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お偉いさんの要望

 

 残った金貨を返したい気分になったところで、実は……と、話し始めた道具屋のあるじ。


「レーレン公がまとまった量が欲しいと仰られたらしくてな、どれぐらいの量までなら出せるだろうか」


「誰それ」


「なんと、レーレン公を知らんのか」


「田舎者だから」


「ふむぅ、レーレン公は先代の王の弟に当たる方でな、兄の影で質素な暮らしをしておった方なのでな、先の政変で表に出て来られた方なのだが、現在の王の相談役をしておる方なのだ」


「腐敗政治の兄の影ねぇ」


「本人は清廉とまでは言わんが、兄とは比べ物にならないお方だぞ」


 共謀していたのなら共犯者の裏切り、そうでなければクーデターの画策者かな。

 御供みこしになりそうな有望株を見つけて、手を組んで現政権を倒して自分はその傍らに侍る、か。

 雌伏の間、相当牙を研いでいたみたいだな。


 どちらにしても、用意周到に成功させたって事で、有能ではあるのだろう。


 つまり下手に逆らったら用意周到に潰されるって事だろうけど、里との直接交渉と言われても、そいつは無理だからな。

 さて、どれぐらいの量を渡したものか。


 金さえくれるなら構わんが、献上しろと言われても困るぞ。


 この国はまあまあの大きさだけど、総戦闘力で里が負けているとは思わない。

 総勢1000に届かない小さな里だけど、ひとりひとりの戦闘力が半端ないから、その気になれば恐らく、周辺国から狙われやすい、あちこちがガタガタの国にしてやれるだろう。


 統治とか面倒だから領土の切り取りは誰もが嫌がるにしても、里への攻撃の報復を嫌がる奴は恐らくいないと思う。

 そうしてやるなら各国との国境の警備をズタズタにするだけだ。

 そうすれば他の国が触手を伸ばしてくれるだろう。


 人間の習性を知れば、それを活用するだけで自然と共闘みたいになるんだよ。


 しかも交渉しての共闘じゃないから後腐れがないので、証拠さえ残さなければ、隣国の暗躍じゃないのって言って誤魔化せるかも知れないというおまけつきだ。

 そうして泥沼の戦いは人間同士にやらせておけば、好きなだけやってくれるってもんさ。


 んでオレ達は里でのんびり過ごすと。


 ◇


 どうやら献上らしく、話し合いは難航した。


「そういうのは渡すほうから話を出すのが普通だろ。なのに自分から寄越せって言うのは献上とは言わないだろう。それは単なる接収じゃないの? 里はこの国の従属じゃないのだから、それに従う理由は無いよ」


「ううむ、とは言われてもな、わしではどうにも出来ん。とはいえ、おぬしでは舐められようからの」


「里の代表者って訳じゃないけど、外の世界を知っているという理由で、一応は外との交易役みたいになっているからさ、事後承諾になるけど交渉ぐらいは構わないと思うんだけど」


「やってくれるかの」


 まあ、いきなりお偉いさんとの話になるはずもないから、最初は下っ端との会談になるだろう。

 そうやって少しずつ上との会談となって、最後には直属の部下辺りとの会談となるだろうな。

 そうして御大は影に隠れて指示を出して、それに従って配下が交渉をするって感じだろう。


 なんせこちとら下々の中でも最下級に見られそうなガキだからな。


 人は見てくれで判断するものだし、ガキを交渉に寄越したってだけで里を舐めるかも知れないが、強さの変わらない国……里は国じゃないけど……同士の話し合いで、一方的な物言いをしたらどうなるかぐらいは分かっているんだろうな。

 最初にこのおやじが交渉に入ったから、この国の産物と勘違いしているのかも。


 なら最初にガツンと言うべきかな。


 どっかの辺境伯に狙われている里の産物であり、うっとおしいから直接国との交易を決意しての話なのだと。

 どっかの辺境伯を潰すのは簡単だけど、それではこの国も困るだろうから、平和的な交渉での取引にしたいと思っただけだと。

 だけどそれが嫌だと言うのなら、他国との取引にしてこの国への輸出を提案するだけだと。


 もっとも、戦略物資になりそうな品を、おいそれと輸出しようとは思わないだろうけど、どうしても欲しいなら相当の見返りを提出すれば、売ってくれない事も無いと思うぞってな。

 こういうのは出来る出来ないじゃなく、そういう事を考える頭がある事を相手に教えてやれば良いだけだ。


 それが抑止力になる。


 しかもどっかの辺境伯に狙われているって事は、今まで何度かの襲撃があったって事を暗に匂わせているから、表沙汰にすればこの国の立場が弱くなる。

 弱い立場の者が強い立場の者に対して、献上しろとは到底言える話じゃないぐらいは分かるだろうから、そこまで読めるならこの話は無かった事になるはずだ。


 それで辺境伯がどうなるかは知らないが、それをすると更なる災難になるからあんまりやりたくは無いんだけど、献上はさすがにやり過ぎなんでな、ちょっとだけ牙を見せとこうと思ったのさ。


 その結果がどうなるかは分からないけど、精霊魔法の存在がある以上、あんまり強気には出られないと思うんだよな。

 ただそれを過小評価するか過大評価するか、それが対応に関わってくるだろう。


 もちろんこちらは控え目に話をするだけだけど、相手がそれをどう取るかまでは責任持てないので、くれぐれも過小評価する事の無いように願いたいものだ。


 さすがに単独討伐は言えないもんな。

 

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