表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/53

遂にご飯と思ったのに

 

 契約農家との話し合いは、エールと枝豆をもってして完了した。

 つまり、モグモグしながらの相談となり、そのまま成立したのでした。


「こんなに旨いもんなら大量に作るべきだな。よし、他の連中にも教えてやるさ」


 どうやら里の新生産物になりそうです。


 それからもあちこちで観光ついでの買い出しで、かなりあちらの産物とそっくりな物が見つかりました。

 どうやらおたくノートのヌシは、1国内かそれ未満の行動しかやれなかったようで、南東の地域では水稲も見つかりました。

 ただ、米粉にして団子にして汁物に入れて食べられており、そのまま炊いたりはしてないようでした。


 もちろん大量に仕入れました。


「小麦との交換はありがたいの。うちらじゃ小麦はあんまりやれんでの」


 そう、仕入れていた大量の小麦はここで米に化けたのでした。


 どうやらこの辺りの領主は米を三流の生産物と決め付けているようで、雑穀の類な扱いで小麦換算で5割にされるらしく、小麦農家の倍の納品をもっての税の徴収がきついと言われ、等量での交換にすると言うとかなり喜んでくれたので、あちこちの農村で同じ話をすると、どこでも大歓迎な感じで交換に応じてくれました。


 里では早速研究班に持ち込んで、知る限りの情報を伝えておきました。


 もちろんあのノートを解読した結果と伝えており、それはかなりの割合で事実だからです。

 さしもの研究班もあの言語には苦労したようで、未だによくは分からないと言われる有様です。


 自分は例の恥ずかしい二つ名の関係で、精霊さんの知識の中に解読の切欠を見つけたという触れ込みで、ノートの解読をしてそれを紙面に整理して書き付けたのを渡してあるので、それを元にして色々な生産物になるだろうと思っています。


 転生の事は師匠から話すなと禁じられており、それは恐らくこの里での転生が精霊になる以外の選択肢が無いからだと思っています。


 実はかなりの前の出来事なのですが、外の争いの仲裁案件で殺されて精霊になれなかった存在が出て、それからしばらく里で良くない事が続いたらしく、精霊になれなかった存在は悪霊になるとか思われており、なのでオレがその転生だと知られると、今の良好な関係が崩れるかも知れないと聞かせられると、絶対に話せないと思ったのでした。

 なのでノートの件は精霊さんに被ってもらったのですが、特に嫌がらなかったので安心です。


 さすがにお願いして、良くない雰囲気だとやらないよ。


 ◇


 早速、炊いてみました。


 始めチョロチョロ、中パッパ、フウフウ吹いたら火を止めて、赤子泣いてもフタ取るなってか。

 これもまた親戚のばあちゃんに教わったんです。


「白いブツブツ、これ食べるの? 」


 折角、箸も拵えたので、是非食べて欲しいのですが。


「これの使い方はなんとか出来るようになったけどさ、これって虫の卵みたいでちょっと」


 火炎熊の蜂蜜漬けのこま切れと共に食べてみます。


「ああ、懐かしいな。うん、この味だったな」


 精米は小麦と同様なのでうちの精霊さんの理解も早く、すぐにやれるようになりまして、頼めばすぐに玄米にしてくれたのでした。


 いつもありがとうな。


 かつてのオレは親戚のばあちゃんの影響で玄米メシを食っていたので、そこから白米にしようとは思わずそのまま炊いてしまったのですが、ビギナーには白米のほうが良かったでしょうか。


「白いだけなら良いんだけどさ、端のほうが色が違うでしょ。あれが頭かなと思ったらもう食欲がね」


 やはりか。


 精霊さんも最初は白米にしていたんだけど、何とか玄米になるようにお願いしたので、それ以前のモノ、つまりは白米もかなりあって、あれは米粉にして餅にしようと思っていたのですが、あれを炊いてみる事にしました。


 そして夕食。


「うん、これならまだ……だけどさ、アタシはパンのほうが好きなのよね」


「まずは食べてから」


「もちもちしてちょっと気持ち悪い」


 ああ、やはり最初の印象が後を引いているんですね。

 ならもういいや。

 これはオレだけの主食として、奥さんにはパンを焼きましょうか。


 えっ、主夫みたいって?


