どうやら居候になりそうです
師匠に実家を放逐された事情を話したら、ここに住めばいいと言ってくれた。
同居になったら生活分担がどうのと言われ、師匠が倒したゴブリンの解体をしろと言われ、肉と魔石を取った残りを穴を掘って埋める日々は辛かった。
本当は焼いたほうが良いらしいが、そのままでも構わないと言われて、石や根を避けながら掘ったものだった。
それでも土の才覚もあると言うと、穴掘りの魔法を教わったので楽になったけど、正確な理解は自力でしろと言われ、想像のままに発動しろって話で、何とかモノに出来たから良かったものの、普通じゃやれないぞ。
厨二知識で魔法はイメージってのを思い出した今なら別だけど、よく長島さんみたいなアドバイスで覚えられたものだよ。
それはともかく、とりあえずは促成栽培された薬草の育成をメインにして、ちょいと真剣に稼いでみようと思っている。
「両方で30にしときな、目立つよ」
この場所は隣の領地の外れであり、少し行くと元の家の領地となる。
つまり、両方のギルドを活用出来る立地な訳で、双方に売れば倍の利益になるってお得な環境にある。
ただ、師匠も言ったとおり、大量に売るとどうしても目立つので、可能でも言われたぐらいの量に留める必要がある。
なんせかつての親父は金使いが荒くてさ、それが家計を圧迫していたらしいし、うっかり金稼ぎの才覚があるとか知られたら家の奴隷にされかねない。
まあもう殺したと思っているかも知れないけど、ギルドの職員からの注進とかされたらヤバいので、地味な商売でやらないとな。
そもそもあの親父、本式の検査のはずが簡易で終わらせやがってよ、後から聞けば金貨20枚が検査費用ってなっていたらしいし、金貨18枚も着服して何やってやがる。
当時は何も気付かなかったが、今から考えると何もかもがおかしい。
その解明は今は出来ないが、推測ぐらいなら出来る。
あの家の家計が苦しいのは変わらないだろうから、食い扶持がひとり減ったぐらいじゃ知れたものだろう。
確か弟は学校に通いたいと言っていたが、無理じゃないかな。
いや、もしかして……親からも……まさかな。
◇
放逐されて1ヶ月が過ぎた頃、母親からの手紙が届いた。
どうやらオレが師匠の元にいるのを誰かに調べさせたのか、それともギルドの職員が漏らしたのかは知らないが、問題はその用件だ。
自分が仲立ちになるから戻って来いって冗談だろう。
何、家出みたいな事を言ってんだよ。
出て行けと言われて魔法を撃たれて飛ばされたんだよ、100メートル先の茂みにさ。
荷物が無かったら死んでいた可能性もある攻撃を食らわせといて、家出息子みたいに帰れとか、冗談もいい加減にしてくれよ。
とりあえずは戻ったら今度こそ殺されるって感じの返信に書いたら、それっきり何も言って来なくなった。
あれから1ヶ月が経過するが、相変わらず何の音沙汰も無い。
もしかしたら母親が留守の時にオレを追い出しといて、あいつは家を出たとか嘘を言ったんじゃないだろうな。
確かに能力に満たないと後継者にはなれないけど、家は弟が継げば良いんだし、家までは出る事も無いとは言っていた。
そこで言えば良かったんだよ、弟との約束の話を。
なんでその時になるまでは内緒にしておいて、護衛としてやれるようなところを見せれば巧く行く、なんて言葉に騙されたんだろう。
貴族の決まり事に事後承諾とかあり得ないのに、どうしてあんなにも弟を信頼してしまったんだ。
あれ、その話は弟が頃合を見計らうって計画じゃなかったか?
