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頼みの綱は師匠なのだが

 

 確かに師匠は見た目は若いけど、ばあさんだからな。


 いかにやりたい盛りの年齢とは言え、ストライクゾーンの4倍は勘弁しろよ。

 オレが死んだのは成人式の後の飲み会の途中、つまりは二十歳だ。

 必然、ストライクゾーンは二十歳前後となっているので、この世界で言うと年上好みとなりはする。

 そりゃ見た目はまだまだ若く見えはするけど、自己申告は82才だ。


 となると67才差だ。


 それも本人の申告が頼りなので、下手したら5倍かも知れないんだ。

 そうなるともう見た目がどうこう言うより雰囲気が先でさ、何と言うか親戚のばあちゃんが若かった頃……40才ぐらい……に近いと言うかな。

 そんな包容力って言うか、庇護者な雰囲気と言おうか、そういうのを感じたらもう、邪な目では見れなくなったんだ。


 親戚のばあちゃんは中学の頃に亡くなったんだけど、懐いていたオレとしては雰囲気が似ていれば馴染むのも早かったろう。

 当時、そんな記憶は無かったものの、妙に馴染んだのは覚えている。


 知り合ったのは森の中だ。


 家が貧乏ってのは何となく雰囲気で察していて、小遣いは自分で稼ごうと薬草を採ってギルドで売って金にしていたんだ。

 正式なギルド員は成人してからと言われたけど、薬草を売るぐらいなら構わないと言われ、それを売っていたんだけど、うちの領地ってどうやら冒険者に人気が無いらしい。


 と言うのも魔物はゴブリンしか出なくてさ、少しでも強くなると隣町に移転してしまうんだとか。


 それで必然的に冒険者の数がいないものだから、討伐は無理でも薬草採取ぐらいなら大目に見ようと思ったのか、それともガキなら安く買い叩けると思ったのか、とにかく薬草を売って小遣いにしていたんだ。

 田舎の貴族で金を何に使うのかと言われそうだけど、当時のオレは弟の為にあれこれと買っては貢いでいたみたいでさ、どんだけお人好しなんだよ。


 まあそれはいいや、で。


 ある時、森で魔物と相対しているおばさんを見つけてさ、当時は武器も無かったからそこらの枝を拾って注意を逸らそうとしていると、ドカーンって魔物が吹き飛んだんだ。


 ああ、この人魔術師だ。


 って後から気付いて無駄な事をしちまったと暗くなっていたら、それでもお礼を言ってくれたんだ。

 そうしてひとりで森の中で何をしているのかと聞かれて、小遣い稼ぎに薬草を集めていると言ったんだけど、それなら回復薬にして売れば儲かると言われ、作り方を教わる事になったんだ。


 その時に集めている薬草が実は若芽であり、もっと成熟しないと下級回復薬の素材には使えないって言われ、ギルドで言われた事が間違っている事を知ったんだ。

 確かに若芽でも素材になりはするが、最下級回復薬という安物にしかならないらしい。

 師匠にそこの所を聞いてみると、若芽で仕入れて花壇に植えて、土中に魔力を注入してやれば成熟する可能性がそれなりにあるらしく、毎日売れていた事から考えて、職員の内職になっていた可能性が高いらしい。


 成熟した薬草から下級回復薬になると銀貨1枚で売れるらしく、ギルドで言われていた薬草20本で銀貨1枚って価格からしたら、20本の若芽を育てて半分でも成功したらかなりの儲けになる。

 薬師じゃなくても初級回復薬ぐらいなら作れる人はそれなりにいるようで、ギルドの職員とか元冒険者ってのがそれなりにいるから、もしかしたらアンタの採った薬草で稼いでいたのかも知れないと言われた。


 それ聞いてもう、薬草を卸すのを止めたんだ。


 いくら当時のオレでもさ、自分が売った薬草で他人のほうが余計に儲けていると言われてそのまま継続しようとは思えなかったようで、是が非でも初級回復薬の製法を学んでそれを売ろうと思ったんだ。


 それでも結局、6掛けにされてたみたいだけど。


 問屋の卸しじゃあるまいし、6掛けは酷いと今なら思えても、当時のオレはそんな知識など無かったから、それでも高価だと思えたんだろうな。


 会員が協会に売る価格がそんな酷いとなると、類似の組織に取って代わられてもおかしくない。

 だがそうなってないところを見るに、あのギルドだけの可能性がある。

 相手がガキだと侮って、食い物にされていたのだろう。


 酷い話だな、我ながら。


 普通に考えればもっと良い方法も思い付く。

 例えばギルドの前で薬草売りますってプラカード持って立っていたほうがましなようだけど、識字率がほぼ100パーセントな日本とは違い、それじゃダメなぐらいは分かっている。


