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塩、塩、大作戦

 

 濃縮魔素水を減らしてしまったのに追加はまだ早いので、とりあえずタンクの水量を増やしておこうといつもの湖に沈んだ後……大量獲得は以前と同じ、だけども今回は確信犯……またぞろ海で塩作りを開始する。


 今回は各種族から検分に来るらしく、各種族の分の大型拡張バッグは用意している。

 倉庫の中の金貨を500枚抜いて、10袋は先行投資だ。

 慣れた様子で精霊さん達が拵えていると、ぞろぞろとやって来ては製塩の様子を感嘆したかのように眺めている。


(ほんに塩が出来ておるぞ)


(あれはほんに塩なのかの)


(間違いない。さっき舐めてみた)


(まさかのぅ。ネギラ様とてやれなんだと聞いておるに)


(あれが人族の智恵なのかの)


(味方なれば頼もしいが、敵に回すと大変じゃな)


(そう思うなれば抗わぬ事だ)


(それでは増長はせぬかの)


(その時は里の長に諌めてもらうしかあるまい)


(我ら周辺の者は里あっての生活だからな、里の長の決定なら、抗う訳にはいかぬさ)


(確かに里の攻撃力は凄まじいし、いざと言う時の応援はどうしても必要じゃ)


 後ろのほうで世間話になっているが、あの里って周囲の統括になっていたんだな。

 確かにうちの里の戦闘力は半端無いし、それを応援に使うなら大抵の相手は問題にはなるまい。

 だけど塩の問題が片付くなら、対人族のトラブル出動は無くなるだろうし、残るはドラゴンとかの大型魔物対策ぐらいかな。

 しかしな、ドラゴンを相手にするとなると、水の精霊化でなんとかなるものなのか?


 まあ、どうしてもと言うなら、体内の血液から水分を抜いてやれば終わりそうではあるが、海水から水を抜く要領で血液の水分が抜けるかどうかが勝敗の分かれ目だな。

 このシステムが塩を抜くタイプじゃないから恐らく可能だとは思うんだが、もしかしてネギラ様って海水から塩を抜こうとしたのかも知れないな。


 ちゃんと空中に飛散した水気から水の分子の把握をやらないと、あいつらにとっては水気は何でも同一の認識。

 そいつを区別してやらないと、海水から海水を抜いて終わりかねない。

 水の精霊とは言うが、水気の精霊と言ったほうがいい認識なのは、やはり知られてないんだな。


 だけどもうちの精霊さんはH2Oをきちんと認識してくれているから、どんな物からも純水だけを抜いてくれる。

 だから逆に言うなら純水が欲しい時には、そこいらの水気から作ってくれるんだ。


 シリカゲルの生成には純水が必須だからな。


「この塊は何かの」


「ああ、水と塩を抜いた以外の不純物だよ」


「海水は水と塩だけじゃないのだな」


「ありとあらゆる物が混ざっているさ」(80種以上とか言っても分からないよな)


「これはゴミなのかの」


「いや、何か採れると思うよ」(硫黄とか)


 まあ、分子モデルの分かっているの以外は抽出しないと無理だろうけど。


 とか何とか言っている間にも、塩はドンドンと作られてバッグの中に収まっている。

 今ではジョウゴの化け物を拵えてその上で大量に生成されているから、以前よりは早いのだ。

 微量貴金属も最初は集めていたが、いくら大量に塩を作っても耳かきに半分の量とか使い物にならないので、今では塊にして放置になっている。

 水を分離したついでに塩の分離にも成功し、今ではやろうと思えば海水から直接塩を取り出す事も出来そうだけど、あくまでも水の精霊の余力なので、それをメインにやりたいなら土の精霊に頼むしかない。


 オレへの好意で他属性の物質なのに、やってくれているだけなのだから。


 それでも水と塩以外のモノを見かけたら弾く、程度の事なのだけど無いよりはましだ。

 あの塊になっているのがそれなのだが、厳密に分離すればその数倍にはなるだろうけど、そこまでは言えないし恐らく理解はしてもらえないだろう。

 どのみち、分離に必要な機材も無ければその気も無いので、このまま継続になるにしても、塩はミネラル塩になっているだろうとは思うが、それはそれで味わいのある塩という事になるだろうから別に構わないと思っている。


 どのみち煮沸しての塩なら全部だしな。


 それでも多少でも抜けるのなら抜いておいたほうが良い物質も海水には含まれているから、それを一応は抜いているだけに過ぎない。

 まあこの異世界の海水に、カドミウムとかウランとか混ざっているかは知らないけど、地球と同じなら硫黄はかなり入っているはずだ、と言っても知れているけど。


 木炭と硫黄と、後は硝酸カリウムか。

 何処かに無いかな、硝石、なんてな。


 魔法がある今、特に必要とは思わないが、後の死蔵になるにしても、作ってみたいという気持ちは中々消えてはくれないものだ。

 魔力の少ない平民なら作って活用するかも知れないが、今は平民だとしてもかつては貴族として才覚に恵まれての生なのだから、それをそのまま生かした生き方になるだけだ。


 まあ、花火は作っても良いかもな。


「溢れた溢れた」


 と、言いながら奥さんが次のバッグと交換している。


(ううむ、もったいないのぅ)


