火炎熊大量獲得作戦
領都にはギルドが複数あるのを初めて知りました。
なので今日はこちらを利用します。
ああ良かった、普通の受付さんです。
中年男ならまず変な心配は要りません。
だけど受付は顔と言われるのに変だよね。
うえっ、ギルマス? 何してんの。
「気分転換に少しな。それより、火炎熊となると北の迷宮だが、今回は解放してないぞ」
それは好都合だな。
独占可能なので獲れるだけ獲っても目立たないし、どのみち絶滅してもまた育成するだろうし。
北の迷宮の場所だけ知っておきたいと言うと、次の開催日に迷わないようにと地図で教えてくれました。
いやはや、親切です。
東のギルドのほうが近いと言われたけど、東のお姉さんが怖いと言うと、ハハハ、あいつに狙われたなと、訳知りな事を言うので聞いてみると、初物食いとかとんでもない噂があるんだそうで、よくそんなのをギルドの職員にしているのか、少し変に思いました。
「それでも仕事は出来るからな」
でももう初物じゃないのに狙われたんだけど。
「ああ、あいつの基準は変わっていてな、ギルドでの態度で決まるらしいんだ。つまり、ギルドの雰囲気に慣れたら終わりにするらしく、あんたみたいに初々しいのは何度でも食いたくなるらしいぞ」
うわぁぁ、もう行けないよ。
「くっくっくっ、けど、タダだからお得って意見もあるし、金に不自由しているのならお姉さんに任せるのも手だぞ」
ダメだ、嫁さんいるんだから。
「おいおい、その年で相手持ちかよ。それじゃ気を付けねぇとな」
はい、色々ありがとうこざいました。
「おう、またな」
親切なお兄さんタイプの人だったな。
ギルマスからしてそういうタイプだと、他の職員も期待が持てるな。
よし、今度からもここにしよう。
色恋はもうあいつ以外は興味も無いのに、変にちょっかい掛けられるのは迷惑だしな。
◇
実はあの、消防ホースで水を出すだけの技に名前を付けたんだ。
あれを斜め上方に飛ばすと、空中でバラけて雨のようになる事から、『水の恵み』という名前だ。
いかにもそれっぽいけど実は、火消しのめ組からの発想なので、親父ギャグみたいなものです。
いやほら、消防隊が消火するような魔法だからさ。
それはともかく、水化して迷宮の中に入ると確かに存在はしていますが、下のほうにしか居ないようです。
まだまだこれからのようで、上層まで増えたら解放するのかも知れません。
ざっと80頭、全部貰います。
もちろん、生き残ったら放置するので、泳げる事を祈るしかありません。
おや、精霊さん、どうしたの。
えっ、下のほかに何かあるんだね。
えっと、この水槽、何があるの?
えっ、この水が欲しいんだね。
これって濃縮魔素水なの?
