仲間としての里での役割
師匠のところでは結局、薬師の修練が主だったので、ここで改めて精霊魔法を教わる事になりました。
もちろん回復薬の製造もやりますが、それも交換品目になりそうです。
確かに作れる人は少なくないのですが、容器はどうやら陶芸の世界のようで、焼き物の小さな容器を拵えているらしく、それが面倒なので作る人が減り、今では精霊魔法の回復術がメインとなり、薬は必要な時に役割分担をして拵えているようです。
なのでアンプル容器の製法を伝えました。
確かに似てはいましたが、アンプルにしたのはオレのオリジナルであり、外の容器はアンプルに似た何かでした。
自然、開けるのにコツが要り、失敗すれば中身がこぼれる代物でしたが、今ではギルドにかなり卸したので、そういう風に改善が成されたかも知れません。
ただ、作るイメージが無いと作れないので、そのイメージもしっかりと伝えました。
元々のアンプルもどきは口にビー玉のようなのを固定する方式で、それをもぎ取るようにして開ける方法です。
開いた形がアンプルにそっくりなのですが、開く前はラムネの瓶の出来損ないでした。
なので切り口の部分を薄くする事で切り易さを追求し、他の部分を厚めにする事で破損を防ぐように伝えました。
その結果、アンプルを作れるようになる者続出。
実は外での元々のアンプルもどきの致命的な弱点は、実はこちらでも同様でした。
どうして両方共、回復薬を入れてから口を閉じる事しか考えられなかったのかも知れず、だから変な作りになるし、焼き物に走ったのかも知れません。
オレのアンプルには底がありません。
回復薬を入れてから底にフタをするので、いわば逆転の発想です。
フタはテーパにしてあり、瓶の底もそうなっていて、にかわを塗って落とし込むだけでぴったりになる寸法です。
後は軽く押して接着させて、逆のまま乾燥させれば完成です。
かつては段差式でやっていましたが、在庫の簡易にかわがあるのを思い出し、それでテーパ底にして試してみたところ、製造時間がかなり短縮されました。
もうかなり段差式で売った後なので今更のようですが、これからはテーパ底のアンプル方式になると思います。
後は切り口の成型をしっかりやって、それから薬を入れて底にフタをするので、切り口はいくらでも精巧に作れます。
その発想が無かったのですね。
後は型の問題ですが、ひとつひとつ手作りをしていては、どれだけ時間が掛かるか分かったものではありません。
これも発想の転換と言うか、外の存在には作れない方法ですが、精霊に型の形状を覚えてもらうのです。
そうすればそういう形状に中を中空にした土の形を自然に拵えてくれるので、表面を滑らかにすればすぐに完成し、その時に切り口を薄く成型すれば、より理想的なアンプルの完成です。
これらを伝えた事で、作れるようになる人が続出したのでした。
◇
オレを容器の専門家と思ったのか、お茶の容器の改善を頼まれました。
どうやら世界樹みたいなでかい木が村落の中央広場に聳えているのですが、精霊樹と言うらしく、その落葉は年中留まるところが無いらしく、その葉を乾燥させて粉砕してお茶として飲むのが日常らしいです。
聞けば魔力回復の効果があるらしく、外で売ればかなりの価格で売れそうですが、日常品なのでそんな意識は無いようです。
そうして拾い集めた葉は籠に入れておき、乾燥させて粉砕した後の容器が問題のようでした。
放置しておけば湿気が来るので、使用前に必要なだけ乾燥させても良いのですが、一度乾燥させた物が湿気ると味が変わってしまうらしく、乾燥を維持出来る容器は出来ないものかと聞かれました。
ここで登場するのがスライムの核です。
実はスライムの核を練ってデンプンを少々混ぜるとゴムのような性質を持ち、容器の密閉度が増すのです。
道具屋で見たのはスライムの核を練ったものであり、ニチャニチャする何かであり、簡易にかわと呼ばれていました。
それを見た時に食えないのかなと思い、そのままではさすがに嫌なので、もう少し硬くならないかと小麦粉を……はい、偶然の産物です。
いやね、そのニチャニチャした何かの色がわらび餅に似ていて、そういやあれも好きだったなと思い出して、つい食欲が……。
それで小麦粉のままよりデンプンにしたほうがよりゴムの性質を持つのに気付き、後はそのままギルドに走りました。
確かにスライムを狩りに行けば良いのですが、どうやらあれは養殖と言うか迷宮みたいな場所で増やしているみたいなので、ギルドで核の購入をしたほうが早いのです。
それと言うのもスライムは何でも食べるので、ツボの中に入れておけば残飯も綺麗に食べてくれるので、そういう用途で需要があるらしいのです。
実はトイレも……。
後はスライムの体液を化粧品か何かの原料にするらしく、必然的に核は余ります。
もちろん、道具屋で簡易にかわになるのですが、本物のにかわの代用品なので、そうそう必要な品ではありません。
だからと言って捨てるのは惜しいと、ギルドのほうで保管しているらしく、聞けばすぐに全部売ってやると息巻いて、ギルドの在庫を全て買い取る羽目になりました。
しかも、他のギルドにもその手の不良在庫はあるらしく、聞けばすぐさま用意出来るだろうと言われました。
そういう訳でゴムもどきは大量に拵える羽目になり、専用の保存容器の中で眠っています。
なのでお茶の容器の密閉度上昇の為に、ゴムもどきを放出する事になりました。
それと、竹そっくりの木も発見したので……どう見ても竹ですし、竹と言い切りたいところですが、色が赤いからなぁ……それで容器を拵えて、フタの周囲にゴムもどきを塗れば、あたかも茶筒のように……カポン……出来た。
真っ赤な容器の茶筒は違和感ありまくりですが、湿気に強いのですぐさま大量生産する羽目になりました。
一応、念の為ですけど、木炭の破砕物を小袋に入れて底に敷いています。
ちなみに奥さんは乾燥剤もどきを拵える係です。
こんな感じに、急がないけどやる事が切れないので、のんびりしながら夫婦で過ごすには最適の環境です。
もうこのままここから出る必要性を感じませんし、また出ようとも思いません。
確かに外で売れそうな物は色々ありますが、それとて別に無理に売りたい訳じゃありません。
ただ、そうだなぁ、そのうち師匠に元気でやっている事の報告ぐらいはしても良いかな。
ああ、平和だなぁ。
精霊ミニ劇場
(やあ君、最近見なかったけど、この子と共にいるのかい)
(くすくす、凄く棲み易いの)
(そこまで魔力が多いようには見えないけど)
(凄く濃いの)
(そうかなぁ)
(ああ、こいつ、別空間持ちでさ、そこに濃縮魔素水を大量に溜め込んであるらしいよ)
(ゴクリ)
(ダメよ、この子は私のだから)
なんて会話をしているのかも知れませんね。
拙い文章ですが、読んでいただきありがとうございました。
え、えーと、まだ続きます。
ど、どうしてエンドの小話が……。
こんなはずでは……失礼しました(汗