(後で集めればよかろう)


 ちゃんと敷物を敷いているの、見えてないのかな。


 ◇


 早朝から開始した大量塩作戦は、昼を越しても継続している。

 精霊さんは疲れないようで、妙に楽しんでいるようだ。

 まあ、あんまりやる機会の無い分離だからな、面白がってくれているとは思うが、これが毎日だとすぐに飽きそうだな。


 結局、異種族の為の10袋とは別に、空いているバッグにも詰めたので、総数は15になった。

 それと言うのも里の蔵に入れたいと言うので、追加の製塩になったのだ。

 後は今回の功績で永久狩り免除、なんて事になったようで、オレは狩りをするより色々に働かせたほうが有用と気付いたらしい。


 つまり、狩りは脳筋専用かよ。


「はいはーい、バッグは各種族1個だからね」


「受け取りを書いてくれよな。それとそのバッグは貸すだけだから、欲しいなら人族の金貨で50枚だぞ」


「なんと、そんなに高いのかの」


「ドラゴンが入る量だからな」


「さすがに50枚もは無いな」


「うちの産物と交換にはならんかね」


「里長と相談してくれ」


 結局、里長との相談となり、貴重とされる産物を供出する種族のみ……かなりの量……と交換の形でバッグを渡してやってはくれぬかと問われ、そういう事ならと進呈とした。

 うちの里の使用量は知れているが、それでもその量は今後数百年は耐えるであろう程であり、特に腐る事も無い事から、これであの種族が滅びても当分は保つなどと、ちょっと黒い事を呟いてはいたが、聞こえてない振りをしておいた。


 その他の種族のうち、金貨26枚はあるのだがと言う種族に対しては、残りは産物でも構わないと告げたせいで、種族の秘法をいくつか里に提供するという、またぞろ里長が喜びそうな案件となり、しばらく相談して決めると言ったので、全ての種族から得られた金と技術と産物の目録を拵えておいて欲しいと告げ、交渉は全て任せると告げてそこを出た。


 たかが金貨500枚。


 辺境伯の宝物庫からの出物なので、くれてやっても良い代物。

 それで里の状況が良くなるのなら、それに越した事は無い。

 オレが到来して状況が悪くなったと言われるよりも、良くなったと言われたほうが嬉しいに決まっている。


 それに、周辺の連中は里の強大な戦力を頼りに集まった者達。


 だから里がより良い方向に歩むのなれば、その恩恵を自然と得られる事になる。

 多少の譲歩になったにしても、それで好感触が得られるのなら、困った時には今回のような助けが入るかも知れないのだ。

 今までも困った案件に対しては力を尽くしてきた里ならば、今回の件の見返りは余分なぐらいでちょうど良い、ぐらいに思っているのかも知れない。


 実際、全員がその気になれば人族の領域をかなり削れるだろうぐらいの事は誰もが分かってはいるが、そんな事はつまらないから誰もやろうとしないだけの事。

 しかも一度それをやってしまえば、もう後戻りは効かないとなれば、相手を殲滅しない限りは延々と争いの歴史を刻むだけになるだろう。

 そんなつまらない事より日々の暮らしを彩るほうが、精霊と共に歩むほうが何倍も面白い。


 遥か昔から付き合っているはずの精霊も、オレの発案で新たな広がりを見せている。

 そんな様を見て、我も我もと、新しい試みに従事する。

 そういう事がやりたいからこそ、無駄な争いの事など、誰も見向きもしないのだ。

 研究の徒なのは師匠と同じだが、もしかすると師匠はここの出なのかも知れないと思うようになってきた。

 光の才覚が欠損して、全属性から外れ、精霊を失った結果が今の状況なら、辻褄が合わないでもない。

 光の精霊と共にいたのなら、欠損で絶縁になったとなれば、ありそうな話だからだ。


 戻りたいかな、師匠。


 もし、戻りたいと言うなら、オレが連れ帰ってやるんだが、今更と思うなら知らない振りして置いても良いが、郷愁を見せるようなら、見学と称して里訪問の誘いを掛けてみるか。

 もし、この里の出で無かったにしても、同じ研究の徒であれば話は合うだろうし、師匠の広い学識は里の財産ともなるだろう。

 しばらくの滞在をオレから進言しても構わないし、里長もオレの師匠なら無碍なる断りもしないだろう。


 だが今はまだダメだ。


 弟子を新たに採った今は、まだ早いからもう少し後のほうが良いな。

 あいつがそれなりになった頃合に、独り立ちを薦めて元の道具屋の片隅で、兄との共同経営をするのなら、そのほうが良いに決まっている。

 親もそれなら賛成するだろうし、しなければもう二度と逢えないかも知れないのだから。

 この交通の便の悪い異世界で、別居になった兄弟が逢える可能性は同じ町でない限りはかなり確率が低いのが現状だ。

 それが冒険者なら別だけど、それとて危険の多い職なら似たようなものかも知れない。


 それに、忙しければ道具屋の手伝いもなし崩しになるだろうしな。

 

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