 奥さんは師匠と同じく料理が苦手なので、得意なオレが料理担当になっていて、それ以外をやってくれるので文句はありません。

 しかも奥さんは近所付き合いも得意だし、何かの交渉もやってくれています。

 つまり、料理以外のあらゆる事をやってくれているので、オレは料理と仕事と趣味の世界に没頭出来るので問題無いのです。


 とは言ったものの、衣食住のうちの衣に殆ど縁の無い種族の仲間になった関係で、洗濯は外出着に限られるので知れているのと、掃除は風の精霊に頼めばすぐに綺麗になるので苦労が要らないので、食事の準備が一番大変なのですが、精霊さんの助けが随所に入るので、自分としてはかなり楽だと思っています。


 かつては水の精霊だったはずのうちの精霊さんですが、今では万物の精霊になったんじゃないかと思わせるぐらい、あらゆる物に干渉してくれています。

 しかもそれが楽しいようで、言えば大抵挑戦して、やれるようになったらそれはもう嬉しそうな雰囲気になるのです。

 なのでそれが調理にかなり影響しまして、かつての家電を使った調理に近いものがあります。


 精霊さん、お米研いで。

 精霊さん、炊飯お願い。

 精霊さん、シチュー煮込んで。

 精霊さん、これ温めて。

 精霊さん、これ冷たくして。


 それって調理じゃないって?


 はい、その通りです。


 やはりものぐさの相手は勤勉になるってのは真理のようですね。


「うちの精霊さんも似たようなものだし」


 そう、うちの水の精霊さんに習ったのか、風の精霊さんも実に器用に何でもやれるようになりまして、ついでに奥さんの精霊さんも器用になり、留守の時の簡単な料理の手伝いをやっているようでした。


 そもそも里の精霊達があらゆる事に対して貪欲なので、里の住人からの要望をひたすら叶えてきたらしく、その影響をもろに受けて、うちの精霊さん達が何でもやれるようになったみたいで、本当に凄い事になっています。


「朝、起きたら食事が出来ていたの」


 嘘のような本当の話でした。


 道理で研究一途の研究班が餓死しない訳ですね。


 ◇


 意見番は里の新生産物の批評や、森の集会の里長の代理や、気が付いた様々な事柄に付いての意見を発する存在として里の進化を促しているようで、隔離に近い里なのに外よりも進歩している理由になっているようでした。


 全員が精霊の影響を受けているので、里に犯罪者は存在しません。


 この場合、里の住人に対しての、というか精霊に対するという意味なので、里人は皆精霊を信奉しているから、それに対する害を与える者が存在しないから犯罪が起こらないのであり、外部の存在はそうじゃないので、外でのあれこれは関係ありませんし、精霊も関与しません。

 つまり、外で何をやらかしても、里には関係無いって事ですね。


 それが例え連続殺人だろうと肉親殺しであろうと窃盗であろうと。


 ですが、今から考えると、当時の精神状態はまともじゃなかった気がします。

 誰かに操られていたんじゃないかと思うぐらいに。

 でも弟が自分を殺すように仕向けるなどあり得ませんので、彼の精神魔法の反動か何かでしょうかね。


 あちらの世界基準では大罪を犯したはずなのに、サッパリ罪悪感が湧かないのも不思議です。

 これはもう、外の連中とは別の種族になったと言って良いのでは、なんて思ったりします。

 さすがに害虫駆除とまでは思えないけど、それに近いものを感じると言うか。


 魔物と変わらない気持ちかな、悪人相手だと。

 

ネギラの里のミニ知識


研究班……里ではほぼ全員が望む班ですが、生活必需品も必要なので他の班との掛け持ちになっています。

農業班……すぐに品種改良に気が向くので、里の生産物は外とは比べ物になりません。

狩猟班……力自慢が集う班なので、脳筋班という別名を流行らせたくなる今日この頃です。

交流班……外部との交流は基本的にしないので、周辺の種族以外は自分に任せられています。

生産班……回復薬やお茶の生産、皮のなめしや細工物、家具や寝具の生産など、奥さんと共に自分も参加しています。

意見番……知恵者や長老衆が集う班であり、師匠もこれに参加はしているものの、生産班に入り浸りになっているので、殆ど生産班と言っても良さそうです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