒になっていくのでしょう。
その辺りも例のノートに記載があったので、その可能性はかなり高いと思われます。
さて、酒かすをもらったから、これを使って……。
「かす漬けにするんだよね」
しまった、漬物フェチの奥さんに見つかった。
甘酒にしようと思ったのに。
「ピクルスはどんな具合? 」
「大体は出来てるよ」
いよいよ、ハンバーガーへの挑戦が可能になるのかな。
あれが出来ればパンの申し子たる奥さんにも好みの品になるだろうから、何とか実現したいものだな。
肉のミンチは風の精霊さんが暴れるので、でかい肉の固まりもすぐさまミンチになるのです。
最近では大皿に肉の塊を置くと、風の精霊さんがうずうずしており、やって良いの? って気持ちが伝わって来ます。
お願いね。
シュパシュパシュパシュパ……。
小気味良い音と共に、ひたすらコマ切れにされる肉は、次第に原型を留めなくなってそうしてミンチとなる。
それに熟練するのは良いんだけど、頼むから獲物とか人間をミンチにしないでね。
つなぎを入れて成型して寝かす。
「たくさん出来るね」
「一通り拵えたら生産班に流すから」
「商品になったら外で売ってみるの? 」
ファストフードか、懐かしいな。
だけど、そんなに大量に拵えるのも大変なので、里の広場で屋台にしよう。
◇
屋台には『ウマクナルゾ』と書かれている。
これは、こうやって作ったら美味しくなるって意味なので、別にパクリのつもりじゃありません。
そもそも、この世界にそんな店も無いので、何処からもクレームは来ないはずですが、それでも似た名前にするのは、あの店のように繁盛して欲しいという、願いを込めての意味もいくらかあったりして。
それをパクリと人は言う、のかも知れないけどこれぐらいは良いよね。
試食なので無料ですが、販売の場合は単価が必要になりますので、ここは試食をした連中に決めてもらいましょう。
成型したハンバーグを焼いて隣に渡すと、奥さんがパンに乗せて生野菜とピュアルの実の薄切りとピクルスを載せてパンでフタをして、軽く押さえて完成と。
「まずはアタシからね」
並んで待っているんだから早く食べさせてあげてね。
「おおい、まだかぁ」
ほら、言われてるよ。
「うん、これは美味しいね」
実にマイペースだな。
◇
ハンバーガーの評判はまずまずで、商品価値としては銀貨1枚前後だろうという結果になりました。
里では物々交換なので、あくまでも各自が表明する品物と同価値というのから算出したものなのですが、日本円にすると800~1200円という、とてもお高い品になってしまいました。
実は細々と拵えるのも面倒だとやたらでかいハンバーガーにした関係で、1個でお腹いっぱいになってしまうような代物なのでそんな価格になったのだろうと思えますが、この価格で押し通せるものなのか少し心配なところです。
まあいいや。
さて、次は小さなハンバーガーに挑戦だ。
「肉は贅沢にもこれを使う」
「もったいないかも」
「これなら毎日じゃないの? 」
「商品にはならないね」
まあなぁ、火炎熊の蜂蜜漬けのミンチとか、外で頼んだら銀貨どころの騒ぎじゃなくなる可能性も高い。
しかも焼くと不味くなる肉なので、ミンチにしたのをパンに塗ってそのまま挟んで出来上がりという、とても簡単な代物だ。
「これ、食べやすいかも」
奥さんに好評でした。
◇
それはそれとして、かつての世界で食べていたサイズのハンバーガーを売ってみようと、まずは肉のチョイスから開始した。
どうせ焼くならと、ボアというイノシシみたいな魔物が食用になるとの事で、それとオーク肉との合い挽きでハンバーグを拵え、冷凍保存しようと考える。
そうして屋台で焼いて拵えれば、ファストフードのようになるに違いない。
奥さんは料理は苦手でもパンの焼き方だけは覚えたみたいで、ネタを寝かせておけば焼いてくれるらしく、ハンバーガー用のパンを大量に焼いてもらいながら、肉のほうはこちらで大量生産だ。
とはいえ、精霊さんのヘルプが随所に入るので作業が速い。
成型して置くと精霊さんが冷凍して容器に入れてくれるので、ドンドン拵えていきましょう。
シュパシュパシュパシュパ……。
風の精霊さんも調子が良いようで。
「100個焼けたよ」
「ネタは尽きたかな」
「もう少しだけあるよ」
「無くなったらとりあえず終わりで良いよ」
「はーい」
さあ、揃えたらお出かけだ。