 それはともかく。


 んでまあ、毎日のように初級回復薬を作っては売っていたんだ。

 日によって作れる数は異なったけど、ある時まとめて10本売ったら銀貨6枚でさ、売価が銀貨1枚なのにおかしいとは思ったみたいだけど、抗議はしなかったみたいだな。


 今から思えばギルドの中間搾取が銀貨4枚かよ。


 よし、価格改定交渉だ。


 まあもう弟に貢ぐ君じゃ無くなった事だし、そう目くじら立てる事も無いかも知れないけど、銀貨6枚持って帰って弟に出会って、欲しいと言われてそのまま渡した記憶ってこりゃどうなってんだよ。


 いくら記憶が無かった頃でも、これは酷くないか?


 オレは弟に貢ぐ為に稼いでいたのかよ。


 確かに記憶の中の弟の姿は、庇護欲を誘いそうな姿だけど、そんなもんにコロッとやられてしまうとか、うん、こりゃ貴族に向いてないわ。


 放逐になったのはそれが理由なのか?


 こんなの当主にしたら、誰にでも支援しまくって破綻するとでも思われたか?

 悲しい事に、今から思えば確かに当主に向いてないと思うな。

 いくら弟の頼みでも、普通はそこまでしないと思うんだが、過去のオレは何と言うかもう……情けない。


  ◇


 愚痴になったので気を取り直して。


 師匠の穴場を教わった代わりに自分の分の薬草も集めてくれと言われ、その代償に回復薬の作り方を教えるって事で決まったんだ。

 穴場は師匠の家の周囲に点在していて、まともに採取して回ると数時間は掛かる。

 だからその労働が対価となるなら構わないと承諾して、仮だけど師匠の弟子みたいになったのが5年前だ。


 つまり10才の頃だな。


 この記憶も実はおかしいんだけど、既に父親の中では弟が次期当主として決まっていたんじゃないかと思えるぐらい、時間に余裕があるんだよ。

 普通なら……まあオレの知識も偏っているけど、小説とかならって事で……次期当主ならもっと色々勉強の時間があるはずなのに、まるで放任されていたみたいに自由な時間がやたらあったんだ。


 うちの領地の南の端に屋敷があって、近所の林は領地だけど、その先の森は隣の領地なのを知らなくてさ、ついつい深入りして魔物に出会った訳であり、ばあさんがいなかったら襲われていた可能性もある。


 なのである意味、ばあさんは命の恩人なのかも知れないんだ。


 それでもばあさんは巡回して魔物を倒しているらしく、たまたま遭遇になったけど時間がずれていたら既に倒していた訳だけど、危険な森には違いない。


 それで回復薬のついでに魔法も教わる事になり、コブリンぐらいなら倒せるようになったのも嬉しかった。

 そのまま行けば良かったのに、12才の測定の時の弟の言葉のままに、魔法を止めて剣術にしたのには悔いがある。


 それっきり魔法の練習はしなくなって、それでも師匠は何も言わず、回復薬の作成と採取した薬草の受け取りだけをやっていたんだ。

 その時に師匠が言ってくれたらと思うのは甘えだから言わないけど、本当に弟にはしてやられたものだ。


 そもそもどうしてそこまで弟の言う通りに人生決めてんだよ、過去のオレ。


 記憶が戻らなかったらどうなっていたんだろう。


 良くて小間使い、悪ければ奴隷か、あり得そうだな。

 弟の為に生きて弟の身代わりに死ぬ人生とか、つまらないにも程がある。

 それを思うと、よくぞ記憶を取り戻したと言いたいが、放逐になってから記憶が戻っても、もうあの家には戻れないって事だよな。

 確かにただ戻るだけなら可能だろうけど、またぞろアレを食らったら、次は死ぬかも知れないと思ったら、そんな危険な行動は取りたくない。

 折角、前世の記憶も戻ってこれから新しい生活をしようって時に、一時の郷愁……あんまり無いけど……の為にそれをふいにする気は無い。

 

 どのみち弟が後継者に決まったんだろうし、もう縁が切れたと思ってあの家の事は忘れたほうが良いのかも知れない。


 なんせ殺されかけたんだし。

 



 

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