どうしてこんなところに。
まあいいや、やっちゃって。
終わったら上から水を撒いてね。
◇
そーれ『水の恵み』
猛烈な水流が怒涛のように地下へ地下へと流れ込んでいき、下のほうがかなり賑やかになっている様子。
小熊はさっき確保して上層に退避させておいたので、母熊も付いてきているようですが、それは放置しときましょう。
別に今殺さなくても次でも構わないし。
水死して浮かんでいるのを引っ張って、岸からバッグに入れていく。
沈んでいるのは確保したまま水から出て、拡張カバンに入れてまた水中の繰り返しなので、部分水化にとても慣れました。
それと、遂に泳げる火炎熊の出現です。
火を吹く熊なのに泳げるのは脅威ですが、潜れるだけ潜って水から上がって、壁に火を吹いて身体を乾かしていました。
壁暖房ですな。
進化? した火炎熊と母子の熊は放置したので、結局は6割ちょっとの収穫でしたが、次の解放が楽しみなところです。
水はまだまだ引かないので、あのままだとますます水泳が上手になりそうなので、水中から火を吹く魔物とか、冒険者もびっくりでしょうね。
さて、後は帰るだけだけど、でかい道具屋の息子の話をしたら、弟子を取っても構わないと言われました。
どうやらでかいのを絡めて問題を複雑にする魂胆のようで、巻き込まれる道具屋の息子が可哀想になりましたが、親の財力と人脈次第では面白い事になりそうなので、早速、話をしに行きました。
どうやら彼は次男のようで、道具屋の跡を継ぐのは長男であり、彼は薬師になれなかったら兄の手伝いをするらしく、親は一応は賛成しているものの、積極的に師匠を探してはくれないようで、出来れば兄の手伝いをして欲しいと思っているようでした。
それでも決意は固そうなので、師匠が見つかったら親を説得しそうです。
「すぐに親を説得して向かうから」
ああ、もう止まりそうにありません。
せめて熟練になったら道具屋の片隅での営業を薦めてみます。
これなら暇な時は手伝えるし、自分の希望も満たせるし。
少し渋っていましたが、オレの機嫌を損ねると案内してくれないかも知れないと思ったのか、とりあえず話だけはしてみると言われました。
こういう流れになったのも、師匠から言われた話があったからです。
今でも森林の奥に行くと、森林族が居るかも知れないという話です。
確かに前回も奥に行きましたが、あれとは方向が違います。
なので2人して森林族の里を探してみようかと思っています。
どうやら森林族は自分達みたいな事がやれるらしく、行けば仲間にしてくれるかも知れないと言うのです。
それを聞いて嫁さんも興味を引かれ、行きたいと言い出しました。なので今頃は旅の準備をしている事でしょう。
彼女には生活魔法は無いので、自分の財布に入れる事になりますが、例の蜂蜜漬けがあれば何も要らないと言って、せしめた金貨で蜂蜜の大人買いを始めてしまいました。
師匠も在庫が欲しいらしく、一緒になって村の長と相談しており、こちらも止まりそうにありません。
それと、ゴブリンの蜂蜜漬けの話は相変わらず秘密ですが、火炎熊の蜂蜜漬けは、話の流れから出すかも知れないと言われました。
確かに火炎熊は獲るのが大変なので出してもすぐに実現は無理なのと、やはり生で食うのに抵抗があるだろうから、言っても作らないかも知れないと言うからです。
まあ、名物になったにしても、嫌なら食わずに売れば良いだけなので、作るだけは作るかも知れませんが、火炎熊が欲しいと言われてもそこまで面倒は見切れませんよね。
今回、50頭の火炎熊が得られたので、戻ればまた解体の日々になりますが、恐らく樽が足りないでしょうから帰りにそれも買うつもりです。
そうそう、小麦粉も買わないと。
結局、寄り道して色々買うのだけど、弟子候補が待ち切れないようなので、停車場から師匠の家までの地図を描いて渡して別れました。
そうなると先に戻ると変に思われそうなので、荷物を渡したら少し用事を済ませようと思います。
◆
(大変です)
(おお、盗賊を捕らえたか)
(それが、北の迷宮が大変です。地下水らしき水が大量に流入して、魔物がかなり溺れ死んで……)
(なんじゃと。おのれ……して、水は抜けそうなのか)
(最下層の精霊水の容器の底から抜けているようですが、中々引かないようです)
(うぬぬ、あれもか。致し方あるまい。されどその地下水脈、完全に塞ぐように伝えよ)
(ははっ)
(あれが溜まれば次なる作戦に用いようと思うておったに。こうなれば他から移して早急に満杯にせねばならぬか。ほんに悪い事が続きおるな。何とかせねば)
領都ミニ情報
2つの迷宮の同時開催で人が足りなくなり、受付は現在迷宮のほうで業務をやっており、ギルマスしか手が空いてなく、仕方が無く受付をやっているのが現状のようです。