とりあえず現状確認をしよう
地面に横になって記憶の整理をする。
荷物はどうやら着替えが主なようで、それを下に敷いたら痛みもそれ程は感じなくなった。
確かにすりむいた怪我は相変わらず痛いけど、子供じゃないのでそれぐらいは我慢できる。
そんな事よりも記憶の状況がかなり悪い。
そもそもの発端は、オレの魔力容量が家の規定に足りなかった事、らしい。
さっき、神殿で……教会? どっちかな。
まあいいや。
とにかく神様を奉っている場所で職員のアルバイトみたいな……副業かな。
それでステータスを羊皮紙に印字するような仕事をしていてさ、知らない言葉……つまりは共通語じゃない言葉をムニャムニャと言った後で、確かステイタスとか言ってたっけ。
それで羊皮紙に焼印を押したみたいに焼けた文字が現れてさ、各属性の才覚の数値と覚えている魔法……これは無かった。
それと魔力量が出たんだ。
魔法が使えるのに覚えている魔法が表示されないのは変だと思ったけど、これは以前習った記憶からすると、その魔法に対する完全な理解が無いと登録されないとか、よく分からない理屈があるようだ。
しかも教会だか神殿だかでそれを申告して登録を神にお願いしなくてはならず、その手数料が云々ってところで思い出すのが嫌になった。
神の沙汰も金次第って世も末だな。
そうして肝心の魔力量は850でさ、これは3年間停滞していたろうから当時の数値って事になる。
いくら成長が鈍くても、3年あったら150ぐらいは伸びそうなものだけど、弟に護衛と言われて魔法の修練を止めてしまったのがどうにも悔しくて仕方が無い。
かなり弟を信頼して、弟の言うがままに行動していたようだけど、そこまでだとただのお人好しな記憶に過ぎない。
でまぁ、当然のようにクリア出来ずに……家の規定が1000らしくてさ、跡継ぎにはなれないって話だった。
それでも鍛えたら到達しそうなものだけど、15才(成人)以降の魔力の伸びはかなり悪いようで、成人で届かないなら普通は無理と判断されるらしい。
◇
納得出来ない。
記憶の整理の中、過去の自分が納得出来ない。
何の根拠も無く、魔法の才が無くても護衛してくれると嬉しいと言われて、どうして魔法の才が無いと思い込むんだ。
父親には弟から頃合を見計らって話すと言われて、どうしてそのまま任せてしまうんだ、自分の人生なのに。
もう手遅れな事は諦めるしか無いってのに、どうしても納得出来ない。
12才で予備検査ってのをやるらしく、そこで貴族なら正式な検査で数値を出すらしいんだけど、どういう訳だか簡易測定にしたらしい。
その測定魔導具が妙にシビアでさ、設定数値が1でも足りないとクリアにならないんだ。
まあその理由も記憶にあった。
簡易測定は主に平民が生活魔法を覚えようとする時に、全ての属性を才覚1にしないと覚えられないらしく、設定を1にして生活魔法用の教本を読ませ、クリアしたら次の属性とやって覚えさせる為にシビアにしてあるらしい。
平民には魔法の素養が無い人が多いらしく、才覚も最初はオールゼロっていう人もそれなりにいるらしい。
だけども教本を読んでいるうちに才覚が発生する場合もあるようで、しっかりと鍛えたらそれなりの才覚にはなるらしい。
それでも貴族のような足して100にするにはかなりの金と時間が掛かるようで、余裕の無い平民ではやる人はいないらしいな。
そもそも、才覚オールゼロだと魔力もゼロなので、15才までに才覚を上げないと魔力の伸びは絶望的になる。
だから大商人の息子辺りが親の財力にものを言わせての英才教育ぐらいしか、それなりの魔法使いにはなれないって話だ。
そこまでしても爵位が無いと出世できないので、冒険者になるぐらいしか生きる道がない。
だからそんな事の為に息子を鍛え上げる大商人もいないので、平民の魔法使いは稀って事になる。
それはともかく、教会の測定魔導具っておかしいんだよ。
確かに貴族には家ごとに規定魔力量が決まっていて、それを設定すれば基準に足りているか足りてないかはすぐに分かるんだけど、努力目標には向かないんだ。
つまり、1でも足りなければ反応しないので、実家のような規定1000の場合、ゼロなのか999なのか分からないんだ。
んで12才の頃にその測定器で簡易測定になったんだけど、オレは反応しなくて弟は反応したと。
そこで本格的な測定をやっていれば850って数値が出たはずなのに、簡易用の魔導具なんか使うからあんな事になっちまったんだな。
ちなみに簡易測定は金貨1枚であり、20進数のこの世界では銀貨20枚に該当する。
それで銀貨1枚が大体2000円ぐらいの価値になるのかな。
つまり、銅貨1枚が100円ぐらいの価値になるようだ。
そうして平均物価はかなり低いようで、平民の所得もそれに比例するらしく、一家4人として、月額銀貨10枚ぐらいが収入となると、その倍の額は高額となる。
いかに簡易でもホイホイとはやれない検査となると、15才の成人の時に簡易でついでに才覚オール1にするのがお得と思うのか、生活魔法を覚える覚えないに関わらず(生活魔法習得は金貨5枚の専属講師による教育が一般的だが、たまに自力で覚える者もいるらしい。そうして平民は自力習得じゃないとお金が無いので、未習得のままの場合が多い)、教本の朗読はよくある事らしい。
だけど貴族ともなると12才の予備検査も本式で行って、将来的に跡継ぎとして育つ可能性があるか無いかを調べるようで、数値が半分にも満たなければ大抵は跡継ぎから外されるとか。
うちもそうなら問題無かったんだけど、どういう訳だか簡易測定になっちまって、何故か同行していた弟も測定して、こちらはクリアになったんだ。
2年後に測定になるはずの弟が同行しているって時点でおかしいと思わなかった当時のオレは相当のお人好しだろうし、それを許した父親もおかしいとしか言いようがない。
簡易にするぐらい貧乏ならそもそも連れて行く訳が無いし、2年後に測定するなら2年前にする意味が無い。
本式で1人金貨10枚と知っていたから、余計に変だと思わないとおかしいんだ。
ああ、もしかしたら、順調に記憶が戻っていれば、5才ぐらいで完全に記憶が蘇っていて、記憶付き転生ラッキーとか言いながら、厨二の知識で魔法をガンガン磨いてさ、弟の姦計とかぶっ潰してさ、次期当主の道を歩いていた可能性もあるだけに、どうにも残念でならないよ。
まあ、元は平民みたいな記憶だし、今のほうが気楽ではあるけどさ。
さて、お師匠様の家に転がり込んで、居候を決め込みますか。
姐さん、今行きまっせ。