あれ、何で事後承諾の話に乗った記憶もあるんだ。
おっかしいな、どちらの記憶が本物なんだ。
ともあれ、事後承諾を承知するとか、普通はあり得ないのに、そのあり得ない事をやらかしたせいでおかしな事になったんだな。
成人まで親と相談もせずに兄弟だけで決めた約束とか、親が知らないと後の造反を疑われるに決まっているだろ。
だから追放になったんだよ。
どうして決意した時に親と相談して後の事を決めなかったんだよ。
それなら後継者の交代とその護衛として生きる事を周知出来たのに、成人になってからの発覚とか何かの陰謀を疑われるだけだ。
次期の為に邪魔者排除って心に染まった状態での言い訳とか、邪推されるだけに決まっている。
時期も悪いがやった事も悪い。
確かに記憶の中には野山を駆け回っての薬草採取ってアルバイトみたいなのも含まれるけど、一般的に言って魔術師の天敵は剣士だ。
そうして成人の儀式の後での検査が終わってクリア出来なかったのが発覚して後、次期当主の護衛として生きたいとか言われても、そんなの後の陰謀を疑われるだけだ。
確かに兄弟仲は良かったみたいだけど、平民の家庭じゃないので親でも芝居をされたらそんなの普通の生活じゃ分からない。
食事中の無駄口を許さない風潮だと、兄弟仲とか知れようはずもない。
更に言うなら親父の代には後継者争いがあったらしい。
規定に満たないとして後継者の役不足が決まった後での言い訳のような進路の報告とか、その場逃れの虚言と受け取られ、後継者争いに向けての剣術の腕を磨いていたと思われても仕方が無いぞ。
確かに今は魔術師の家系だけど、かつては同様の事があって剣士の家系からの逸脱を図った過去を持つ家の跡継ぎ問題だろ。
それを知っていてどうして事前に相談しなかったのか。
◇
どうにも愚痴が多くなるが、当時に記憶が戻っていれば確実に引っかからないような案件だけに、それが悔しくて仕方が無いんだな。
それにしても魔法の才覚が無いと思い込んだのも酷い話だな。
更に言うならこの世界の常識も酷い。
ステータス・オープンと唱えるとあっさりと表示されるってのに、誰も知らないのかよ、この表示方法を。
まあなぁ、オープンなんて言葉、この世界に無いしな。
なんせ世界は共通語で通じるので、今知らなければ大抵の国には無い言葉って事になる。
つまりこのシステムを設定した存在はカタカナ英語を知っていて、それも当たり前のように使っていてつい設定しちまったが、この世界の存在にそれを教えるのを忘れていたって話か。
それが神様なら……日本人転生者かよ。
ちなみにオープンって言葉自体の意味と同じ言葉はありはする。
それはステータスも同様で、同時に使うとこうなるんだ。
ステイタス・オプン……はい、発動しませんね。
status open……英語でもダメか。
どうなってんだよ、この世界。
手紙の返事
ご提案の件ですが、希望に沿いかねます。
私は父上によって放逐された存在です。
先の戦争で大活躍だった、風属性中級魔法、風の嵐によって吹き飛ばされ、そのまま死んだと思ってくだされは幸いです。
まさか、息子の私をいきなり殺しにかかるとは思いませんでした。
そういう訳で、私は戻りません。
幸運はそう何度も続かないでしょうから。
世界ミニ知識
この国、サーバス王国は、現国王によって腐敗政治が一層された経歴を持つがゆえに、領主の領民への無法は厳罰をもって処するとお達しが成されており、いかなる地位の者も無体な真似はやれません。
今回の騎士爵家の騒動は、本人の想像以上の反響があり、最寄の者によって関係筋に報告が出されており、ゆくゆくは処罰確実な状況になっています。
ただ、いきなり国からの処罰とはならず、寄り親が代行するのが慣例のようですが、寄り親の犯罪は寄り子の関与を徹底的に調べられます。
ちなみに王は清廉潔白がウリなので、少しでも不正に妥協するとその基盤が揺らぐので、やりたくてもやれないのが現状らしい。
現在の状況
兄……放逐されたので師匠宅で居候だ。
父……魔力が足りなくて息子が家出した。
母……風聞が悪いので呼び戻さないと。
弟……このまま行くと次期当主確定かな。