表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/53

旅の支度と師匠の構想

 

 つらつらとカバンを出していくと、嫁さんが不審顔。


「あれこのカバン、型崩れしているけど不良品じゃないの? 」


 丸めたから崩れただけで新品だよ。


「そのような使い方ではすぐに痛むぞぃ。金貨50枚もするのに贅沢な事じゃの」


 それはこいつを見て言ってくれ。

 大型のバッグ3袋に塩が満杯だぞ。


「おぬし、何処まで買いに出たのじゃ。そのような量、到底そこらの店では買えまいに」


 しかも無料。


「なんとおぬし、不可能を可能にしおったか」


 あちらの知識と精霊の手助けが無かったら無理だったよ。


「成程のぅ。なればますます森林族の仲間にしてもらわねばの。その知識、権力者に知られたら争奪戦になろうの」


 やはりオレの為なんだね。


「どのみちあやつにも情報源があるのなれば、いずれおぬしの事も知られたろうが、それを未然に防いだのは正解じゃ。確かにかつてそのような存在から知恵を得たという伝承はあるが、最近でそれを成し得た者は聞いた事が無い。なればあやつも伝承のままに得ようと思ったのじゃろうが、それが無くなればもはや手立ては無い。おぬしの事など知られておらぬからの。そのような稀有な存在なればこそ成し得た悪行であり、兄のほうは凡庸な評価のままじゃろうて」


 仮にも弟だから思うところはあったけどね。


「前の世での仇なれば致し方あるまいて。それに何も知らぬおぬしに対し、先に攻撃したのは弟のほうじゃ。なればその報復も加算すれば妥当と思うぞぃ。前の世はともかく、この世では報復はある程度は認められておるからの」


 師匠が急に旅の話をするから、何かの魂胆があるのかと思えば、オレの身を案じての事だったとは。

 確かに未来は分からないが、現状で科学に最も詳しいのはオレかも知れないんだ。

 いかに三流私大の2回生でも、工学部だから科学関連ならそこいらの素人以上には分かると思うし。

 となると、それを何かの拍子に知られたら、世界中の権力者に狙われる事になるだろう。

 だからそうなる前に逃がそうと思ってくれたんだな。


 本当のばあちゃんみたいに馴染んではいたけど、そこまで心配してくれるとはなぁ。


 ◇


 結局、大型の拡張バッグ3袋に満載の塩は、村の連中に販売を頼む事になりました。

 確かに情報漏洩の元になりそうですけど、岩塩の鉱脈を見つけた事にして、無くなるまで掘った結果の販売という事に決めたからです。


 もちろん、見つけたのは師匠であり、掘り尽くしたのも師匠です。


 彼女が魔術師と言うのは知られていますので、魔法で大々的に掘って掘って掘り尽くしたと言えば、納得しない人は恐らくいないでしょう。


 そうして若気の到りの岩塩鉱脈潰しの成果は、あたかも黒歴史のように物置の片隅に追いやられ、そのうちに忘れてしまったという設定になっています。


 つまり、型崩れしたバッグに表面加工……あちらの贋作知識の欠片を活用……して古びたバッグにして満載にして、倉庫の片隅で若かりし頃の財産くろれきしを見つけたと言う事にしての販売委託なのです。


 どのみち村でも塩は使うので、販売手数料を現物支給にすれば村の連中は喜ぶはずですし、師匠もそんなに大量に使う訳ではありません。


 なので殆ど売り尽くす事になると思います。


 ちなみに塩の販売利益で蜂蜜を買うらしく、村の蜂蜜はこの先ずっと師匠の独占購入になりそうです。

 もちろん火炎熊の蜂蜜漬けでの物々交換を画策しているようで、師匠の好物料理のネタ確保には、苦労せずに済むと思います。


 後は魔導具ですが、師匠に見て貰ったところ、少し前に出回った魔導具らしいのですが、現在では必要素材が尽きたので製造出来ないらしく、買おうとしても買えない品だと言われました。


