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雪が降らないから降らせてみる

 

 冬の楽しみといえば雪合戦に雪ダルマに雪ソリ、それにかまくらにスキーやスノボと相場が決まっているが、どうやらこの里では雪が降らないらしい。

 確かに里の中に降ると色々と大変だから降らないに越した事は無いんだけど、それじゃつまらないと思うオレがいる。

 里の外れにある、ちょっとした広場なんだけど、ここに雪があれば色々と楽しめるんじゃないかと思い、水の精霊に相談してみた。


 えっ、雪が分からない?


 どうしてだろう。雪ぐらい北のほうに行けばいくらでも見れるだろうに。


 えっ、生まれてからこの辺り以外に行った事が無い?


 そうなのかぁ、なら分からないよな。


 精霊化で行って教えるのは簡単だけど、夢中になって帰るのが嫌とか言い出したら、それと同化しているオレも帰るに帰れなくなってしまう。

 精霊化とは言うものの、あくまでも精霊さんの補助が無いと成立しない、いわば精霊もどきなので、どうしても精霊さんの希望を優先するところがあり、初めて見る雪が面白いと感じたら、きっと飽きるまで動かないと思うんだよな。


 風の精霊に聞いてみたところ、人のいない北のほうは行かなかったと言うので、こちらも雪の存在すら知らない可能性が高い。


 どうしようかな。


 長期滞在、すなわち春まで北国に滞在は可能だけど、春の集会を控えているのに、それに遅刻は拙いよな、さすがに。

 折角、単独討伐の褒章という名目で、新参者のオレ達を里の重要行事に参加させてもらえるのに、それをすっぽかしたりしたらもう頼んでも混ぜてくれないかも知れない。


 なのでまずは雪のイメージを伝えてみる。


 雪の結晶の構造のイメージと、水の分子の結晶化のイメージ。

 氷は知っていたので、それがこういう形になって雪を形成していると伝えたら、それっぽいのが出現した。

 洞窟でまたぞろ補充をした後、満を持して氷の精霊へのクラスアップ……になったら困るよな……タンクの中が凍ったら嫌だし。


 ともあれ、場所指定で降らせてみた。


 チラチラチラ……地面に落ちてすぐ消える。


 チラチラチラ……地面に落ちてすぐ消える。


 チラチラチラ……地面に落ちてすぐ消える。


 おや、精霊さんの機嫌が……。


 シンシンシンシン……猛烈な勢いで降り始める。


 眼前が真っ白に染まって見えなくなり、それと共にやたら寒くなってきた。

 毛皮に包まって耐えていると、足元に何かが押し寄せて……やり過ぎだぞ、精霊さん。


 唐突に止んだ雪の彼方には、一面銀世界になった広場があった。


 えっ、3割も使ったの?


 確かに今では濃縮6割、淡水3割になっていて、封印魔物近くの濃縮魔素大気が1割になっていたものの、半分を使うとか、さっき補充したばかりだからしばらく補充は効かないと言うのに、どうにも江戸っ子な精霊さんである。


 里の皆に伝えて、話には聞くものの、見た事の無い者も多い雪は人気になったものの、皆が皆その真似をするのは止めて欲しいと切に願う。

 まあ、夏場の冷房や冷たい飲み物にも応用出来るから、うちの精霊さんから要領を聞いて真似をするのは構わないけどさ。


 それからというもの、里外れの広場は雪の広場と名を変え、冬になったら皆で合同での強制雪祭りになってしまうのはここだけの話である。


 ともあれ、退屈な冬の過ごし方に新しい風をまた送り込んでくれたと、皆は喜んであれやこれやと試している。

 まずはオーソドックスに雪ダルマから始め、かまくらの中では酒盛りも始まっている。

 風の精霊に頼んだソリも走っており、スノボに挑戦とかスキーに挑戦とか、道具を渡してやれば試行錯誤で楽しんでいる。


「何か作っていると思っていたけど、これに使うんだったんだね」


 赤い竹で拵えた竹スキーやソリの他に、スノボも拵えて雪山に行こうと思っていたオレだけど、里でやれるならと思って頼んだ結果が今なので、それはそれで構わない。

 奥さんも興味を示して挑戦するんだけど、転倒の前に精霊化するから、足の捻挫は発生しないようだ。


 て言うか、部分精霊化をマスターしたのか、足だけが滑るとか、怪奇現象みたいだから止めてくれよな。


 ともあれ、そんな怪奇現象を作りながらも慣れていき、普通のスキーやスノボみたいにやれるようになったものの、後ろから押す存在がいるから平地でも斜面のように滑っている様は、到底外の連中には見せられない。


 オレは一通り遊んだ後、飽きたからすぐに止めたんだけど、他の連中は冬の楽しみになったのか、暇さえあればそれで楽しんでいるようだ。

 奥さんに誘われて何度か参加したけど、月も変わればそれも断り始める。


「広場に行こうよ」


 オレはコタツ作りをしているから参加しないよ。


 木の枠組みをしたらそこに温熱の魔法陣を描いた金属板を取り付けて、精霊さんに魔力を融通して貰えればすぐに温かくなるはず。

 布団の代わりに毛皮を敷き詰め、被せれば熱も逃げないコタツもどきになるはずと。


 そうして完成したコタツも皆に流行り、猫が増えたのは言うまでもない。


 精霊さん、果物取って~

 

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