 で、何の魔導具かと言いますと、どうやら自動傘のようです。


 師匠はこれを身に着けておけば、雨が降っても身体が濡れないと言いましたが、そんなの傘かカッパがあれば済む話なのに、確かにこちらの世界では見ないです。

 なのでそれを話したところ、ますます旅を急げと言われてしまいました。

 もちろん、傘は師匠の発案として、そのうち出回るようになると思います。

 その時にはバンガサにしてくれと言いましたが、意味が分からないので嫌だと言われました。


 多分、師匠が適当な名前を付けるのでしょう。


 確かにこうもり傘と言っても通じないだろうから、あえて奇を衒って番傘と言ってみたんだけど、それもダメだった。

 師匠は単なるあちらの世界の模倣じゃなく、こちらの素材を活用してのあれこれを考えているようで、あんな形にならない可能性も出てきました。

 どうやらスライムの皮にある特殊な処理をするとゴムのような質感になるらしい。


 えっ、それじゃコンドームが作れたり?


 どうやら考える人はいるもので、似たような商品があるらしいが、かなり厚いとか。

 さすがにあちらの超薄型は無理か。


「あのね、海草のぬめりがちょうど良いんだよ」


「わしは傘の構想を練っておるのじゃ。それにそのような下世話な物は作らぬ」


 それは残念。


 となると、その手の商品を作っているところにアイディアを持ち込めば、買ってくれるかも知れないな。

 まあもうそんな物は必要無いんだし、別に出さなくても問題は無いんだけど、将来的に金に困ったら出すかも知れないな。


 師匠の傘の構想も目処が付いたのか、近隣のギルドにスライムの購入に行かされました。

 皮しか使わないのにと言ったんだけど、スライム液は軟膏の原料になるらしく、冬場に備えて腰痛とかの対策商品が村に売れるらしく、その準備をしたいとか。

 ならばコアはこちらで引き取って、ちょっとした構想を練ろうと思っている。


 何か良い感じになりそうなんだよね。


 ◆


 異世界の傘の歴史は兵士の雨避けから始まります。

 槍の先端部分にスカートのような物を取り付けて、雨の日にはそれを広げて立哨するのを開発した兵士によって、大陸中に広まりました。

 ですが同時に落雷で命を落とす市民が増大し、各国の王より使用禁止のお触れが出され、そのせいで傘自体の開発も停滞したまま現在に到っており、落雷対策が成されていない傘は許可されないのが現状です。

 自動傘という落雷の心配の無い品は一世を風靡しましたが、原料の中のカタクチシーサーペントの皮膜が尽きたので雨避け皮膜が作れなくなり、現在では生産中止になっています。

 サーペント系はその表皮のすぐ下に耐雷性のある皮膜がありますが、実際の雷を防ぐようなものは確認されていませんでしたが、カタクチシーサーペントの皮膜に包まれた小動物は落雷でも生存が確認されています。

 その話を聞いた開発者によって採用されて開発された傘は、試験場で見事に雷を防いで見せたのでした。

 もちろん自動傘とは言うものの、魔法の膜で雨を防ぐようなものではなく、あくまでも雨感知で雨を防ぐ膜が広がる(物理)に過ぎないので、改良の余地はかなりありそうです。

 このカタクチシーサーペントという魔物は、その硬い歯でどんな物でも噛み砕くと言われ、海の魔物の中でも凶悪な部類に属するので、これから先に狩られる事は恐らくないと言われています。

 たまたま、それが干拓中の干潟に迷い込み、当時の現場指揮官の英断によって出口を塞がれ、頭部への魔法の集中攻撃でようやく倒せた代物で、いわば偶然の産物なのでした。

 ちなみにカタクチシーサーペントの歯と魔石は、英雄となった現場指揮官の所属する国の国宝になっています。

 

人物ミニ紹介


自分を小市民と思っていて、基本的には危険な存在に対しては遠ざかる傾向にあります。

遠くから観察して少し近付いて、反応があったらすぐ逃げる。

まるで小動物のようですが、そういうタイプなので危険な冒険には縁が無いのです。

その代わり、見つからないと確信出来ている場合は、かなり大胆になったりします。

特に強大な存在と共にいるとその力を背景にする、いわゆるトラの威を借るキツネのような行動を取ったりしますが、その時の彼はかなり強気です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